お茶やコーヒーを台所でいれて、となりの部屋へ持っていく。 このとき手かげんがわるいと、こぼしそうになることがある。 こぼさないでうまく運ぶには、どうしたらよいだろうか。
はじめに図1のような場面を考えよう。 カップをのせた台車が、平らな床をaからbへ等速で移動している。 台車がブレーキをかけて減速すると、カップ内の液面が傾く。 中身をこぼしたくないなら、液面が傾いたぶん、カップも傾けたい。 それには台車を図2のようにして、振り子式につり下げた受け皿にカップをのせる。 こうすれば、ちょうど液面が傾くぶん、カップも傾いてくれるので具合がよい。
つぎに、図2にあった台車が停止すると、振り子はブランコのように往復して揺れる。 このとき中身はどうなるか。
振り子が振り下がる途中の一瞬をとらえて、それを図3のように置きかえた。 台車は斜面を摩擦なく移動していて、点線が振り子の糸に相当する。 移動体に働く重力の強さを、単位質量に働く力で表してgと置き、それを斜面に垂直な成分a、平行な成分bに分けておく。
台車は加速度bで斜面を移動する。 このとき台車に立ってカップの中を見ると‥図4、中身に働く力はgにcという力が上乗せされて見えて、cはマイナスbに等しい。 よって中身に働く力はaに等しい。 このaの向きが真下になるから、中身はカップ内に具合よくおさまって、こぼれない。
別の一瞬をとらえたときも、図3での斜面の傾きが違うことを除けば、同じことが言える。 つまり、こぼれないということが常に言える。 注意として、振り子は支点のまわりに回転運動をするので、図4では見かけ上、遠心力がaの向きに上乗せされる。 それでもaが真下ということは変わらない。
こういう仕組みで、振り子式の受け皿を、手提げにして持てばうまく運べそうだ。 歩き始めるときと、歩き終わるときが図2に対応し、振り子がゆらゆら揺れた場合が図3と図4に対応する。
ひとつ心配として、カップの中で液面は揺れることができる。 もし揺れが大きくなるとまずい。 持ち歩く途中で手が振れて、液面の揺れが共振するような事態がおきれば特にまずかろう。 そんな恐れはないだろうか。
振り子を提げ持つ手の位置を、左右に振動的に動かしたとする‥図5の*。 動かす周期は、液面が揺れる周期に合わせることで、わざと共振させようとたくらむ。 液面が揺れる周期は、振り子が揺れる周期よりもかなり短いであろう。 すると、手を左右に動かすとき、振り子の重りはほとんど動かない。 重りとは、カップと中身と受け皿を全部あわせたもので、その重心は中身の中央から大きく離れない所にあるだろう。 その重心が、ほとんど動かない。 つまり揺らそうとたくらんでも、手の動きはカップに伝わりにくい。 なので目だつほどに液面が揺れることはない。
提げ振り式の受け皿は、これで心配なく運ぶのに使える。
提げ振り受け皿は、古くからあった。 かつてラーメン屋さんの出前オートバイに、そういう受け皿が取り付けてあった。 ちょうど図2での台車が、オートバイの荷台に相当する。 そんな光景は今ではもう見かけないけれど。


図1



図2



図3



図4



図5

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