ロープを伝わる波について考えるとき、ひとつの手がかりは、ロープにはたらく遠心力に着目することであった。 遠心力のはたらきが見やすくなるケースとして、図1のようなものがある。 波は円いループを形づくり、ころがるようにロープを伝わっていく。 こういう波を起こすにはコツがあって、ロープの端を持つ手は円をえがくように動かすとともに、 えいやっと前方へ投げだす動きを込めるとよい。
ここでも、波と同じ速さで走りながら観察すると、ループは目の前で静止して見える‥図2。 ロープはaでループに入ってきて、円に沿ってひとまわりしてから、bでループから出ていく。 ロープには矢印のように遠心力がはたらいて、ループを押し拡げようとする。 対してロープに加えられている張力 T は、ループを引き締めて縮めようとする。 二種の力がつりあいをなすことで、ループの走り方が定まる。
さて、円弧にはたらく遠心力を勘定したとき、円弧の中心角 θ は何でもよかった。 ならば中心角 θ を360度とおけば、ループ波についても同じ議論が成りたつ。 そしてループが走る速さ v は、ここでも同じく
  T = ρ v2
にしたがう。 もし張力 T を強めたなら、それはループをもっと縮ませようとする。 ループは縮むまいと逆らうが、それには遠心力を増強する必要があるから、v をもっと速くして走る。 「留まるためには全力で走りましょう」という話が、ふと連想されるかもしれない。
ところでループが走っていく姿は、印象として、なんだか波っぽくない。 波といえば、まず思いうかぶのはサイン波だろうし、段差の波でも、波と呼ぶことにさして抵抗はなかろう。 けれどもループは、波と呼ぶにはすこし印象がちがう ‥のではないだろうか。
ここで、ロープの一点に着目して、ループが通過すると点はどうなるか見よう。 図3では、左のほうから走ってきたループが、点 a1 にさしかかろうとしている。 ループが通過していくと、a1 にあった点は、破線のように a2 まで移動する。 ループの径を A とすると、a1 から a2 への変位はロープに沿って長さ 3.14 A に等しい。
つぎに段差の波を考え、図4のように理想化して、階段状の波とする。 階段波が通過していくと、a1 にあった点は、破線のように a2 まで移動する。 波の高さを A とすると、ロープに沿った長手方向の変位は A に等しい。 こうして比べると、ロープに沿った変位は断然、ループ波のほうが大きい。 つまり縦変位が大きいのがループ波の特徴で、この特徴が、なんだかちがう印象の一因をなすのであろう。 上記のコツで「前方へ投げだすような動き」を込めたのは、この特徴のゆえであった。
ロープの終端が、図5のような金具にしっかり掛けてある。 そこへ、ループが図6aのように走ってきた。 ループはbで終端に達した後、cのようになっていくが、まだ金具はロープを引きとめている。 そしてdまでいくと、金具からロープがはずれるであろう。 これも、はずし方のひとつとして、役にたつことがあるかもしれない。

図1


図2


図3


図4


図5


図6

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