2001年8月



『ドッグファイト』谷口裕貴 徳間書店
 第二回日本SF新人賞受賞作。
 辺境の植民惑星ピジョンには犬と精神感応することができる「犬飼い」がいる。ユスはその一人。ある日突然空から降ってきた地球統合府統治軍は、補給基地としてピジョンを占拠する。テレパスが指揮する軍用ロボットの前にばったばったと人々が死んでゆく中で、犬飼いとその犬たちはロボットの攻撃を混乱させる。ユスは捕われた幼なじみのクルスを助け出し、生き残り組でパルチザンが結成される。無謀に見える統治軍への戦いが始まる。

 「ガンダム世代小説」と言われると非常に納得してしまいます。ストーリー展開といいキャラクター設定といい、妙になじみを感じてしまうというか。三次元映像というより二次元アニメ映像が素直に浮かんできますね。だから、ラストもわりと許せてしまう。
 この作品、なにがすぐれているかというと、人間の描写より力が入っている犬の描写でしょう。犬が主人を守って死んでいくところなんて、涙なしには読めません。
 自分の読みたい小説か、と問われるとちょっと疑問ですが、でも、とりあえず読んでいる間は楽しめました。

 受賞後に書かれた短編「獣のヴィーナス」を読むかぎりでは、作者の方はなかなかおもしろいものをお持ちのようなので、今後どのような作品を書いてくれるのか期待したいところです。

 本筋とは関係ないけれど、「猫飼い」というのを想像して、猫側からコンタクトを切ることができるなら、訓練にはならないよなー、と思う私は、やっぱり犬の忠誠心より猫の身勝手さを好む猫派です(笑)。



『R.P.G.』宮部みゆき 集英社文庫
 建築中の建売住宅の敷地内で男性の死体が発見された。身元は、妻一人、娘一人の家族をもつ所田良介。調べをすすめるうちに、被害者がネット上で疑似家族の「お父さん」を演じていたことが明らかになる。被害者の娘・一美は、捜査の一環として、見覚えのある人が、父親の疑似家族、「お母さん」「カヅミ」「ミノル」の中にいないか、三人が警察で事情聴取を受ける場面を別室から見守る・・・。

 やっぱり宮部みゆきはストーリーテリングの天才なんじゃないかしらん。のせれれてしまうというか、止められなくて一気読み。でもその割には一週間たったらどんな物語だったかとっさに思い出せなくなっているのは、多分登場人物誰に対しても感情を揺り動かされなかったからでしょうね。

 家族とはなにか? なんて考え始めちゃうと深みにはまるような気がしますが、ネット上の疑似家族が、各々の役割について何を模範に演じていたのか、無意識のモデルは何だったのか、考えるとおもしろそう。SF大会で小谷真理さんが、戦後世代(自分の親)はアメリカ万歳で、理想の家族モデルをアメリカのホームドラマに求めたことに、現実とのギャップが生まれた、という話しをしていましたが、その後の世代は何がモデルなんでしょうね。(「サザエさん」ではないと思う(笑)。)疑似家族がどういう役割を演じたのか想像がつくわけだから、自分の中にもそういうモデルがあるのだろうと思うのだけれど。  



『ルー=ガルー』京極夏彦 徳間書店
 21世紀なかば。過度に清潔で無機的な都市に住む子供たちはモニター越しに世界を把握する。直接クラスメートと顔を合わせるには、週に一度の「コミュニケーション研修」の時のみ。
 カウンセラー・静枝の担当地区に隣接する地域で14-15歳の少女を狙った連続殺人事件が起こる。捜査協力という名の下に、強制的に生徒の個人データを警察に提供することを命じられた静枝は、事件に巻き込まれていく。一方、事件に関わってしまった生徒たちも、途中で舞台をおりることを許されないまま、事件の核心目指して突っ走っていく。

 他人と直接関わることなんてまっぴらごめん、という世界は、違和感と同時にリアリティを感じてしまいました。(ネット上で疑似家族やるキャラより、はるかにわかりやすい(笑)。)
 帯には「まったく新しい京極ワールド!」と書いてあり、たしかに舞台は違うけれど、でも京極夏彦はどこにいっても京極夏彦である、と思います。多少うっとおしいところはあるけれど、嫌いじゃないんだな、これが。
 前半は読むのに時間がかかったけれど、後半の怒濤の展開はテンポよく読めました。明かされる「謎」自体は全然おもしろくないのだけれど、そこにいたる過程と、それを生み出すキャラクターが楽しめますね。歩未はいい、実にいい!  

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