『戦闘妖精雪風 Operation1』
日本SF界に超然と輝く神林長平の小説『戦闘妖精雪風』およびその続編にあたる『グッドラック』のアニメ化作品第一巻。原作ファンとしては、興味と不安と半々でしたが、第一印象としては「よく出来てるなあ」という感じですね。
空の色を見た瞬間に、「あ、フェアリイ星だ」と思えますし、メカ、脚本ともに押さえるべきところがよく押さえてあり、作り手の原作への愛をひしひしと感じます。スピード感のあるドッグ・ファイトの動のシーンと、ブッカー少佐と零のやり取りなどの静のシーンとが、うまく組み合わされていて、全体的に淡々とした作品の雰囲気を壊さずに、かつ流れのよい構成になっています。芸細かく、実写カメラアイと同様の視線でひいたり寄ったり流したりしながらシーンが描かれているので、立体的で奥行きが広がって感じられる映像です。零の傷口から染み出る血と雪風の機体から流れるオイルが重なるシーンや、ジャムの擬態が崩壊していく様など、圧倒的にせりふが少ない構成の中で無言の演出にも非常に重きが置かれています。
人物のキャラデザをみたときには、自分のイメージとのブレがありましたが、実際絵の中で動いて、声がついているとすごくはまっています。クーリィ准将は予想より「エレガント」な外見だったかな。ショートヘアで襟のつまった軍服のイメージだったので。食えなさ加減は誠にグーでした(笑)。
人物のせりふ回しは、意図的にかなり抑え目の作りになっているのはよく伝わってきますが、原作のぱさぱさの文章がない分、印象としてはそれでもずいぶんウェットな感じがしました。まあ、ストーリーを凝縮した脚本なので、軽口たたいている余裕がないですし、抽出されたものだけをつむいでかつ原作を知らない人にもきちんと伝えるという条件の元では、非常によくできた脚本だと思いますが。
メカについての論評はごろごろいるマニアの方にお任せしますが、素人目にはとにもかくにも細部凝りまくりという印象です。
音楽も目立ち過ぎず、かつ、とても効果的に使われていて、三柴さんのピアノは本当に素晴らしいです。ムッシュかまやつが歌うエンディングテーマだけは浮いてましたけど(^^;)。
とりあえず、この次の巻も買わねば、と思わせる出来でした。
Operation 2ではもう『グッドラック』のエピソードに入ってしまうようですが、確か全5巻だったように記憶しているので、そうなると、かなり『グッドラック』の内容を使うつもりなのでしょうか。映像にしにくいシーンが延々と続く原作をどう料理するのか、興味津々です。(この後も、切り捨てられるエピソードがあれば、付け足されるエピソードもあるでしょうが、「しずく、雨だれ、ほんの少し、ゼローーー零」は使ってほしいなあ。。。)
『ロック・ユー』A Kinght's Tale
気分爽快!
中世ヨーロッパの騎士トーナメントを題材に、自分の運命を変えるべく果敢な戦いを挑んだ、若者の恋と友情と対決の物語。現代のスポーツ&エンターテイメント感覚あふれる演出が実に上手い。
オープニング、民衆がQUEENの“We Will Rock You”を歌う、中世ヨーロッパの騎士トーナメント、槍突試合の場面。この演出がめちゃめちゃかっこいいんですわ。思わず一緒にノリたくなるような、エキサイティングな予感に満ちています。
騎士にあこがれた貧しい屋根噴き職人の息子ウィリアムは、身分を偽ってトーナメントに出場し、実力で這い上がっていくが、そこにあらわれる宿敵アダマー伯爵。「この世界では俺には勝てない」と言うアダマー伯爵の言葉をウィリアムは打ち砕くことができるのか!?
