ロケットで宇宙へ飛び出そうとすると、乗員は、加速度の負荷に耐えなければならない。 ロケットにのせた宇宙船は、発射後ほんの10分かそこらで、秒速 8km 近いスピードに達して軌道にのる。 短時間で高速にもっていくのだから、どうしても加速度は大きくなってしまう。 宇宙へ行くのにロケットを使うかぎり、乗員がうける加速度は宿命として避けられそうにない。
さて、有人のソユーズ宇宙船をロケットにのせて打ち上げるとき、宇宙船内の様子が映像で公開されることがある。 それを見ると、どういう加速度が生じるのか、直接に観察することができる。
2016年3月18日に、宇宙ステーションへ向けて出発したソユーズ宇宙船(TMA-20M)が、発射を待っているときの映像を見よう。 船内には、マスコットであろうか、ぬいぐるみが吊りさげてある。

映像1 発射前の宇宙船内 

宇宙船は、細長いロケットの上端にのっている。 そしてロケットは、直立の体勢で発射の瞬間を待つ。 待つあいだ、風がふくとロケットは揺れるので、上端はじっとしていない。 そのせいで船内ではマスコットが揺れる。
動画では、10秒のあいだにマスコットは7往復半の揺れをみせる。 よって揺れの振動数は、毎秒0.75に等しい。 宇宙船は地上にあるから、重力加速度は 1G に等しい。
つぎに、発射から90秒ないし100秒すぎまでの船内の映像を見よう。

映像2 発射後の宇宙船内 

マスコットの揺れは明らかに、ここのほうが速い。 動画を再生する20秒間に揺れは28往復するから、揺れの振動数は毎秒1.4になった。
さて、振り子の振動数は、重力加速度の平方根に比例して大きくなる。 よって映像2では、宇宙船の加速度が大ざっぱながらつぎのように勘定される: 1 G × ( 1.4 / 0.75 )2 = 3.5 G 
もしロケットの推力は一定とすると、ロケットは燃料を費やすにつれて全重を減らしていくから、加速度の大きさは増していく。 映像2が終わった後、ロケットの働きはもう少し続くから、加速度は勘定した 3.5G よりもう少し大きくなるであろう。
ソユーズロケットが発射の後、上昇中に発生する加速度は、最大で 3.6G ないし 4.2G までとされている [ "G-Force Training" を参照。] この基準にてらすと上記の勘定は、まあなるほど、といえよう。
映像に写るマスコットのぬいぐるみは、加速度を観察してごらん、と我々をさそうかのように見える。
目次へ戻る