どこかに、波板でできた壁があって、そのそばを通りかかったとする。
波板とは、鉄板やスレート板、ないしは樹脂板に規則的な波状の凹凸がついたもので、図1のような断面をもつ。
もしも壁は長く‥たとえば10mとか‥続いているなら、これ幸いと立ちどまってみよう。
そして壁にむかって、手をパチンと打ち鳴らす。
すると、壁から跳ね返ってくる音が、「ヒュン」と聞こえる。
その音は、短時間のうちに周波数が高から低へ変わるのが特徴で、ちょうど小鳥のさえずりのようだ。
小さい音だけれど、特徴を意識すればはっきり聞こえる。
そんなさえずり音は、どこから来るのだろうか。
パチンと鳴らすと、音は放射状にどの方向にも広がる。
そのひとつに着目すると(図2)、@とAの音は、隣りあう凸と凸でそれぞれ跳ね返って、手を打った場所へ戻ってくる。
ただしそのさい、波板は縦向きでなければならない。
つまり凸と凸が成す平行線が鉛直でなければならないが、たいていは、そうなっているだろう。
戻ってきた音がはっきり聞こえるためには、@とAに沿って戻ってくる音どうしで、位相が合うとよい。
それには、音の波長が、長さ a の2倍に一致すればよい。
その波長は λ = 2a = 2b cos θ で定まる
(ただしbは波板のピッチ、θは、音が進む向きと壁とがなす角度。)
パチンという音は、短波長から長波長までの成分を有し、そのなかから λ の波長成分がはっきり聞こえることになる。
さて、放射状に広がった音は、壁のいろいろな場所に次々とあたって跳ね返る‥図3。
はじめに聞こえるのは場所A付近から跳ね返ってきた音で、このとき、上記の角度 θ は90度に近い。
なので聞こえる音は、波長がうんと短い。
おわりに聞こえるのはCからの音で、このときは角度 θ がゼロに近い。
すると聞こえる音は、波長が 2b に近い。
つまり、跳ね返る場所がA→B→Cと移るにつれて、聞こえてくる音の波長は、うんと短い→中間→2b と変わる。
周波数でいえば、はじめうんと高く、おわりに低い。
そういう周波数変化が、さえずり音のように響く。
聞こえてくる周波数 f が、時間 t で変わる様子は、たとえば図4のようになる。
下限になる周波数*は、音速を 2b で割ったものに等しい。
波板のピッチは大小いろいろあるが、もし 3 cm なら下限周波数は 6 kHz、6 cm なら 3 kHz、等になる。
波板の壁は、かつては建設現場の囲いなどでよく見かけたものだが、今では少なくなった。
もし波板でなくても、壁に規則的な凹凸がうまい具合にあれば、さえずり音が聞こえるだろう。
といって、どこかよその壁のまえで立ちどまって手を打って考えこんだりしたら、あやしいやつ、と‥?
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