ストーリー展開は物語の王道でありながら、スリリングにみせる非常に良い脚本ですね。脇役の登場人物がとても生き生きしていて、物語を盛り上げています。常に感動するのは、ウィリアム本人というより、彼についていく仲間の言動だったりします。ウィリアムの紋章官として協力することになった、後の大作家チョーサーのからみもおもしろいです。試合の前に、プロレスのレスラー紹介のように、口八丁の口上をのべるところが最高(笑)。
騎士が名誉を賭ける”お姫さま”がでてくるのはお約束なので、まあ金持ちのきまぐれお嬢風でもなんでも構わないんだけど、これなら同じ着せかえ人形でもアミダラ姫の方がまし(^^;。もちろん、鍛冶屋のおねーさんの方は比較にならないほど”いい女”であることは言う間でもないけど。
それはともかく、最後の絶体絶命に追い込まれてからの一発逆転劇は、なかなかの感動ものです。(きゃー、かっこいい!)前半の伏線が見事に効いてますね。
過去を忠実に再現しても、現代のわれわれにはその当時のライブ感覚は伝わらない、という前提に立って、斬新な演出を行っているけれど、それがとても自然で、うまく現代語に翻訳されている気がしました。疾走する馬、くだける槍、落馬する騎士、と試合のシーンも迫力満点です。
QUEENの“We Will Rock You”(ほんと、歌詞そのまんまのストーリーなのね)始め、WARの"Low Rider"、DAVID BOWIEの"Golden Years"、QUEENの“We Are The Chanpoin”などなど、要所に流れる、'80年代ロックにも注目。
中世にロック? と顔をしかめてしまう前に、お試しあれ!
『ザ・カップ 夢のアンテナ』
地球の裏側で僧侶の修行をしていたって、サッカーワールドカップは観たい!
1998年、インドの亡命チベット僧院。修業僧といっても子供のやることは同じ、掃除の時間にコカコーラの缶を蹴って遊んだり、壁に落書きはするし、お勤めの時間にこっそり紙きれを回したり。サッカー大好き少年ときたら、夜中にこっそり抜け出して、村で唯一のテレビレンタル屋でワールドカップの試合をテレビ観戦。
夜間外出が見つかってしまったため、炊事当番を言い付けられた3人組。決勝戦を見るためにはどうしたらいいか? そうだ! 外出がダメなら、テレビを借りてきてここで見ればいい! さて首尾はいかに?
True Storyを元にかかれた脚本とのこと。わざとらしい演出のないあっさりした素朴さ、それでいて人間の物語としてのメッセージはじわじわしみてくるような感じでした。役者は全員素人ということですが、自然で奥深い表情にはとても心ひかれます。
最後に「登場人物たちのその後」がナレーションで簡単に語られますが、今、2002年のワールドカップを彼等がどんな風に迎えているのか想像すると、とても楽しくなります。
『ベオウルフ』BEOWULF
まあ、その、しらふで真剣にみる映画じゃないB級ものですが(^^;)。
英国の叙事詩「ベオウルフ」を下敷きに、舞台をテクノロジーが後退したはるか未来に移して、中世風プラス好き勝手なコスチューム&武器デザインにしています。
物語はシンプル。とあるさいはての城砦では、邪悪な怪物が夜な夜な城内の人々を食い殺している。城砦は、災いが外に向かわないよう軍隊に包囲され隔離されている。ある日、城砦から若い娘が逃げ出してくるが、軍隊に捕まり、断頭台で処刑されかける。そこへ、一人の男が現れ、娘を助け包囲網を突破し、城内へと入る。ベオウルフと名乗ったその男は、城へ助太刀を申し出る。邪悪なものにひかれて来たというベオウルフは何者なのか? 怪物はなぜ領主には襲いかからないのか?
脚本は凝ったところがまったくないので、ある意味安心して見ていられます。ベオウルフ役のクリストファー・ランバートはがんばってるけどやっぱり往年の勢いはありませんね。でも、体型はちゃんと保っているし、横顔とか後ろ姿とかちょっとドキドキって感じで、意味なくバック転の連続という活劇もまあ許してしまおう(笑)。
しかし、あの領主の娘の半裸衣装とか、妖女の正体の化け物デザインとか、センス悪過ぎ。
関係ないけど、『ベルセルク』の世界を上品な実写版にしてみました、という雰囲気は味わえます。
あと、音楽がPIGやKMFDMが使われているのも個人的には受けました(笑)。