振子が二つ、連結されている‥図1。 A と B は同じつくりで、連結シャフトは小さい段差をもつ。 揺らすと二つの振子は、一種独特な振るまいをみせる。 それは、A と B が互いに力を及ぼしあうからで、その力は弱いけれども、じわじわと効きめをあらわす。 では、及ぼしあう力とは、実際どういう働きをするのだろうか。
はじめに、A も B も止まっていたとする。 どちらか片方、ここでは仮りに A を、こつんと突いて揺らすと、以下のようなことが見られる。
振子 A が揺れると、糸はシャフトの段差を揺らす。 するとそれは B の糸を揺するので、止まっていた B は、わずかに揺れだす。 このとき揺するほうも、揺すられるほうも、周期は同じだから共鳴がおきる。 そのため B の振幅は、はじめは小さかったのが、だんだん増していく。 A の振幅は、はじめは大きいのがだんだん減っていく。 これは A から B へ、運動エネルギーが少しずつ移っていくことを意味する。
エネルギーが移るのは、上記の「及ぼしあう力」の働きにちがいない。 ならばそれは、どういうしくみで働くのだろうか。
振子を側面から観察しよう‥図2。 もし段差がなければ、糸が重りを引く力は点線のように働く。 それに比べて、段差があるときは、付加的な力*が重りに働くことになる。
振子を上から見おろして、動きを観察する‥図3。 左右に伸びる線分は、振子 A と B が振れる振幅をそれぞれ表す。 A と B は、まずは連結されてなく、単独の振子として揺れうごくものとする。 そして、A と B の位置が左右に隔たると、それに比例して、互いに引き寄せあう力*が付加的に働く、と考える。 振幅があまり大きくないなら、近似的にそう見なしてよいだろう。 比例の係数はごく小さく、したがって付加力*もごく弱い。
さて、力がどこかに作用するとき、それが成す仕事は、力×[作用点が動く距離] で定まる。 単位時間あたりでいうと、仕事は、力×[作用点が動く速さ] で定まる。 力をかけても、作用点が動いてくれないと仕事の能率は上がらない。
いま、振子 A は振幅が大きく、B はまだ小さいとする‥図4。 ひとつの場面を考え、A は振幅の端のほうへ寄っている、そして B はゼロ位置を通りつつある、としよう。 このとき B は速さ v で動くから、力*は B に仕事をする。 その分、B は運動エネルギーを少し増す。 A のほうはというと、端に寄っているので速さが小さい。 しかも端で折りかえす前後では動く向きが反対だから、"力×速度" を足しあわせると正と負が打ち消しあう。 なのでエネルギーの増減は、たとえあったとしても小さい。
図4の場面から、4分の1周期に相当する時間がたつと、場面は図5のようになる。 A は速さ u で動くから、力*は A に仕事をする。 ただし力の向きは動く向きと反対だから、A は減速をうけて、運動エネルギーを少し減らす。 このようにして、B がエネルギーを増し、A が減らすのだから、A から B へエネルギーが少し移ったことになる。
図4の場面から2分の1周期の時間がすぎると、図の構えは、ちょうど左右を反転したものになる。 同じく図5でも、2分の1周期がすぎると図の構えは左右反転になる。 そうなれば上記と同じ筋書きで、B はエネルギーを増し、A は減らす。 よって A から B へエネルギーが少し移る。
こういうことが、振子が揺れるたびに毎回おきるので、A から B へエネルギーがだんだん移っていく。
上記の筋書きでは、B がエネルギーを増して、そのあとで A がエネルギーを減らす。 増と減が、いっしょにおきるのではない。 ならば、B が増すときの増し分は、どこから来るのだろう。
ここで仮想的に、付加力とは、A と B を結ぶ特殊なバネ仕掛によって生じる、と置きかえてみよう。 バネを引き伸ばすと、それはエネルギーを蓄える。 その蓄えをおろすことで B はエネルギーを増し、あとから A がその分を埋めもどす。 バネが蓄えるエネルギーは周期的に増減し、それを介して A から B へエネルギーが移る、ということで話が収まる。
図4と図5の構えを見ると、A の振動を基準にしたとき、B の振動は4分の1周期の遅れをもつ。 位相でいえば90度の遅れに相当する。 そういう位相遅れがあると、遅れている側のほうへエネルギーが移っていく、とも見てとれる。
さて時間の経過とともに、B の振幅は増していく‥図6。 そして A の振幅は減っていって、それがゼロに近づくと、何が起きるだろうか。
図中で A は、力*によって減速をうける構えにある。 振幅がゼロに近ければ、速さ v もゼロに近い。 すると減速にともなって、左向きだった v が右向きに変わる、ということが起きる。 起きたあとの新たな構えは、図4で A と B を入れ替えたものにひとしい。 よってこれ以降、A は振幅を増していくことになる。
速度 v が左向きから右向きに変わる、というのは、A の振動の位相が180度ちょうど変わるのにひとしい。 すると A の位相は、B を基準として90度の遅れになる。 それゆえ A にエネルギーが移っていくようになる、と言いなおしてもよい。
このように、片方の振子の振幅が減っていってゼロになると、一種の「切りかえ」がおきる。 そしてエネルギーが増す側と、減る側とが交替する。 A から B へ運動エネルギーが流れていって、A が空っぽになると、切りかえがおきて、こんどは B から A へ運動エネルギーが流れだす。 こうしてエネルギーの流れは、A と B のあいだで、行ったり来たりをくり返す。
再び図1にもどると、A と B は同じつくりだから、どちらを A に選んでも違いがない。 ならば A と B の振るまいには対称性があるだろう。 さらに、A と B が揺れるのを動画にとって、逆回し再生したら、順再生と比べて、どちらが本物なのか見分けがつかないだろう。 するとこういうことが言える。 もし、A の振幅が減っていってゼロになる過程について、時間を前後に反転したら、それは B の振幅がゼロからいっぱいまで増す過程に一致する。
二つの振子が相互作用をしていく過程は、こうして整然と進む。 その振るまいは、ふしぎというより、そうなるほかない、とも思えてくる。


図1



図2



図3





図4





図5







図6


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