2003年10月



『海賊モア船長の遍歴』多島斗志之 中公文庫
 17世紀末、キャプテン・キッドの私掠船アドヴェンチャー・ギャレー号に乗り込み航海士となったジェームズ・モア。彼は、不運にたたられ止むなく行った海賊行為に割り切れずにいるキッドと袂を分ち、海賊船アドヴェンチャー・ギャレー号の船長となる。波瀾万丈の航海の始まりである。

 当時の海賊をめぐる社会情勢や、帆船による航海の状況、海賊船のクルー達の行動がよく描かれているので、海賊マイブームの人にはとてもおすすめ(笑)。何より、アドベンチャーストーリーとしてとてもおもしろいです。
 転落人生から浮上した、完璧ではないが操舵に長け真摯なモア船長と彼を支える周囲の癖のある水夫達。「薔薇十字軍」に興味を持つ「男爵(バロン」というあだなの繰舵手はじめ、モア船長の兄を拷問死させたという因縁の海賊ブラッドレー、ムガール皇帝の孫娘の身の代金交渉役で登場するマドラスの長官トマス・ピット、と物語を彩る登場人物もきちんと配備されています。
 様々な伏線が意外にも最後にはつながって、モア船長も再起不能と思われるまでに打ちのめされてから、逆転大団円を迎えるという物語の王道がきちんと踏まれているわけですが、淡白な筆運びが心地よく、最後まで楽しませてくれます。

 解説によれば、機会があれば、続編執筆の可能性もありとのことなので、期待したいものです。
 

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