昔むかし、子どもの遊びにこんなのがあった ‥図1。
細長い板で《てこ》を地面にセットして、端に小石をのせる。 もう一方の端に、大きめの石をどすんと落とすと、小石は飛び上がる(図2)。 てこ比を大きくしておけば、小石は勢いよく飛びあがって、かなりの高さに達する。
このとき一見すると、図2の a のように、小石は斜めに飛びあがりそうにも思える。 だがやってみると b のように、だいたい真上に上がる。 てこを当てずっぽうにセットしても、真上に上がる状況は変らない。 それはどうしてだろうか。
図1にて、小石をのせる位置は、板の端よりすこし内側によったところにするのが自然であろう。 そして、てこ板が動くにつれて小石は端のほうへすべって(ころがって)いって、端からこぼれるであろう。 もし、端からこぼれないようにしたら? ‥図3。 板がストッパー S にあたって止まった瞬間に、小石は板に垂直な方向へ飛び出す。 これは投石機にほかならない。 すると図2においては、小石が端からこぼれることが、真上に上がるための要件になっているらしい。
端からこぼれる瞬間に、小石は二つの速度成分をもつ‥図4。 ひとつは板と垂直な成分 v、もうひとつは板に沿った成分 u。 板の動きは回転運動なので、板にのっている小石には遠心力がはたらく。 そのため小石は板の端にむかって加速されて、こぼれた瞬間には速度 u をもつ。 この u と v を合成した速度で、小石は飛びあがる。
単純化して、てこ板は最初に水平にあったとしよう。 そして短い経過時間のあと、板が小さい角度 θ になった瞬間に、小石がこぼれたとする‥図5。 このとき速度成分 u は、
   u = 遠心加速度 x 経過時間
として定まる。 経過時間は短いので、重力の影響は無視してよい。
経過時間のあいだ、板は近似的に一定の角速度 Ω で回転すると置く。 小石がすべり動く範囲は小さいので、近似的に小石は板の端にあるとする。 そして回転中心から板の端までの長さを R で表す。 このとき遠心加速度は RΩ2 に等しい。 経過時間は θ/Ω に等しい。 すると成分 u は
   u = RΩ θ  
となるが、RΩ=v だから、けっきょく
   u = v θ  
となる。 この結果は、図に記した角度 ψ が、角度 θ に等しいことを意味する。 よって、v と u を合成した速度は、真上を向く。 そして、板の長さ R や、回転の速さ Ω によらずに真上を向く。
角度 θ は小さいと仮定したが、実際には20度や30度くらいになろう。 そうなれば ψ のほうが θ よりも小さめになって、2度少々の違いがでる。 最初に板は水平に置くと仮定したが、それと違って実際には図1のように傾く。 これらの違いによる影響は、互いに打ち消しあう傾向にある。 なので、真上から大きくそれることはないであろう。
やはり小石は、だいたい真上に上がるものらしい。 昔むかしの、子どもの遊びの話。
付記: 図1〜2をもしも仕損じて、予想外に跳ねるとたいへん危ない。 どうか危ないことはしないように願う。

図1


図2


図3


図4


図5

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