ジュネ&キャロ作品  JEUNET&CARO FILMS




『デリカテッセン』 DELICATESSEN 1991
 ジュネ&キャロに初めて出会った作品です。
 舞台は近未来、最終戦争後のパリ。食料難で配給も不足し、生きるために食料争奪戦の日々。新聞の求人広告を見てやってきた元ピエロのルイソンは、精肉店のアパートに住みつき主人の娘ジュリーと恋におちるが、実は主人と住民の狙いは「食料肉」の確保であった。ジュリーはルイソンを助けるために謎の地下組織である「地底人」と接触するが・・・。

 シュールでブラック・ユーモアのきいた物語です。不気味さと道化が同居する奇妙な世界には、毒はあっても嫌味のない不思議な魅力があります。ナイフをとぐデリカテッセンの主人役、ジャン・クロード・ドレフェスの存在感、いつもちょっと困ったような表情のルイソンの飄々とした振る舞い、かわいいくらい一生懸命だけど全てが不器用なジュリー、そして、非常に個性的なアパートの住民達。

 ラストに雪崩れ込む大団円はお見事。すべてが終わって、屋根の上で演奏される二重奏の音色にこの映画のカラーが象徴されている気がします。



『ロスト・チルドレン』  LA CITE DES ENFANTS PERDUS 1995
 記憶の奥の片隅にそっとしまっておきたいいとおしい宝箱。
 そんな大切な宝箱を広げて、夢という言葉の磁石に引き寄せられたありとあらゆる手掛かりを集めて創りだされたような、シュールでファンタジックな世界。『未来世紀ブラジル』やブラッドベリの世界の手触りにも似て。

 子供たちの夢を盗むマッド・サイエンティスト。一つ目教団に弟を連れ去られた怪力男ワンと泥棒孤児院から逃げ出した”現代のアリス”ミレット。蚤使いマルチェロの手回しオルガンの音は物悲しく、青緑色の海には秘密の隠れ家。

 サンタクロースの悪夢に始まり、すみのすみまで凝りに凝った映像が描き出す独特な世界に飲み込まれてしまいます。すべてが寓話的でゴチックな美しさに満ちていて、心中あれこれと思いは飛びかうのだけれど、でも、そう、ミレットの一粒の涙を見るとき心はからっぽになるのです。

 6人のクローン(+1人)を演じ分けるドミニク・ピノンは真の役者ですね。『デリカテッセン』の精肉屋の主人、ジャン=クロード・ドレフェスともうれしい再会でしたし、シャム双生児も印象的。もちろん、しゃべらないワンと妖しい魅力さえ醸し出す少女ミレットのコンビも素敵です。

 どうか今夜もよい夢を。夢を見ないと、早く年をとってしまうのですから。



『エイリアン4・復活』 Alien-resurrection 1997  
 一作目の「エイリアン」はすごい映画だとは思いますが、シリーズ自体はそれほどお気に入りの映画ではなく、今回はジュネ監督作品ということで劇場まで足を運びました。

 リプリーがクローンとして復活させられるところから物語は始まります。エイリアンを武器利用しようなんて「あーた、エイリアンの怖さを知らないわね」っていう展開ですが、リプリーと新エイリアンの関係、エイリアンと共闘することになる密輸団グループの若き美女コールの謎と盛り沢山。リプリーであってリプリーでないあらたな役づくりに挑戦したシガーニー・ウィーバーの迫力、複雑な役を見事こなしたウィノナ・ライダー、そしてジュネ監督映画にはお馴染みの役者群が演じる密輸団グループの個性的な演技が光ります。

 グロテスクな中に美を感じさせる映像を見事につくりあげたジュネ監督。とりわけ水中をエイリアンが追ってくるシーンは怖さを忘れて見惚れるほど美しいです。まさかこんなエイリアン映画が見れるとは・・・さすがです。

 物語の背景には今までのシリーズからの時間の経過もあり、奥行きが垣間見られますが、全ては語られず、残りは次回作に持ち越されるという話もあるようです。でも、むしろ語られなかった部分や未決着の部分にこそ、深い余韻を感じさせる充実感がこの作品にはあったように思います。

 3までに「もうエイリアン・シリーズはうんざり」と思った人にも一見の価値あり。



『アメリ』 Amelie 2001  
 ”幸せ”なんて縁がないとお嘆きのあなた、ここに\1800で買える幸せがあります。どうぞ、映画館に足を運んで『アメリ』を観て下さい。

 上記で言いたいことは全て。だって、もうただただ、パンフレットながめながらにこにこしているわたしに何を語れと。
 え、もうちょっと具体的に言ってくれないとわからない? 
 しょうがないなー。

 ジャン・ピエール・ジュネといえば、マルク・キャロと共同で作り上げた『デリカテッセン』でデビュー、同じく不滅の名作『ロスト・チルドレン』を世に送りだし、おまけに『エイリアン4』でも独特のスタイルを貫き通した監督。彼の最新作は、フランスで”アメリ現象”を巻き起こしたという、現代ファンタジー。

 元軍医のパパと元教師の神経質なママの間に生まれたアメリのお友だちは、空想の世界。学校にも行かず、友達と遊んだことのないアメリは、ちょっと変わっているけれど心優しく機転のきく子。一人立ちして、モンマルトルのカフェでウエイトレスの生活をしているが恋人はいない。ちょっとした”いたずら”でまわりの人を幸せにすることは得意な彼女も、自分のこととなると、どうも勝手がちがう。駅のスピード写真コーナーで、捨てられた写真を収集するこれまた一風変わった青年ニノとの出会いは、彼女になにをもたらすのか?

