『タイタス』TITUS
シェイクスピアのあまり知られていない戯曲『タイタス・アンドロニカス』を、ミュージカル『ライオン・キング』の演出でトニー賞を受賞したジュリー・テイモアが映画化した作品。上映当時の派手な宣伝には惹かれるものがあったし、確かに大きなスクリーンで観るべき作品であることは間違いないのだけれど・・・。
ローマの名高き武将タイタス・アンドロニカス(アンソニー・ホプキンス)はゴート族との戦いから、ゴート族の女王タモラ(ジェシカ・ラング)と3人の息子を人質にローマへ凱旋帰国。この戦いで死んでいった自身の息子を含めるローマ兵たちの魂をなぐさめるため、タモラの命乞いもものともせず、タモラの長男アラーバスを生贄として殺してしまう。
それを恨んだタモラは、新皇帝サターナイナスの寵愛をうけ、タイタスに復讐計画を練りはじめる。手始めはタイタスの娘・ラヴィニア。タモラの愛人でムーア人のアーロンとタモラの息子たちは陰惨な狩りを楽しむ。
俗物の皇帝に忠義を示したためにタイタスは自分の息子を殺すはめになった上に、タモラの罠にはまり、大事な人々を奪われていく。そしてついにタイタスはタモラへの復讐を誓う。
憎しみが憎しみをよび、復讐が復讐をよび、かくて悲劇が繰り返される、というのはシェイクスピア劇ではお馴染みのテーマですが、この作品にはいわゆる”正義の勝利”と呼べるようなものがないところが、極端に上演数が少ない理由であり、同時に人間の本質がもっとも深く描かれている作品と言えるのかも知れません。
古代ローマと現代が入り乱れる映像や凝った衣装、登場人物の独白が挿入される戯曲的な演出など「意欲的な演出」であることは間違いない思うのですが、うーん、私のツボはちょっとづつきっちりはずしてくれましたね。素材的には悪くないんですが、組み合わせが中途半端というか、きれいにまとまりすぎている気がします。なまじ「もしかしてグリーナウェイ?」的な映像があったりすると、はめはずすならもっとグロテスクにいっちゃってもらわないとねえ・・・と思ったり。(その方が不快感は減るんじゃないかな。)
その中でアンソニー・ホプキンスの演技は素晴らしい。タイタスというキャラクター自体の演出がいいとは必ずしも思えないのだけれど、でもトータルコーディネーションとは別にシーン、シーンの演技には鬼気迫るものがあります。彼に肉きり包丁持たせちゃいけません、って(笑)。
タモラ役のジェシカ・ラングは、年齢を考えるとすごい。(でもどこが魅力的なんだろう?) その馬鹿息子の片割れ、カイロン役のジョナサン・リース・マイヤーズは、うーん、なんか普通の人になっちゃった気がするのは役柄がいけないのかしらん。(『ベルベット・ゴールドマイン』はやっぱり一瞬の幻なのかと思ったり。)
おもしろかったけれど、期待したほどわたし好みではなかったです。
『ペパーミント・キャンディ』Peppermint Candy
新緑の緑あざやかな景色の中、一本にのびる線路を背景に、一人の頬の痩けた男が、なんとも言えない表情で拳銃を自分のこめかみに向けているポスターを見かけて気になっていた韓国映画。
20年ぶりにかつて工場で働いていた同僚たちが集まって河原でピクニックをしている。そこへ一人の男が乱入。連絡の取れなかった仲間だが、絶望の淵にいる彼の言動はおかしい。何が彼をそこまで追い込んだのか? 映像は過去へ過去へと遡ってゆく。
スタイリッシュでいい映画なんだけど、ちょっとばかり観たことを後悔しそうなくらい苦かった。過去を振り返って「帰りたい」と叫ばれるのはつらいですね。まあ、それくらい観る側にせまってくる映画だったともいえますが。
主人公は工場勤めから兵役、警察、ベンチャー企業家と転身しているのですが、韓国の社会変遷は、日本と似ているところもあるけれどやっぱり苛烈なのかな。学生運動が盛んだった日本の60〜70年代を知っている人はもっと身につまされるものがあるかもしれません。
主演のソル・ギョングは非常にいい役者ですね。
『天使のたまご』
押井守と天野喜孝による幻の名作、DVDで蘇る!
