自転車で向かっていきたい先が、階段になっている。 では自転車をおりて、押して上っていこう。 ところが階段には、自転車用のスロープがない。 こんなとき、どうしたものだろう。
階段にスロープがあれば、少々の力でよいしょよいしょと押していける。 スロープがないと、押して上がるのは困難、というか無理。 おなじ階段でも、スロープのあるなしでそんなに違うのは、どういうわけだろう。
自転車を押して、段差に出くわしたときは、限界段差というのが越せるかどうかの分かれ目であった。 自転車のつくりに応じて限界段差が決まるから、それは車種ごとに違う。 だがどんな車種にしても、限界段差に比べたら、階段の1段のほうがよほど高い。 なので、上がろうとして自転車のハンドルをえいっと押すと、後輪が浮き上がる‥図1。 前輪が沈み込むので、どうにも上がっていけない。
もし、自転車を押して上がれる階段にしたいなら、どの段もみな、限界段差より十分に低くしておけばよい。 1段の高さはわずか数センチで、なんとも細かい階段だ。 階段というより、ざらざらっぽい斜面といえる。 ならいっそのこと、スロープに仕上げたほうが作りやすい。 そうしてできたのが自転車用スロープ、といえる。
だから話の筋として、スロープのない階段では自転車を押して上がれるわけがない。
それでも、スロープなし階段を上っていきたい、としたらどうしよう。 ひとつには、前輪が沈み込むのを防ぐ。 自転車の前方に立って、かがみこんで前輪付近の適当な場所をつかむ。 持ち上げぎみにしながら、引っぱり上げていく‥図2。 片手はハンドルに添えて支える。 7〜8段くらいの小ぶりな階段なら、上がれないことはないだろう。 かがんで持ち上げるのは体に負担だから、大きい階段では、しないほうがよい。
自転車を押して、段差に出くわしたときは、車体の低い位置を押すという策があった。 それを応用したらどうだろう。 ペダルの回転軸のあたりに、丈夫なひもかロープをかけて、引っぱり上げる‥図3。 片手でハンドルを支えて、もう片手でロープを引く。 これなら、かがみこまないで済む。
引っぱり上げるにつれて、引くのに要する力は増減する。 車輪が、段の縁に当たる構えが変わるためで(図4)、a では大きく、b では小さい。 もしも前輪と後輪が、そろって a の構えになったら、ずっしりと荷が重い。 けれども a の山をこえたら b では楽になって、ひと息つける。 そうやって休み休み上っていけばよい。
階段でもスロープでも、同じ高さぶん持ち上げるなら、仕事の量は同じ。 だが仕事の量を人の体が感じるときは、そうはいかないらしい。 荷の重さがひどく増減すると、とくに増のところがこたえる。 仕事をしすぎたと感じて、へたるかも。
なので、引っぱり上げるときは、スロープで押すのと同じ仕事量だ、と念じる。 つよく念じれば、おまじないが効く。‥たぶん。


図1



図2



図3



図4

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