私とHewllet-Packard


Hewlett-Packard という名前を初めて知ったのは学生時代でしたが、そんな名前の高級測定器メーカーがあるという程度の知識でした。関数電卓を作っていることも知らず、手にすることはもちろん、目にする機会もありませんでした。

卒業後、就職先で先輩が持っていたのが HP-25 という電卓でした。RPN(逆ポーランド記法)で日本語で考えるとおりにキーを押す。『=(イコール)』キーがなく、どんな複雑な計算でも『( )(カッコ)』が要らない、アポロの飛行士も宇宙船に持ち込んでいる、アメリカでは理工系の学生の必需品である等など、新しもの・めずらしもの好きの私を感化するのに十分な魅力でした。

さっそく紀伊国屋アドホック HP-34C を買ってきました。今では笑い話ですが、初めて使い始めたときは、今まで自分が使っていた電卓と使い方があまりに違うので、自分の操作法に自信がなく(これは本当に正しい答えであろうか???)、しばらくはそれまで使っていたシャープの『ピタゴラス』で検算しながら使っていました。
しかし使い方をマスターしてしまうと、今度は『ピタゴラス』のような”普通の”電卓が使えなくなってしまいます。なぜ使えなくなってしまうかというのは、既にHP電卓を使っている人は「そーなんですよ!」とわかると思うのですが、そうでない人にはなかなか理解してもらえません。

簡単な例で説明すると、「 1 + 2 」という式を計算するとしましょう。”普通の”電卓では、数式通りまず「1」「+」「2」とキー・インして「=」と押します。

HP電卓では key key key key(1に2を足す)とキー・インします( key キーはふたつの数値の区切りのためのキーです。またRPNモデルのHP電卓に=(イコール)キーはありません)。問題はこの次です。

計算結果の「3」に、新たに「4」を足すとしましょう。HP電卓では「4」「+」(4を足す)とキー・インします。”普通の”電卓では「+」「4」とキーインしなくてはなりませんが、HPのつもりで「4」を先に押してしまうと、先程の計算結果の「3」が消えてしまいます。逆にHP電卓で間違って「+」を先に押しても、表示は変わりません。「3」に「0」を足しても「3」だからです。何のことだかさっぱりわからない、という方にも、この辺の話は追い追いご説明します。

(私が引き合いに出すのは極めて単純な例ばかりです。わかっていただきたい一心なのですが、「なんで1+2を電卓で計算しなくてはいけないんだ」と思ったかたも、どうぞもう少しガマンしてお付き合いください)

そういうことで、次第に”普通の”電卓が使えなくなりました。職場でも事務机と試作机と設計机を行ったり来たりするのですが、誰かに電卓を借りても上記のような操作ミスで計算のやり直しが頻発するようになり、そうかといっていちいち自分のHP電卓を持って歩くのもめんどうになり、結局会社の中で自分が立ち寄る場所全部にHP電卓を置いておくようになりました。もっとも周囲の人も同様で、「ちょっと電卓貸して」といって私の電卓を持っていってもすぐに戻ってきて「イコール、ないの?」と返品(?)されるのですが。

HP電卓が手放せなくなってしまうもう一つの理由は、プログラムの簡単さにあります。プログラムというのは、計算手順を予め電卓に覚えさせておいて、数値を入力すると自動的に計算結果が出てくるというものです。
私はオーディオ回路の設計を生業にしているので、RCフィルタのカットオフ周波数の計算などをいつもやっているのですが、このようなRやCの値を変えるだけで計算手順が同じときなど、プログラムが組めないと何度も同じことを繰り返すことになりとても面倒です。

当時、プログラム電卓というのはHPとTexas Instruments(TI)、日本ではカシオのものがありました。どれも一長一短があったようですが、HPは普通に計算するそのままにキーを押していけばプログラムができてしまう手軽さがあって、習得が容易でした。他社のものでは、通常の計算時とプログラミング時でキーの"意味"が変わるようなものもあって、プログラムを組むのに取扱説明書が手放せない。なんでこんなに面倒なんだ!?と思った記憶があります。

そういうことで現在では、自宅を含めて7台のHP電卓があります。型番の次の[ ] 内は開発コード名です。

34C34C [Basil]
私が最初に買ったHP電卓です(1980年)。O型抵抗パッドの計算とかプログラムを組んでやっていました(懐かしいなぁ)。70のプログラム・ラインと21の定数レジスタがあって、プログラムが長くなると定数レジスタ1つを7プログラム・ラインに交換していきます。SOLVE(求根計算)と数値積分もできたんだけど、仕事には使いませんでした。

電卓本体も”普通の”科学計算用電卓からみるとかなり高価でしたが、専用のニッカド電池も安売りの”普通の”電卓が買えてしまうくらい高い(¥2,900だったか・・・)もので、しかも2〜3時間しか持たず、いつも充電器をつなぎっぱなしで使っていました。表示部は赤LEDで、やや固めのキー・クリックが好きでした。今は静かにお休みになっています。ちなみにHPはLEDを始めとする多くの半導体もほとんど自社製でまかなっています。