16年の歳月を経て尚この作品は孤高の地位を保っています。
たまごを抱いた少女が、巨大な銃をもった少年に出会うとき、それは終わりでありはじまりである瞬間へのプロローグ。
「たまごは割ってみなければその中に何が入っているのかわからないものだよ。」
伝説の光景を夢で見てしまったような。一度見てしまったらこの夢から逃れられないような。いや、”現実”と信じていたものがこの夢に侵食されるような・・・。
75分で約400カットという掟やぶりのアニメーション。静と動、動く必然性と動かない必然性とがきちんと掛け合わされた結果、驚くべき効果をもたらしています。
もう他の作品なんてどーでもよくなってきますね。仮に、押井守も天野喜孝もこの作品のためだけに存在した監督でありイラストレーターであったとしても、私は一向に構わない。(もちろんお二人の他の作品もちゃんと評価しているけれど。)
幻想系な方で見逃している人は必見。私のように立続けに3回見てしまうといった急性幻想中毒症状が出る危険もありますのでご注意を(笑)。
『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』Knockn' on Heavens's Door
今さらだけれど、これはいい! すごくいい!
エンターテイメント性と物語性とが良い加減にブレンドされていて、かっこいい仕上がりです。
病院で同室となったマーチンとルディは、二人とも余命いくばくもないと宣告されたばかり。「天国ではみんな海の話をするんだ」と語るマーチンに、ルディは海を見たことがないと告げる。それじゃ、海を見に行こう、と病院の駐車場から車を盗んで海を目指す二人。ところが、その車の持ち主はギャング。しかも車のトランクには百万マルクの現金が入っている。そんなこととは知らない二人は、軍資金調達のため、ガソリンスタンド、銀行と襲い、警察とギャングと双方から追われることになる。なにせ死を宣告された二人はこわいものしらずで・・・。
ユーモアはあるけれど、ギャグ主体の映画ではない。死を目前としたシリアスな状況だけれど、お涙頂戴式のおしつけがましい深刻さはない。オーバーな演出ではなく、小気味良い演出がポイントだと思います。主人公二人とも、ぱっと見、それほど惹かれるものはないのだけれど、だからこそ余計に、作中の表情にはっとさせられます。ごくごく自然に感情移入していたから、そのこと自体に気付かなくて、最後ぽろぽろ泣いてしまったけれど、これがまたくやしいくらいかっこいい映像なんだな。バックに流れる"knocking on heaven's door"がダブルパンチだし。
ちょこっとだけ登場して、いいところをさらっていくギャングの大ボス役としてルトガー・ハウアーも出ています。
ああ、海が見たくなっちゃった・・・。
『イグジステンズ』eXistenZ
『アヴァロン』で沈没したにもかかわらず、性懲りもなくこーいうものを見てしまうのはなぜなんでしょうね。まあ、でもこちらはわりと客観的に引きずり込まれることなく見終わりましたが。
アンテナ社のゲームデザイナー、アレグラの開発した”eXistenZ(イグジステンズ)”は、ヴァーチャルリアリティを使ったまったく新しいタイプのゲーム。その発表会で、アレグラが銃撃を受け、アンテナ社の見習社員パイクルは彼女を連れて会場から逃げ出す。犯人の正体はわからず、アレグラの首に多額の賞金がかけらていることを知った二人は、下手に本社に連絡することもできない。
新作ゲームのたった一つのオリジナルが入ったゲームコントローラーは発砲のショックで故障しかけており、状況を確かめるためには、アレグラとともにパイクルがプレイしなければならない。パイクルの身体にバイオポートを開け、二人はゲームの世界にはいっていく・・・。
