『ロミオとロミオは永遠に』恩田陸(ハヤカワSFシリーズJコレクション/早川書房)
全国から選りすぐられたエリートが集まる大東京学園。汚染された地球に取り残され、日々有害物資の処理に追われる日本人にとって、唯一保証される未来は大東京学園の卒業総代という特権エリートへの近道だった。
選抜を勝ち抜いてきたアキラはシゲルという友を得るが、彼等の前に展開される学園生活は想像を絶するものだった。学園が押し付ける制度に疑問を持ちはじめたアキラは、学園からの脱走をめざす「新宿」クラスのメンバーからの接触を受ける。
連載時にはやや迷走した感がありましたが、かなり追筆している分物語の進行、伏線の見え方等などとてもスムーズになっている印象です。
前半、物語世界と学園の仕組みが「サブカルチャー」をキーワードに明らかになっていく様はウィットが効いていて非常におもしろいです。コミック的なキャラクターもわかりやすくかつ生き生きとしています。
恩田陸らしいなあと思うシーンは、無人の電話ボックスが鳴るシーンで、読者をどきどきさせるテクニックは秀逸です。恩田陸の書くシーンで一番印象に残るのは実はつじつまの合わない、わけのわからないシーンなんですね。
前半の緻密な描写に比べると、後半の大脱走シーンはやや大味かな。展開もさることながら、殺伐とした世界に重なる「ドリーミングな情景」が、書割のコマ風で、狙いはよくわかるのですが、いざ食してみるとややあっさり淡白に思えてしまうあたり、常に無いものねだりですね。
ラストシーンのその先をどう想像するかで、SF世代がわかるかも?
わたし自身は、わりとまじめに世界を変える大きな物語にしたいと思いつつ、兄弟再会&タダノ再登場でどたばたパロディ風に物語が捻じ曲がってしまうあたり、Part2世代というかパロディ世代というか。
全体としてはコミック風に笑いをとりながら時にシリアスにという文調ですが、まじめなフレーズとして印象的なのは校長先生の大東京オリンピック開催宣言。21世紀に生きる自分は一体どこに立っているのでしょう? 思わず立ち止まって考え込んでしまいます。
ともあれ、力作。この物語を生み出したサブカルへの郷愁なのか共感なのかわからないけれど、何ともいえない愛着を覚える作品です。
作者は「書かれなかった物語こそが一番謎に満ちていておもしろい」、ということをよく知っていて、あえて書かなかったもの、ちりばめられた断片を楽しむ、という読み方をしないと、見えてこないものがあるかもしれませんが。
p.s.
章題が映画のタイトルになっているところも粋ですね。