2002年6月



『真世の王 <上>黒竜の書・<下>白竜の書』妹尾ゆふ子 (エニックスノベルス)
 映画『ハリー・ポッター』と『ロード・オブ・ザ・リング』のヒットのおかげで、”ファンタジーブーム”の巷の本屋ではファンタジー関連本が百花繚乱とばかりに積み上げられていたけれど、果たして、どれだけの人たちが『指輪物語』あるいは「ハリーポッター」シリーズから先に自分の好きなファンタジー作品を見出せたのでしょうか。入り口は何でもいい、と言われても、その先、良質のファンタジー作品に出会うことはそれほど簡単ではないような気がします。

 そんな中で、例えば『ロード・オブ・ザ・リング』で初めてファンタジーに目覚めた人が、妹尾ゆふ子の作品を手に取る機会があったとしたら、それはとてもハッピーな出会いだと思います。わたしの知る限りでは、骨太のファンタジー作品を書ける数少ない国内作家の一人です。

 さて、その妹尾ゆふ子の最新作は、ファンタジーの王道に真っ向から挑んだような作品。
 魔物の抱囲され攻め立てられる城。混戦の中、若き兵士ウルバンが助けた騎士は領王・ソグヤムだった。世界を律する言葉の力に気付いたウンバルの行動は、絶大な力を持つ竜を呼ぶ。
 テンポの良い序章に引き込まれて読み進めると、物語は、単に一城の危機ではなく、世界の滅びにつながっているものだという壮大な展開が待っています。友情と冒険と真の心。世界を読み解くスリルだけではなく、人間を人間成らしめているものが描かれる読みごたえのある作品。大人が楽しめるファンタジーです。

 と書くと、何だか堅苦しいけれど、とても読みやすく、情景が目に浮かぶような映像的なシーンも数多くあり、登場人物とともにはらはらどきどきしながら読むことができます。様々なキャラクターが、生き生きと書き分けられていますね。わたしのお気に入りは某方なので、ラストは非常につらかったのですが(;_;)、でも、このストーリー展開だからこそ、この作品は非凡なおもしろさをもっているのだと思います。

 ちなみに過去に出版された『異次元創世記ー赤竜の書』(角川スニーカー文庫)は、時系列的には今作の過去のエピソードとなりますが、現状入手困難につき、古本屋で見つけたら迷わずゲットしましょう。


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