むかし、小学校の校庭に《回旋塔》というものがあった ‥図1。
垂直な柱の上端から鎖が下がっていて、鎖の端には持ち手がついている。
子どもたちは持ち手につかまり、いっせいに助走して勢いをつける。
すると鎖は円錐状に開いた形をなしつつ、柱のまわりをぐるぐる旋回する。
持ち手をつかむ手のひらが痛いけれど、こらえて一心に遊んだものであった。
さて今ふり返ると、円錐の開き方に関して少々の疑問がうかぶ。
まずは鎖の1本に着目する。
それを図2のように単純化して、一点から下げた振り子が一定の開き角 θ で円錐運動をするものと置く。
(鎖の支点は固定点ではなく、自由回転する小円盤の周上にあるが、当面それは考えない。)
このとき、周速度 v は角 θ に応じて定まり、θ が大きいほど v も大きい。
この v を、円速度と呼ぶことにする。
さて助走はどうしたか。
図3のAのように、背丈がとどくかぎり最大の開き角 θ でもって、柱まわりにコンパスで円を描くように走る。
走る速度を円速度 v に合わせると、図2の状態が得られる。
ただしこのままでは足先が地面をこすってしまうから、図3のBのように、ひざをまげて足をちぢめる。
これで円錐運動ができるのだが、運動を維持するには、ときどき足で地面をけって円速度 v を保つ必要があろう。
これが回旋塔の基本と考えられる。
けれどもここで、ずっと足をちぢめたまま、というのはつまらない。
できるものなら図3のCのように、足を伸ばしても地面をこすらないような、大きめの開き角 θ を実現したい。
そういう手だてはあるだろうか。
図4において点線は、上記の最大 θ での助走円を表す。
円速度より大きい速度で助走すると、運動の軌跡は伸びた円のようになる(図中の実線;水平面への投影で表す)。
これで、足先が地面をこするのはaとbの2か所だけになった。
その2か所を無くするためには、aとbでの径を増大させたい。
すなわち、伸び円の軌跡を修正して、円に近づけることが残る問題となった。
問題の鍵は、ブランコを漕ぐしくみにある(図5)。
ブランコが揺れるなかで、ある一点(静止していない点)にて、おもりの位置を支点のほうへ持ち上げると、おもりの運動は進行方向に加速される。
反対に、おもりの位置を支点から離れる向きに下げると、おもりは減速される。
これを《上げ動作》《下げ動作》と呼ぶことにしよう。
回旋塔において、上げ動作と下げ動作は、足や腰を使って体の重心を上げ下げすることでおこなう。
図6において、上記の伸び円の軌跡は、いまaを出発したとする。
最上点bに達した瞬間に、上げ動作をすると、加速の結果として、最下点cでの径が増す。
cを通る瞬間には下げ動作をすると、減速の結果として、最上点dでの径が減る。
dを通る瞬間には上げ動作をすると、加速の結果として、最下点aでの径が増す。
以下同様に、最上点では上げ動作、最下点では下げ動作、を繰り返すと、軌跡は少しずつ円に近づくであろう。
その円は、はじめの助走円よりひとまわり大きい。
さて、開き角 θ が増すと、柱まわりの角速度も増す。
なので θ を増すアクションは、回旋塔の全員で一斉にしないとうまくいかないかもしれない。
鎖につかまって上げ下げ動作をするのは相当な筋力を要するであろう。
となると結局、話は図3Bの基本にもどる。
この考えは当たっているだろうか。
確かめたいけれど、もう回旋塔はどこにもない。
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