ガラス瓶のなかに、ジャムが入っている。 まだ使ってない新品。 そんな瓶のふたを開けようとすると、かたくて開かない。 力を込めても開かない。 瓶の注意書きには「湯煎すると開けられます。たたいてはいけません」と。 どうにもこまった話だ。
原因は、中身を真空パックしたことにある。 瓶の中を見ると、ジャムは満杯でなく、すこし空間を残す。 その空間からは空気を抜いてある。 ただし真空といっても、ジャムから蒸発した水蒸気が空間を満たす。
ふたの表面には大気の圧力が働いて、ふたを瓶に押しつけている。 その圧力は、1気圧のもとで、1cm^2 あたり 1kg の重さに相当する。 ふたの直径を 8cm とすると、面積は 50cm^2、よって合計 50kg の力が働く。 重しで表すと図1のようになる。
一方で、空間を満たす水蒸気は、ふたを押し上げるように圧力を及ぼす。 この圧力は大気圧に比べると小さいので、いまは無視してよい。
さて、ふたを開けようと、力(トルク)をかける‥図2のa。 すると逆らう摩擦力がbのように生じる。 摩擦は、ふたに付いたゴムパッキンと、瓶のガラスがこすれて生じる。 瓶の口は円いので、摩擦力の発生はその円周に沿う。 この摩擦に打ち勝たないと、ふたは開かない。 摩擦力をひとまとめにして、図3に置きかえた。 ゴムパッキンが付いた金属板が、ガラスの上をすべって動く。 それを引っぱるワイヤーの張力が、摩擦力を表す。 ワイヤーを巻きとるプーリーは直径8 cmで、これが瓶のふたに相当する。
重しが 50kg なら、ワイヤーの張力は 25kg くらいだろうか。 そこで図3を変形して、図4にした。 長さ 1m のアームの先に牛乳パック1本分の重りを吊るす。 直径 8cm のダイアルを手で回して重りを持ち上げられたなら、ふたが開く。 これは相当きつい。
ではどうする? ‥原因は真空パックだから、それを解消するしかない。
ふたと瓶が接するところは、たとえば図5のように見える‥略断面。 ふたの突起が、瓶のねじ山に掛かって、ふたをつなぎとめている。 では、aのような場所を見つけて、ねじ回し(マイナス)の先をさしこんで、ねじってみよう。 すると、ふたが歪んで、b部が矢印の向きにずれうごく。 ねじ山の斜面にそって突起が移動するので、矢印の向きにうごく。 そのとき*のところに、すきまができる。 わずかなすきまでも、空気が通って、シュッと音がする。 これで真空パックが解消すると、あとは難なくふたが開く。
ねじ回しをさしこむのは、違う場所でもよい‥図6のa。 この場所では、突起とねじ山の掛かりあいがない。 ねじ回しをねじると、ふたが歪むとともに縁がbのように持ち上がって、*にすきまができる。
ふたの歪ませ方は、できれば小さくとどめたい。 さもないと、ふたを傷めて漏れやすくする恐れがある。 ふたと瓶の作りを観察して、図5か図6のどちらでいくか選ぶと良い。
さて「湯煎すると開きます」とは、何を意味するのだろう。 問題の空間がだんだん温まっていくと、なかを満たす水蒸気の圧力が増していく。 それが1気圧に達して圧力差がなくなれば、図1での重しもなくなる、ということであろう。
温めると聞くと、つい、ふたの金属が膨張してゆるむと思えてくる。 もし室温から 100°C まで温めると、直径 8cm のふたが膨張する分は 0.06mm。 均等に広がるなら、縁の移動は 0.03mm にすぎない。 パッキンの密閉をこわすほどの効果はないだろう。 ふたの熱膨張は関係がない。
湯煎となると、加熱に時間がかかるし、熱いから注意も必要。 ならば、たたいて密閉をこわす代わりに、そっと小さいすきまを開けるのがよい。

図1


図2


図3


図4


図5


図6

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