公園の石段を、蛇が上る‥図1。 蛇は、画像の右下隅から、左上のほうへと通りすぎていく。 つまり石段を斜めに横切る。 だったら斜めにすーっと通ればいいのに、なぜか、ぎざぎざと、折れ曲がって進む。 折れ曲がりは何だか妙に規則的で、段面に対して直角に構えるのが目をひく。
ためしに本を積み重ねて階段にして、ボールチェーンをのせてみよう‥図2。 ボールチェーンとは、金属の小さい玉々を数珠つなぎにしたもの。 小さいアクセサリーや、水槽の栓などをつなぎとめるやつだ。 蛇は節々が多数つながっているので、チェーンの玉々はそれを模している。
図で a と b を両手で持って、階段に沿って斜めに置く。 手をはなすと、上端(a のほう)からするするとすべって、転がりおちる。 どうも、すわりが良くない。 もし c-d のように、階段に直角に置くと、転がりおちないで留まることができる。 チェーンと蛇は違うけれど、a-b に比べて c-d のほうが、すわりが良いのは疑いない。
さて蛇は、どのようにして進むか。 蛇の腹面、つまり接地する面は、蛇腹というとおり、伸び縮みができる。 といっても背骨があるから、全体がいっせいに伸び縮みすることはない。 あるところが伸びれば、隣のところが縮む。 伸びと縮みは長さに沿って交互に分布しながら、うにょうにょと起きる。
腹面には、一枚板のうろこが付いていて、そのエッジは直線状、そしてうろこは斜めに地面にあたる‥図3。 うろこがこういう構えにあるので、胴体は後へは進めない(*が前)。 うにょうにょと伸び縮みが起きれば、ともなって胴体は前へ進むしかないから、前へ進む。
うろこのエッジが地面にあたるところを、模式的に図4のように描く。 段に向かう構えが a のように直角なら、段差を上るのに具合がよさそうだ。 下段の*では、いまから頭部が段差を這いあがろうというとき後押しするのに具合よいだろう。 上段の**では、エッジをしっかり効かせて進むと、後続のぶらさがり部分を引き上げるのに具合よいだろう。 そして段の縁を越えるところでは、節と節をつなぐ関節をうまく曲げやすい。
それに対し、斜めになる構え b では、縁を越えるところのあんばいがわるそうだ。 ぶらさがり部分を持ち上げるにおいても、いまひとつ力を入れにくいだろう。 こう見ると、直角な構えをとるのは理にかなう。
蛇が進むさいには、もうひとつ特徴がある。 いま仮想的に、腹面にインクをたっぷり塗っておいて、通った道すじを地面に記録したとする。 通ったあとを観察すると、その道すじの幅は、腹面の幅とほとんど同じで、広がることがない。 つまり、ひとつの決まった線の上を進むのであって、図1での蛇もそういう進み方をしていた。
進むさいに蛇は、首から頭をすこし持ち上げて、左右に振る‥図5。 行く手の様子をまえもって確認するのだろう。 首根っこ*は接地しているので、左右に振れることはない。
いま、首根っこが、ある地点 a を通ったとしよう。 すると、後続の胴体から尻尾まで、みな地点 a を通る。 続いて首根っこが通る地点 b、c、等々においても、同じことが起きる。 例えるなら、線路を a → b → c と敷き足しながら、その線路を胴体が走っていくような進み方、といえる。 確認済みでわかっている線路を後続の胴体がたどるなら、たしかに安心だろう。
図1を見て、段から段へ上る道すじを線に描くと、図6のようだ。 ここで a は上記のとおり、ぶらさがり部分を引き上げる役目をもつ。 また b は、次の段へ上るにあたって直角な構えをとる準備をする。 そして a から b を、自然なカーブで結ぶ。 こうして見ると、道すじの通し方にはそれなりの理由があった。
要は、石段が水平・垂直面で規則的にできているから、道すじも規則的になって直角要素をともなう。 ごろごろな岩を積んだ斜面ならば、当然、上る道すじもうねうねするであろう。


図1



図2



図3



図4



図5



図6

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