 全編通して絵画のような映画を撮った、というジュネ監督の言葉通り、細部に神経が行き届いていて、すばらしい映像です。ジュネ&キャロ共同監督の作品のダークなグロさは陰を潜め、ちょっとレトロな、思わず「あれ、ほしいー!」と叫びたくなるような小物がちりばめられている美しい映像。色彩もさすがフランス人というか、嫌味なくかわいく赤を使うのは結構難しいのに、アメリはなんと赤がよく似合うことか。

 他人とのコミュニケーションが苦手なアメリは本当にかわいくて、一緒に泣き笑いしてしまいます。(一番笑ったのは言うまでもなく、ニノが時間になっても来ない理由「きっと彼は」の世界ですけど(笑)。)
 最後はもちろんハッピーエンド。
 観終わって劇場を出てくる人々はみんな一番いい顔をしているんじゃないかな。

 ヤン・ティルセンのキュートでノスタルジックな音楽も楽しみの一つ。

 映画がお気に召した方は、ジュネ監修のオフィシャル・ガイドブック『アメリのしあわせアルバム』(ソニー・マガジンズ)もお手にとってみてください。\2600(+tax)と若干お高いですが、それだけの価値はあります。

『ヴィドック』 VIDOCQ 2001  
 今をときめく(?)『アメリ』の監督ジャン=ピエール・ジュネと組み、『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』『エイリアン4』などのビジュアル・エフェクトを担当したピトフの初監督作品。ジュネの相棒、キャロもキャラクター・デザイン担当として参加しています。

 1830年7月、パリの街に「ヴィドック死す」の報が流れる。大泥棒でありながら、警察の協力者となり大きな功績をあげたあげくに、警察から追い出されて私立探偵となった英雄ヴィドック。彼はガラス工場で謎の怪人と戦い、炉の中に突き落とされたのだった。ヴィドックの相棒ニミエの元に、ヴィドックの伝記の執筆を請け負っていたという作家エチネンヌが訪ねてくる。ヴィドックの復讐をしようというエチネンヌに促され、ニミエはヴィドックが追っていた事件の捜査について語り始める。

 ヴィドックとは19Cに実在した、脱獄犯でありながら警察の密偵となり、あげくに私立探偵になった、というフランス人なら誰でも知っている伝説のヒーロー、なんだそうです。『レ・ミゼラブル』の主人公、ジャン・バルバンのモデルがヴィドックと言われると「なるほどー」と思うところはありますね。フランス革命まっただなかの混乱期の話、という背景がぴんと来ると、物語に奥行きが生まれておもしろいと思います。

 前半はわりとまっとうなミステリー展開ですが、そこそこ映像が楽しめるくらいで、ヴィドックの回想シーンとエチネンヌとニミエの後追いシーンとが混在している上に、これといってキャラがたっていないのでやや退屈。途中から捜査の結果でてきた方向にうさん臭さが加わり、後半は実はかなりトンデモだったりします。
 ヴィドックが犯人のアジトを突き止めたシーンからがお楽しみのショウタイムで、「これでもか」という作り込み映像と意味なく手に汗にぎる大技アクションに、「いや、まさか!?」な展開。見ながら「あれかな、これかな?」と、わくわくできる引き出しをもっている人は楽しめるんですが、それがないと「なにこれ?」と思うはめになる可能性もあり。わたしなんぞは、アジトの映像(結構陰惨なんだが美しい)だけで「お代の対価は頂きました(合掌)」と思ったクチだし、その後の展開も存分に楽しめましたけど(笑)。
 要するにかなりニッチな市場受けする映画であって、配給側はおそらく「スリーピー・ホラー」路線のマーケティングを狙っているけれど、イカポッドほどお茶目なキャラクターはいないし、ティム・バートンほどのネームもないから、日本でメジャー受けを求めるのはちょっとつらいね、という感じ。

 『ロスト・チルドレン』ときいてときめく人はとりあえず観に行くべし。『アヴァロン』を観て映像美を感じた人も行かないといけません。全編ハイビジョンデジタルカメラ撮影の「自分のヴィジョン通りの映像を創り出す」ことに心血そそいでいるスタッフの心意気に共鳴してください。

 (それにデュパルマ目当てで間違ってみにいく人をあわせれば、そこそこの集客にはなるかなあ。マルク・キャロの「スナーク狩り」の映画化「Sn@rk」のシューティング予定があるので、その公開のためにもがんばってほしいものです。と言いたくなるくらい、地方劇場の入りはぱらぱらだったのよね。。。)


番外
○ジュネ&キャロのオフィシャルサイト Site de official Juenet & Caro
今のところフランス語バージョンのみのようですが。

○マルク・キャロの音楽活動についてはこちら
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