自転車を押して、平らな地面を歩いていたら、段差にさしかかった。
たいした段差ではないから、ちょっと押せば、越せるだろう‥図1。
ところが予想に反して、どうにも越せないで難儀する場合がある‥図2。
ハンドルをえいっと前方へ押すと、後輪が浮き上がってしまう。
前のめりになるばかりで、進んでくれない。
段差がどれくらいあると、そんな難儀におちいるのだろうか。
図2の場面を改めて思いおこすと、つぎのようなイメージがうかぶ。
ハンドルを前へ押すと、それは、てこのような働きになって後輪を浮き上がらせる。
すると自転車の重量が、みな前輪にかかってくる。
前輪は沈み込もうとするので、段差を越える妨げになる。
段差が十分に低いなら、図1のように越すのはわけない。
段差を少しずつ高くしていくと、あるところで、様子が図1から図2へと変わる。
ちょうどその変わり目では何が起きるかというと、図3のようになるだろう。
ハンドルを前方へ押すと、前輪と後輪は、ともに地面から少し浮き上がろうとする。
そして前輪の一点が、段差の縁と押しあいしながら、つりあった状態になる。
つりあいは不安定で、ちょっとのことで図1か図2のどちらかにすとんと落ちつく。
そんなつりあい状態になるときの段差、すなわち限界段差を、知りたい。
図3のなかで、4か所に着目する
‥前輪の中心、後輪の中心、ハンドルの持ち手、前輪と段差の接点。
各所には、図4のように力がはたらく。
自転車は重量 2W とする。
前輪の中心と後輪の中心には、それぞれ半分の W がかかる、としてまあよいだろう。
中心の間隔は a とする。
中心を結ぶ線から b の高さにハンドルの持ち手があって、そこを力 F が水平に押す。
すると前輪は、段差の縁に対して、垂直な力 2W と、水平な力 F をおよぼす。
自転車は静止しているから、力のつりあいにおいて F b = W a という関係が成りたつ。
(つまり、前輪の中心を軸として、車体がぐるんと回ることはない。)
すると、垂直な力と水平な力は、比率が
垂直 : 水平 = 2W : F = 2b : a
になる。
これを図5に描けば、車輪が段差の縁を押す力*は、垂直から角度 θ を向く。
そして、前輪が段差に接する点も、同じく垂直から角度 θ のところにある。
なぜなら、もしそうでなければ、前輪がくるんと回ってしまう。
こうして限界段差は、車輪半径×(1 - cosθ) になる。
よくある家庭用の自転車では、2b : a の比率は 1 : 0.8 くらいだろうか。
すると角度 θ は38度、限界段差は車輪半径×0.2 になる。
車輪が27インチなら、限界段差は 7cm。
このように限界段差は、けっこう低かったりするので、注意を要する。
限界段差をうわまわる段差に出くわして、それを越えたいときは、どうしたらよいだろう。
図5によれば、高さ b を小さくするのがよい。
ひとつの策は、ペダルをこぐ回転軸のあたりに足をかけて、ぐっと前に押し出す‥図6。
そのさいハンドルに添えた手は、車体が倒れないように支えるだけで、力で押すことはしない。
自転車で段差にさしかかったら、まずは図2をイメージして用心しよう。
そのうえで、図6で行くのがよさそうだ。
目次へ戻る