2002年1月



『異形コレクション マスカレード』井上雅彦監修 光文社文庫
 異形コレクションをきちんと読むのはずいぶん久しぶりという気がしますが、高野史緒はじめ気になる作家がめじろ押しなので、とりあえず頭からばりばりと読み進めました。短編とはいえ二十二作となると、結構体力いるなーという感じでしたが、以下特に印象的だった作品をあげておきます。

 倉坂鬼一郎「裏面」
 「先生」と「生徒」の哲学問答にしてはなにやら奇妙。と思っていると、おぼろげに浮かんでくるのは壮絶な世界。ある面SFとも言えるかも知れませんが、なによりかによりこのダークな幻想劇は独特で倉坂氏ならではの作品ですね。

 牧野修「スキンダンスへの階梯」
 これも牧野氏ならではの作品ですが、テーマとタイトルと構成とラストと見事に「はまっている」という感じ。”印象的”という以外になんと表現していいのかわかりません(笑)。

 芦辺拓「仮面と幻夢の踊る街角」
 <<怪人ニ十面相>>のパロディ風なようでいて、異世界と現世界がつながる物語となるところが、ひとすじなわではいかない作品。あっけに取られるラストに快感を覚えるか、ぶ然とするかは人によるかなという気はしますが、わたしは前者でした。

 朝暮三文「カヴス・カヴス」
 筒井康隆風の実験小説という感じですが、つい引き込まれます。

 田中啓文「牡蠣喰う客」
 アンソロジーということを忘れさせるほどの、強烈な作者の個性を吐き出している作品です。できれば中身は思い出したくない・・・(笑)。

 深川拓「白面」
 素直にミステリとして、謎にひかれる展開でした。

 高野史緒「スズダリの鐘つき男」
 40ページ弱ですが、ものすごく密度の濃い作品。読み終わった瞬間、「わたしはだれ? ここはどこ?」と口走りそうになるというか。見事ですね。

 こうしてあげてみると、かなりアクの強いラインナップですが、間にはちゃんともっとモデレートな作品がはさまっていますのでご安心を。



『ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンソン 早川書房
 本に呼ばれたというか、装丁に惹かれたというか、藤原ヨウコウ氏のこのイラストを見たらちょっと捨ておけないですよね。
 ニール・スティーヴンソンといえば、『スノウ・クラッシュ』。「あれはおもしろかったー」という印象は鮮明なんですが、ではストーリーは? ということ、ピザ屋のシーンしか思い出せないというあたりが非常にいい加減なわたしの記憶だったりします。

 さて本作の舞台は、21世紀なかばの上海とその周辺地区。ナノテクが普及したこの世界では、国家単位の世界体制が崩れ、人種、思想、宗教、文化、技術等を共有することを選択した者達が<種族(ファミリー)>や<部族(トライヴ)>という単位組織を形成している。三大種族の一つであるネオ・ヴィクトリア人の株主貴族マグロウ卿は、現状の教育体制に疑問を抱き、孫娘に反骨精神を抱かせたいという願いから、技術者ハックワースに教育用のインタラクティヴ・ディバイス<若き淑女のための絵入り初等読本(プライマリー)>を作らせる。ハックワースは自分の娘のために、ドクターXの元でその違法コピーを作るが、帰路強盗グループに襲われ、そのコピーは少年ハーヴから妹ネルの手に渡ることになる。母親のボーイフレンドから虐待を受ける生活のネルは、プライマリーが語るプリンセス・ネルの物語から様々な知恵を得て成長していく。
 一方、違法コピーをたどられたハックワースは、<天朝>(漢)と自己が属する<新アトランティス>の種族間ポリティクスに巻き込まれることになる。

 500ページ強の長さもなんのその。ぐいぐい読んじゃいましたけど、情報量が多い物語、かつ、トリッキーな物語ですね。わたしは前半の、設定が次々と小出しにでてくるところや、ヴィクトリア時代に関する論議といったあたりがおもしろかったです。後半の物語が集約していく過程は、思った程感動がなかったかな。シーン、シーンはおもしろいけれど、全体としてのまとまりはやや散漫という印象。<ネズミ軍団>は、それはないだろう、という感じがしたし。ラストで思い浮かんだのは、「産みの親より育ての親」ってフレーズだったし。(ちがうって)
 <<ドラマーズ>>のもう一歩先を描いてほしかった気がするのは、私の読解力不足かもしれませんが。

 でも、お値段分は十分楽しませてもらったし、とりあえずこの大作、前半のディテールの書き込みだけでも一読の価値はあると思います。

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