いつか遠い将来、宇宙空間に人がおおぜい住むとしたら、どういう動機があるだろう。 地球環境が悪化したので逃げだす、地球上がどうも狭くて窮屈だ、地上に居るのはもう飽きた、‥。 500年や1000年の先を思うと、宇宙空間にだれも住んでいない、というほうがむしろありえないかもしれない。
おおぜいで住む宇宙コロニーのひとつに、茶筒形が考えられる‥図1。 スピンを図2のように与えると、模擬重力が生じて、筒の側面が居住域になる (もちろん筒の径は人のサイズよりはるかに大きい。) 居住面積をたっぷりとるには、筒の高さを大きくして縦長の形にする。 そんなコロニーが、たとえばアーサー・クラーク「宇宙のランデヴ」"Rendezvous with Rama" に登場していた。
さて、茶筒形コロニーがスピンをすると、それは「こま」の一種に該当する。 けれども、こまと言えば普通、かがみ餅のように平たいか、それに近い形をしている。 縦長な形のこま、というのは見たことがない。 縦長こまをスピンさせたら、どういう挙動をみせるだろうか。
実験してみよう。 空き缶を二つ継ぎ合わせて、縦長の円筒を作る(図3は断面図。) その重心のところを糸で吊るして、自由に回転させる。 糸はよじれないように、なめらかな軸受けで支えて吊り下げる。 円筒を垂直に保ち、シャフトをひねってスピンを与えてから、動きを観察する ‥動画1。

動画1 縦長スピンは安定が悪い

スピンを与えた後、しばらくのあいだ、軸は一定の向きを保つ。 ところが時間がたつと、ひとりでに、軸の向きがだんだん揺れ動くようになる。 その動きは、軸が円錐をえがくように生じている。 そして円錐の頂角が、時間とともに大きくなっていく。 実験では糸で吊るした都合から、頂角の拡大は途中までしか観察できない。 もしも無重量のなかで自由な回転運動をさせたら、頂角はもっと増していくであろう。 そして最終的に、軸の動きは図4のように、ひとつの平面のなかでぐるぐる回る動きに落ちつく。
同じことが、茶筒形コロニーでも起きると考えなければならない。 スピン軸の揺れ動きが大きくなると、コロニーの住民には居心地がわるい。 もしも図4の状態にまで至れば、天と地が横だおしになってコロニーは崩壊する。 軸の揺れ動きは可能なかぎり小さく抑えたいが、それにはどうしたらよいだろう。 ひとつの手がかりが、動画2にある。

動画2 縦長スピンを安定にする

軸シャフトの先端を、コップの水に浸す。 軸が円錐運動をすると、シャフトは水をかき分けて移動するので、そのさい水から抗力を受ける。 その抗力が、円錐運動を抑えこむように働く。 つまり、シャフトの先端が移動するのを妨げるセンスで、何らかの力が加わってくれるとよい。
そこで図5のaのように、コロニーの軸シャフト先端に、ガスジェットを取りつける。 軸の揺れが大きくなったら、それを減らすようにガスジェットで「抗力」相当の推力をだす。 ジェットが出る向きはスピンにともない刻々と変わるので、推力が抗力になるタイミングを待って、パルス推力をだす。 そういうパルスをくりかえすと、揺れ動きは小さくなっていく。 ガスジェットを取りつけるのはシャフト上に限らず、筒の本体でもよい(図5のb。)
もし、こまが平たい形状であれば、上記のように軸がひとりでに揺れ動く、という問題は起きなくて済む。 そういうケースに持ちこみたいなら、コロニーをドーナツ形に作るのがよい。 ただし茶筒とドーナツを比べると、同じ居住面積を得たい場合、ドーナツのほうが何倍も多く資材を必要とする。
おおぜいで住むコロニーは、やはり茶筒形が合いそうだが、軸の揺れ防止策を忘れてはならない。


図1




図2




図3




図4




図5


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