2003年6月



『シルマリルの物語』J.R.R. トールキン 評論社
 『指輪物語』」の前史、物語世界の神話を描いている本書。このたび、2分冊で出ていた邦訳版が1冊になった新装版が出ました。

 『指輪物語』の外伝と思って読み始めると、「唯一なる神」から始まる世界創世の物語にとまどってしまうかもしれませんが、太古の神話&歴史物語として、前半は一つの世界に自分で色を塗っていくような感覚、後半は人間くさいエルフたちの物語に一喜一憂していくおもしろさがあります。能動的な読書を楽しめる人、というか、与えられた情報をどんどん自分の中で膨らませていける人には非常に楽しい本だと思います。

 『指輪物語』で強大な悪として登場するサウロンが下っ端だった時代、アラゴルンの祖先の偉大なる人間の王が活躍していた時代、ガラドリエルが中つ国をめざし流浪の旅をしていた時代・・・などなど興味は尽きません。「ベレンとルーシエン」の物語も想像以上にドラマチックで泣けます。

 『指輪物語』が末端でしかない世界が一枚の地図では描ききれない壮大な世界として浮かび上がってきます。まさに、ファンタジーの醍醐味極まれり、という感じですね。

 似たような固有名詞がたくさん登場するので、巻末の詳細な索引が非常に便利。
 

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