11C11C
このポケット・サイズ・シリーズ(10Cシリーズ: [Voyager])はそれまでのモデルから比べるとデザインが一新されて斬新な感じがしました。表示部も液晶で、電池も普通のボタン電池になり、ホッとした?記憶があります。説明書には『潜水艦ゲーム』などというプログラムもあったりして、けっこう遊べました。

現行機種の32SUに比べるとさすがに演算速度の遅さが気になるのですが、これはまだまだ現役で活躍中です。

15C15C
11Cの上位モデルで、34Cに複素数と行列計算の機能がついた感じです(11Cにはありません)。見た目は11Cそっくりですが、関数キーの位置が11Cと微妙に違っていて、初めのうちはときどき混乱していたような気がする。これも現役で、測定器の部屋に置いてあります。
16C

16C
ちょっと毛色の変わった電卓で、通常の計算ではなく、”論理計算”のための計算機です。アセンブラでプログラムを書く時のアドレス計算とか、ブール代数の確認などに便利なやつです。

2進、8進、10進、16進の相互変換がワンタッチで、AND,OR,NOT,XORのような論理計算はもちろん、ワード長の設定(最大64ビット)や、2の補数、1の補数の設定も簡単にできます。

もともとはHPの技術者が社内で自分たちが使うために開発したものだったらしいですが、さすがに使う身になって作られています。残念ながら製造はとっくに終了していますが、中古でもかなり入手が困難で、プレミアが付いているようです。

28S28S [Orlando]
手帳タイプの多機能電卓で、実数や複素数だけでなく、文字列もデータ・タイプとして扱えます。変数に自由に名前もつけられます。また液晶画面に計算結果をグラフ表示する機能もあります。方程式の解を求めるのにグラフを使った中学時代を思い出しますが、実用に供したことはありません。実に多機能の電卓で多くの関数を内蔵し、FORTHのようなスタック操作を実行するプログラムも書くことができます。多様なデータ・タイプを扱えるようにするため、スタックの動きが他のモデルと若干異なっています。

面白そうなのでつい買ってしまいましたが、これのすべての機能を使いこなすのは無理でしょう。

32S32S [Leonardo]
11Cや15Cに比べると計算速度が著しく向上しているのと、液晶表示部にはアルファベットも表示できて、メニューも階層構造風になっています。エラー・メッセージもコードではなく「DEVIDE BY 0」のように表示されます。基数を2進/8進/10進/16進に切り替えることができ、変数名にA〜Zの文字が使えます。たとえばプログラムの実行中に変数に数値を入力させるときは、一時停止してディスプレイに「A?」のような変数名で入力を促します。
32SII32SU[Nardo]
32Sではひとつのキーが3とおりの機能を持っていましたが、32SUになってさらに関数が増えたため、4とおりの機能を持ちました。既に製造を終了していますが、今も毎日使っています。ちなみに故障した時のために新品を1台、封も切らずにキープしてあります。やっぱりこれが一番使いやすいんですよね。

32Sより価格を下げた代わりに、日本語マニュアルが無くなりました(英語版マニュアルだけ)。わかっている人にはたいした問題ではないのですけど、これが初めてのHP電卓だった方は大変だったでしょうね。

ちなみに32S、32SUでは分数の計算もできます。「1.2.3」とキーインすると、「1 2/3」と表示され、そのまま分数として扱われます。

35s 35s

HP初(=世界初)のハンドヘルド関数電卓であるHP-35が発売されてから今年(2007)で35周年になることを記念したモデルが35sです。

2代目の32SIIも故障して早く次のHP電卓を入手しなくてはならなかったときも、後継の33sのデザインにどうしても馴染めず、二の足を踏んでいました。そこへ新しいモデルの発売がアナウンスされ、デザインも従来のHP電卓のスタイルを踏襲しているのがわかり、しかも日本に正規の代理店ができたことを知ってさっそく予約注文を出しました。いやぁ、待っていてよかった。

35sは液晶二段表示と矢印キーが印象的です。RPNモードと、一般の電卓と同じALGebraicモードの切り替えができます。ちなみにALGモードではディスプレイの上段に計算式、下段に計算結果が表示されます。RPNモードではスタック二段分(X,Y)が表示されます。

使い始めてまだ日が浅いのですが、使い勝手は従来とほとんど同じで何の違和感もありません。英文マニュアルとケースが付いてきました。価格は¥7,980. 日本に代理店があるというのは良いことですね。ついこの前まで、HP電卓を買うにはアメリカから個人輸入しなくてはならなかったのですが、ようやく暗黒時代から抜け出せた感じです。

これは電卓ではありませんが、パームトップPCの200LX (倍速/日本語化)も使っています。どうも私は『hp 』のロゴに弱いのかもしれません。

■HP電卓の購入について
今のところ日本HPは相変わらず電卓の扱いをしていません。購入する場合は正規代理店であるジュライから通信販売を利用します。価格は個人輸入するよりずっと安く、対応も親切なので安心です。ちなみにHP電卓は世界中どこで買っても価格は大して変わらないはずです。

続いて、HP電卓の基本である『RPN』と『スタック』についてご紹介します。


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