クローネンバーグの、隠喩とメタファーな解釈がいろいろできそうなエロとグロな世界は相変わらずですが、そもそもゲームの世界と現実との境界がわけわかな作りになっているので、「げっーーーー」というほどには実体感が希薄な感じ。ゲームにリアリティを求める欲求が自分の中にないせいかもしれないけれど、現実が揺らいでいく、というよりは、むしろ夢だとわかっているのに覚めることができない悪夢の連続と、受け止めてしまった私はもしかしたら少しずれているのかも。私自身は、その中途半端なもやもやした感覚を楽しみました。中華料理店での食事のシーンとか、工場のシーンとか、いいですよー、この雰囲気。守るべき現実なんて確固たるものは存在しないんじゃないか、というお気楽感に私なんぞは至ってしまったラストも好きですね。
ジュード・ロウもおもしろい映画にでるなあという感じですが、こういう世界になじみのないジュード・ロウファンが観るのはちょっとつらいかも(笑)。(でも、白いスーツ姿のジュード・ロウしか観る価値がない『リプリー』よりは、個人的にはこちらの方が10倍お勧めです。)
『マグノリア』Magnolia
予告編はとってもおもしろそうだったので楽しみにしていたのですが・・・。
けっしてつまらなくはないです。3時間あまりの長さですがほとんど退屈しません。
がっ、しかしっ。「予測できないラストの奇跡と感動」みたいな宣伝文句から予想していたものとは、ずいぶん違うなあと。たしかに、全然かかわり合いがなさそうな登場人物たちが、たどっていくと一本の線できれいにつながって、超自然現象みたいなのも一応起きるんですが。でも「偶然のおもしろさ」というほど、意外性に口あんぐりってところがないんですね。
登場人物がみんな自分勝手に不幸に見えてしまって、ラストでそこからの再生と希望を歌われても、"So What!"って思ってしまう私は心に余裕がないんでしょうか。だって、30年後には、あの警官さんもまたぞろ「後悔している」って告白しているかもしれないし、天才少年くんもただの落ちぶれ果てたおじさんになっているかもしれないじゃないですか、ってあまりにネガティブ思考かしらん。
人格改造セミナーの教祖役、トム・クルーズの演技は一見の価値あり。全然好きなタイプではないのだけれど、『トップ・ガン』の頃からは想像がつかないほど、上手いなあと思わせる役者に成長しましたよね。
『Gーセイバー』G-SAVIOR
「機動戦士ガンダム」20周年を記念して製作された日米合作実写ドラマ。
昨年のSF大会での上映は見逃したのですが、年末のテレビ放映でやっと見ることができました。
一番最初のガンダムの時代から200年ほど未来という設定。
主人公のマークは元地球議会軍MS(モビルスーツ)パイロット。
マークは勤務先の深海農業研究施設への侵入者・シンシアから、食料難の人類を救う生物発光(これがあれば海底でも食料が栽培できる)の実験を行っていた博士が行方不明になり、実験の成功が隠蔽されていることを聞き、事実を確かめようとするが、逃亡の手助けに、警備員の殺害容疑までかけられ、反逆者として追われる身となってしまう。
シンシアの仲間とともに、宇宙コロニー、サイド4に辿り着くが、独立宇宙コロニーVS地球議会軍の対立にマークも巻き込まれ、最新型モビルスーツ「Gーセイバー」に乗り込むはめになる。
要するに「歴史は繰り返す」物語なわけですが(笑)、アメリカで作られたものなので、登場人物も物語進行も実にアメリカ的。みんなわかりやすくていかにもエンターテイメント映画のキャラクターなんですね。「機動戦士ガンダム」って、あの主要キャラ全員屈折してるところが好きだったんですが(^^;)。
映像自体は、モビルスーツの動きを見ているとゲームの映像を見ているような気分になってくるのですが、全体としてはあまり違和感がなかったです。というか、同じガンダム世界と言われても時代が違うし、そもそも同じものを期待していないので。
この作品、自分としては別に見ても見なくてもよかったものだなと思ったりしますが、少なくともあの「ガンダム」が世界進出してこんなものまで作られてしまうようになった、という点だけは素直に感慨を覚えます。