『ハムレット』 HAMLET
現代によみがえったシェイクスピア悲劇「ハムレット」。
中世の国家デンマークは、2000年NY、マルチ・メディア企業として名高いデンマーク・コーポレーションへと舞台を替え、社長の死後、社長婦人と再婚し新社長に就任した弟クローディアスに対し、父の亡霊と出会った息子ハムレットは復讐を誓う。
デジタル感覚のスタイリッシュな映像は、観客に物語の展開が周知であるにも関わらず(あるいは周知だからこそからこそ?)、密やかでスリリングな興奮を与えてきます。「ハムレット」という題材を忠実に使って違和感がないどころか、シェイクスピア作品の普遍性を見事に表現しつつ、独自の作品として精彩を放つ映像を確立させています。
ハムレット役のイーサン・ホークもよかったけれど、亡霊のお父さん、サム・シェパード、かっこいい〜(笑)。ポローニアス役のビル・マレーは相変わらず独特のいい味だしていました。
やっぱりおもしろいと思うツボは、大仕掛けのセットじゃないんですよね。センス、と言ってしまうと軽くなってしまうけれど。個人的には、数あるシェイクスピア現代劇の中でも、このめちゃめちゃかっこいい作品を大プッシュ。
『ホテル・スプレンディッド』 HOTEL SPLENDIDE
本島からフェリーが訪れるのは一ヶ月に一度。海に囲まれた離島にぽつんと存在する”ザ・ラスト・リゾート”、ホテル・スプレンディッド。このホテルを築き上げた故・ブランチェ夫人の後を継いで、長男デジモンドが支配人、次男ロナルドがコック長、長女コーラが治療責任者という家族経営のホテル。
出て行くお客もいなければ、めったに新しいお客も来ないというこの島に降り立った一人の女性・キャス。彼女はこのホテルの元従業員でロナルドの恋人だった。
彼女に捨てられたと誤解しているロナルドがストライキの挙に出たため、キャスがコック長として調理場に立つ。お客がロナルドの魚料理より、キャスのイタリアンを選んだ時、不動の城だったこのホテルの基盤が揺らぎ始める。
物語の核はよくある話で、直近だと『ショコラ』がよく似ています。ただ、この作品のおもしろさは、舞台設定がちょっと変で、登場人物もかなり変なところですね。この島は、本島のメインカルチャーから切り離されて独自の発展を遂げてきたという設定なので、食事の時間に故・ブランチェ夫人の声が流れるのはアナログレコードからだったり、夫人が発明したアンティークなメカデザインの排泄物を燃料としたボイラーシステムがあったり。デズモンドは人形遊びをするマザコン、父親は拘禁服を着て娘に鞭打ち治療をさせるマゾ、コーラは母親に吹き込まれた自分の身体の欠陥に悩む神経症っぽいし、コーラに惚れているロシア人のお客は「日光嫌悪症患者」。とっても変だけど、ユーモラスでグロイ感じはしません。
映像のこだわり加減もわたしは結構好みで、一癖も二癖もあるファンタジーものが好きな人は、わりと楽しめるんじゃないかと思います。
キーパーソンの一人、一番若いお客で「水嫌悪症」のスタンリー役、ヒュー・オコナー(『ショコラ』の若い神父役だった人)の演技は非常によかったです。
『鮫肌男と桃尻女』
石井克人監督の商用映画デビュー作。確かに『Party7』よりずっとおもしろい。『Party7』が「焼き直し」とか言われてしまうのも一理あるかも。
やくざ組織から1億円を盗んだ鮫肌は追手に見つかり、山奥のホテルからパンツ一丁で逃げだすはめに。鮫肌を追いかけるヤクザの車にたまたまぶつかってしまったのは、近くのホテルに勤めるトシコが運転していた車。トシコは偏執的な叔父・ソネザキの支配に我慢できず家出してきたところだった。二人は一緒に逃げることになるが、ヤクザに加えて、ソネザキが雇った殺し屋”山田くん”が追い掛けてくる。
とにかく登場するキャラクターのアクが強い。ホーロー看板マニアのヤクザ・岸部一徳、犬並の嗅覚をもつ組長のドラ息子・鶴見慎吾、神に出会ってしまった下っぱヤクザ・寺島進、ホテルのフロントで気持ち悪〜い雰囲気を醸し出しているソネザキ支配人・島田洋八。極め付けが唖然とする濃さの殺し屋”山田くん”・我修院達也(若人あきら)。原作がコミックだからかもしれませんが、実写でこんなキャラクターを本当に演出しちゃうんだ!!! と思うとともに、それが上手くはまっているところがすごいです。
鮫肌・浅野忠信はむしろこの濃い集団の中でふわっと浮いていて、その対比バランスがよかったのかも。思い返すと私の最初の(『五条霊戦記』を観る前の)浅野忠信イメージはこの映画のポスターで、「むさい」「にやけている」だったんですね(笑)。でも、本編ではとってもチャーミングな演技で、これは確かに若い女の子に人気出るわ、という感じ。
音楽もビートがきいていてかっこいいです。担当したDr. Strange Loveというバンド(ユニット)は奥田民生のステージサポートなんかもやってるみたいですね。
絶対私の好みじゃないと思って今まで観ていなかったんですが、もったいないことをしていました。わたしてきにはリピート鑑賞に耐える作品。
『Party 7』
「ああ、また変な映画観ちゃったよ・・・」
と、観終わって思わずつぶやいてしまいましたが。
ノゾキが趣味のオキタはそのせいで刑務所を行ったり来たり。やっと父の死に目に会うことができたオキタは、遺言に従い、父が所有している山奥のホテルに行く。そのホテルの一室「ノゾキ部屋」で、オキタを待ち受けていたのはキャプテン・バナナだった。キャプテン・バナナがオキタの父の思い出話を語るうちに、隣の部屋には組の大金を持って逃げ出してきたチンピラ三木が入室する。三木は潜伏するはずだったのに、昔の彼女カナが借金を返せと追いかけてくるし、カナの婚約者、続いて三木の兄貴分ソノダまでやってくる。さらに招かれざる客が・・・。
基本的にはギャク映画なんですが、ものすごく笑えるかというとそうでもないところがちょっと弱いのですが、豪華キャストが変な役をこなしているところが目玉かな。眼鏡で青白い顔、気が弱そうなヲタクっぽいキャラクター、オキタ役を演じるのは浅野忠信。この人ほんと役者としていいもの持ってますね。「僕と一緒にのぞこう!」と言い放つキャプテン・バナナという変態役は原田芳雄、チンピラ三木役は永瀬正敏。カナ役の小林明美は映画初出演というけれど、なかなかいい味だしてました。
オープニングのキャラクターをデフォルメしたアニメーションはすっごくいいですね。ストーリーはほんとおバカな話なんですが、ラストのオチ(お金の行方)が私は気に入りました。
石井克人監督は『鮫肌男と桃尻女』の方がだんぜんおもしろいという評が多いようなので、こちらも観てみようかな。