『蛇行する川のほとり』全3巻 恩田陸 中央公論新社
なぜ謎は解かれなくてはいけないのか。
なぜ秘密はあばかれなくてはいけないのか。
他人を寄せつけない完結した世界をもつ大人びた少女、香澄と芳野。毬子はあこがれの美術部の先輩である香澄から、演劇祭の舞台背景を描く手伝いを頼まれる。蛇行する川のほとりの香澄の家で始まる「合宿」は、香澄と芳野の「世界」に踏み込み、からめとられることでもあった。分け合い合いと進められる舞台背景の作業の水面下で、何かを終わらせるために、何かが始まっていた。
4か月毎の書き下ろし連載形式で刊行された3部作。冒すことのできない時間、風景、少女の心。混乱、記憶、無垢、憧憬と傷心。ひそやかに張られた蜘蛛の糸と断片的にあばかれる過去の棘を感じながら、心地よい緊張感を最後まで楽しむことができます。
時は止まることなくゆるやかに流れて行く。
留めることができないならば、終わらせるしかないのだろうか。
キラキラと瞬く時間は、この物語に閉じ込められて永々に色褪せることはない。
『中国行きのスロウ・ボート RMX』古川日出男 メディアファクトリー
村上春樹の名作を若手作家がトリビュートする、という企画で、本作の他にも『回転木馬のデッド・ヒート RMX』(素樹文生)、『ダンス・ダンス・ダンス RMX』(荒木スミシ)、『国境の南、太陽の西 RMX』(犬飼恭子)と計4作品が第一期として出版されています。
もちろんオリジナルは読んでいますが、具体的に思い出せるのは表紙の絵だけ。つまらなかったのかというとその逆だったのだけれど、ストーリーそのものよりも手触りのような読後感だけが鮮烈な印象として残っています。だから、今でも自分が好きな村上春樹作品として挙げるのは『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』(こちらはもちろんストーリーも覚えている)と『中国行きのスロウ・ボート』。
前置きが長くなってしまったけれど、さて、古川日出男バージョンはどうだったのかというと、読み終わるまでやめられない焦燥感に駆られ、「こんなところにリアルがころがっている」という不思議な感覚を何度も覚えました。他の作品より軽いノリで、とっつき易いかなという気はしますが、あくまで古川日出男作品。一見器用にみえるけど、本質は不器用な作家さんのような気がしました。まあ、好き嫌いは自分で決めて下さい。私はしばらくこの作家を追いかけ続けると思います。
オリジナルの重みを感じるのは、20年後に『中国行きのスロウ・ボート RMX2』なんて企画があって、新しい作家が新しい息吹きを吹き込んだ作品を生み出してくれるといいなあと思ってしまうところでしょうか。