スタンリー・キューブリック作品  STANLEY KUBRICK FILMS



1999年3月7日、スタンリー・キューブリック監督逝去。
幻となってしまった『AI』の製作・・・『2001年宇宙の旅』から30年余りの間に進歩した技術を駆使してキューブリックマジックはどんな映像を作り上げただろうか、と思うと本当に残念でたまりません。


『2001年宇宙の旅』 2001: A SPACE ODYSSEY  1968
 SF映画の金字塔。「永遠不滅の」という形容詞は言い尽された感があるこの作品ですが、思いおこすとやはり他に代わる作品はないなあと思います。

 人類の夜明けに地球に出現したモノリス(黒石板)が、三百万年後、今度は月面で発見される。宇宙船ディスカバリー号は乗務員にも目的は伏せられたまま、モノリスから発信された電波を追うべく航海の旅にでる。ディスカバリー号のコンピュータ、ハル9000の反乱を生きのびたボーマンが出遭ったものは・・・。

 私が初めて見た時には既にスペースシャトルが実際に宇宙を飛ぶ時代でしたが、「古びた」という感じは全然しませんでした。”宇宙”を感じさせ、”神(のような何か)”の存在を感じさせる映像に、ただただ酔いました。言葉で説明できないものを伝えるべく「視覚体験」を意図して製作されていますが、せりふのほとんどない映像がもたらす影響力のすごさを実感します。「ツァラトゥストラはかく語りき」、「美しく青きドナウ」など映像と音楽のコラボレーションも忘れることができません。

 小説版『2001年宇宙の旅』を読んで一つの解釈として「納得」したこともありましたが、その後時間をおいて映画を何度も見ていると、説明がないが故の拡がり・奥行きがあり、見る度に違うことを考えている自分に気がついておもしろいです。



『博士の異常な愛情 又は私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』 Dr. STRANGELOVE OR: HOW I LEARNED TO STOP WORRYING AND LOVETHE BOMB  1963
 偵察の任についていた米軍機に一つの指令が届く。それはR作戦、すなわちソビエトへの核攻撃命令だった。いったん作戦が始動すれば、止められるのは暗号指令のみ。一人の空軍司令官の発狂は、世界を破滅の道へと誘う・・・。

 「むくわれない努力」という言葉でまっさきに思いだすのが、この映画にでてくる爆撃機の乗員です。味方の大統領から「撃墜してくれ」と言われているとは露知らず、機体破損にもめげずに「ミッション」を遂行しようとする熱意=狂気。

 製作年1963年といえばキューバ危機の翌年で、それこそ笑うに笑えない時代だったわけですが、ソ連という国がなくなった世紀末の現在もキナ臭い世の中であることは変わらず、このブラックさが意味をもたなくなる時代が果たしてくるのでしょうか。



『時計じかけのオレンジ』 A CROCKWORK ORANGE 1971  
 舞台は暴力あふれる近未来。
 少年ギャンググループのリーダー、15才のアレックスは夜な夜な暴れ放題。
 仇敵のグループと大乱闘を繰り広げたかと思うと、郊外の一軒家を襲って乱暴狼藉をはたらく。しかし、ある日、アレックスは独り暮しの婦人を殺し、仲間の裏切りで警察に逮捕されてしまう。刑務所でアレックスは模範囚となり、政府が進める人格矯正療法の実験材料第一号となることで自由の身になろうとする。その療法は一種の洗脳療法であり、無理やり映画を見せ続けることで、生理的に暴力やセックスが耐えられないような体質に改造してしまうものだった。実験は成功しアレックスは釈放されるが、もはや我が家に身の置き場はなく、警官となった昔の仲間に袋叩きにされた果てにたどりついた家で、反政府運動のリーダーと”再会”し、意外な展開に・・・。

 80年代、90年代の映像に慣れてしまうと話題になっていた”暴力”シーンも「たいしたことはない」のですが、人間の”性(さが)”を問う問題作としての価値は今もって健在でしょう。2時間強、目が話せない展開。とりわけ後半は予想のつかないストーリーでした。

 サイケデリックな映像美はさすがキューブリック。
 ベートーヴェンといい「雨に唄えば」といい、音楽のシュールな使い方は絶妙です。
 万人受けする作品ではありませんが、「2001年」と対局というか、表と裏という感じがする作品です。



『シャイニング』 THE SHINING 1980  
 キューブリック監督作品で『2001年宇宙の旅』の次に忘れられないのがこの作品です。
 コロラド山奥のリゾートホテルに、冬期閉鎖期間の臨時管理人として雇われた一家が経験する、悪夢世界。

 オープニングからして、あの風光明媚な風景がなぜか怖い。
 でも、映像美が恐怖を凌駕してしまうところがあって、双子の女の子の幻影やエレヴェーターホールが血の海になるシーンなどはまさにそれ。血の海がどうしてエレガントに見えるのか不思議です。ホテルの内装も華美でなく上品な豪華さ。何度もでてくるホテルの廊下のシーンは、両側にドア、正面にもドアというシンメトリーな空間の閉塞感がオツです。

 主人公のジャック・ニコルソンの怪演ぶりも見物ですが、今見ると若いですね。彼が鬼気とした表情で追ってくるシーンよりも何より一番ぞーっとするのは、妻がタイプライターの文字を見るシーンでしょう。この演出だけでもこの映画を見る価値があると思います。

 しかし、助けにきてくれたけど・・・の黒人コックさん、武器の一つももっていかんかい、と思ったのは私だけでしょうか。あと、いくら使ってないからといってあのただっぴろいホテル内をチリ一つない状態に保つのは大変でしょうね(^^;。

その他作品

『非情の罠』 KILLER'S KISS 1955
『現金に体を張れ』 THE KILLING 1956
『突撃』 PATHS OF GLORY 1957
『スパルタカス』 SPARTACUS 1960
『ロリータ』 LOLITA 1962
『バリー・リンドン』 BARRY LYNDON 1975
『フルメタル・ジャケット』 FULL METAL JACKET 1987 など

遺作『アイズ・ワイド・シャット』は99年8月日本公開予定

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