99年2月




『ドラゴンファームはいつもにぎやか』
久美沙織 プランニングハウス

 ドラゴンと言えば、倒すべき猛々しい悪役か、人間に協力してくれる善役か、あるいは人知を越えた存在か、何であれ本来人間とは居を異にする特別な生き物というイメージが強いのですが、この作品のドラゴンは普段は飛ぶこともできない牧場暮らし。おまけにふさふさ髪のドラゴンで、「イメージが違うわ〜」という感じなのですが、昔は空飛ぶ竜がたくさんいたという伝説にはなにやらそれだけでは終わらない気配が。
 さて、その伝説では竜を駆る女帝の家系でありながら、今や落ちぶれた貧乏貴族のデュレント家。朝から晩まで竜の世話に追われる末っ子フュンフは、逃げ出した若竜を追って美少女ディーディーと出会う。彼女から「デュレント牧場が買収される」ときいたフュンフは、噂の出処、隣家の成金ベンジョフリン家におばあちゃんと乗り込む。ベンジョフリン家に滞在中しているディーディーの父と謎の女占い師は得体が知れず、竜の暴走によってフュンフの相棒である老竜シッポは重症を負い、その上、ベンジョフリン家と名誉を賭けた竜試合が行われることに・・・。
 軽〜いのりですが、キャラクターの妙とストーリー展開のおもしろさでなかなかに楽しめます。主人公の少年と少女、とりわけお金持ちで美少女のディーディーがお約束の役処でありながら、嫌味のないところがいいですね。一見高慢なようで、素直だし、自立しているし。
 ドラゴンも個性があっておもしろいです。デュレント家のドラゴンは家族の一員という感じで、シッポとフュンフのお互いに心が通いあっている様などはうるうるきてしまいます。ペットをかわいがったことのある人にはたまらないでしょう。
 フュンフの兄キャシアスの伏線がもっと物語にからんでくるかなあと期待していたのですが、「それはまた別の物語」なのかもしれません。
 ともあれ一番の立役者はやっぱりおばあちゃんでしょう。ディーディーも年月を重ねると、あのくらい貫禄のある素敵なおばあちゃんになれるかも知れませんね。

 久美沙織といえば、昨年『小説を書きたがる人々』(角川書店)を読みました。ツボにはまる層にとっては小説以上におもしろかったという噂も(^^;)。まあ、これをおもしろがる層というのは、作中に登場するような本当に読んでほしい”小説を書きたがる人々”ではないところがミソですが。



『スタープレックス』
ロバート・J・ソウヤー ハヤカワ文庫SF
 
 「SF? そーいえば学生の頃は読んでたなあ。宇宙人がでてきたり、タイムスリップしたりってやつ。いつから読まなくなったんだろう・・・なんか忙しくて本読む暇もあんまりないし、今のSFって難しそうなのばっかだし・・・。え?『スター・トレック』?見てた、見てた。あれはおもしろかったよね。」

 なんていう方に一番におすすめしたい作家がロバート・J・ソウヤー。科学音痴も楽しめるSF、というと誤解を招くかもしれませんが、サイエンスアイディアの理論的なおもしろさがわからなくても、一級のエンターテイメント小説として楽しむことができるストーリーテリングの妙が魅力です。
 さて、新作『スタープレックス』の舞台は、二点間の瞬時移動を可能にするショートカットと呼ばれる通路が発見され、異星種族との交流が行われるようになった未来。人類、イルカ、ウォルダフード族、イブ族は、巨大な宇宙船スタープレックス号で合同の銀河系調査に乗り出します。スタープレックス号の指揮官キース・ランシングが主人公ですが、謎の知的生命体との遭遇、未知の領域への冒険、館内での乗組員トラブル、おまけにプライベートな悩みと彼を取り巻くイベントは目白押し。あれよあれよという間に、物語はタイムトラベルに関連する壮大な宇宙の謎へと発展します。
 読んでいて「わくわくする」感触が私の「スタートレック」記憶を刺激してたまりませんでした。暗黒星物質生物との交信やショートカットへ無謀に飛び込んでいくシーンなどがお気に入りです。
 これだけ遠大な未来をまたにかけながら、ラストにほんわかハッピーエンドをもってきて違和感がないというのは、よく考えてみるとすごいことかもしれません。こういう読み手を楽しませてくれる軽妙壮大な物語は本当にうれしいです。



『邪馬台国はどこですか?』
鯨統一郎 創元推理文庫
 
 歴史ミステリー連作集。
 バーのカウンターで繰り広げられる与太話、と思いきや、教授と美人若手助手を相手に、在野の研究家宮田六郎はなかなかの「歴史名探偵」ぶりを披露します。表題作の邪馬台国東北説はじめ、ブッダ未悟り説、信長自殺説、勝海舟維新黒幕説などなど、宮田の論拠はわかりやすく楽しめます。毎話のラストのとどめの「一言」が実にうまい。思わずにやりとしてしまいました。
 美人若手助手の早乙女静香は気の強いつっこみ役。個人的には熱いバトルより冷ややかな舌戦の方がおもしろいなあと思いますが、まあ狂言回しとしてはしょうがないのかもしれません。でも「あなたもしかしたらタイムトラベラーなんじゃない? トイレの芳香剤はラベンダーでしょ」的なダジャレは、笑うより前に背中がもぞもぞしてしまいます。(って反応する方もする方だけど・・・(^^;)。)バーテンダーの合いの手は味があっていいですね。
 この作者、この作品がデビュー作のようですが、他のミステリーもぜひ読んでみたいです。



『塗仏の宴 宴の始末』
京極夏彦 講談社ノベルス
 
 前編「宴の支度」の内容はもはや記憶の彼方だったのですが、読みはじめるとちゃんと思いだすものです。これだけの長さを読み通させる文章力はさすがだとは思いますが、それにしても「宴の支度」と「宴の始末」と延々続いて、結局「黒幕」を引きずりだすだけの物語だったのかと思うとむなしい気がします。本当にこれだけの長さが必要なのかちょっと疑問。長くて読んでいてだれるせいかもしれませんが、妖怪談義もいつにも増して物語から浮いてしまっているという気がしてしまいました。
 新しいキャラが次々に登場しますが、際だったキャラクターは京極堂、榎木津、木場(プラス関口)のメインキャラのみであって、彼らが出てきてはじめて物語は精彩を帯びるのですね。そういえば、記憶が操作され、偽りの人生を与えられるという恐ろしさがあまり痛切に感じられなかったのは、もちろん最後に何とかしてくれるであろう京極堂の存在もありますが、彼・彼女らが感情移入用のキャラではなかったことも一因なのかもしれません。
 なんだかんだいっても、関口君も気になりますし、次の作品がでれば読みたくなる魅力はまだまだありますが。

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