うどんをいただこうと、箸でつまんで持ち上げる。 このとき、不用意に麺を揺らすと、つゆがしずくになって飛びちることがある‥図1。 気をつけないと服にしみがつく。
そういう麺の揺れは、どのように起きるのか、ボールチェーンで模擬してみよう。 ボールチェーンとは、金属の小さい玉々を数珠つなぎにしたもので、水槽の栓をつなぎとめるのによく使う。
チェーンの端を手に持って、ぶらさげて左右に揺する‥図2。 すると、チェーンの下の端がとりわけ大きく揺れる。 もし下の端に水滴がついていたら、揺れる勢いで水滴が飛びちっても不思議はない。 つまり麺のいちばん下の端が、注意を要するとわかる。
さて麺には、うどんのように太いのと、そうめんなど細いのがある。 太さによって、しずくの飛び方に違いはあるだろうか。
細い麺が、束になっているところを考えよう‥図3。 つゆに浸すと、麺と麺のあいだにつゆがしみ込んでいく。 つゆは麺の表面を濡らして、麺と麺はぴったりくっつきあう。
このとき、箸を持つ手を揺らすとどうなるか。 麺が揺れると、隣りあう麺と麺のあいだに、すべりの動きが生じる‥図4、aとb。 すると、つゆが有する粘性は、すべる動きに対して小さいながらブレーキをかけるだろう。 それは、麺の揺れ動きを抑えるようにはたらく。
(もし麺が固くて棒状だったら、すべりの動きは生じない。 柔らかくゆでた麺なら、図4や図2のように湾曲して揺れるので、すべりが生じる。)
では太いうどんではどうだろうか。 うどんは一見、まっすぐなようで、よく見ると微妙な曲がりがあったりする。 太さも所々で少し不揃いだったりする。 なので束ねたとき、麺と麺がぴったりつかない所があるだろう。 すると、つゆに浸したとき、つゆがしみていかずに残る所があるだろう‥図5。
そういう所では、麺を束に保とうとする働きが弱い。 箸を持つ手が揺れると、麺は束を保てなくなって、ばらけるかもしれない。 ばらけると、麺にまとわっていたつゆは、まとわっていられなくなる。 つゆは下の端まで伝わっていって、そこからしずくになって飛びだす‥図6。
こう考えると、つゆを飛ばしやすいのは太いほうの麺、となるが実際どうだろうか。 そうめんだと、つゆを小さい茶碗にとって持ちあげて使う。 なのでおのずと麺の下端をうまくさばきやすい、といった効果があろう。 うどんでは、どんぶりを持ち上げるのは面倒だから、つい無造作に麺をずずっとすすりがちで、そんな違いも影響するだろう。
ふたたび図2をみると、麺類とは本来的につゆを飛ばすもの、と考えたくなる。 もしつゆが飛ばなかったら、何か理由があるはずで、理由はほかにもあるかもしれない。

図1


図2


図3


図4


図5


図6

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