宇宙コロニーを縦長の茶筒形に作ると、スピン軸の向きがひとりでに揺れ動いてしまう、という難点があった。 対策として、ガスジェットを使う手があったけれど、使えばガスの蓄えをどんどん消耗していくのが悲しい。
さて実験によれば、シャフトをコップの水に浸すだけで、軸の揺れ動きを防止できた。 動力を使わないパッシヴな手だてだから、何も消耗しないでできた。 その手だてを、宇宙コロニーにも応用できないだろうか。
一案として、図1のように仕組んでみよう。 コロニーは2分割してシャフトで結合し、全体がひとかたまりでスピンする。 シャフトは板Pを通りぬけていて、Pはスピンしない、つまり慣性空間のなかで静止した状態にある。
シャフトが板を通りぬけるところは、図2のように作る。 シャフトAは、軸受けになる部材Bを通りぬけ、軸受けの中でAはなめらかに回る。 Bの形は玉状で、狭いすきまをはさんで玉受けCに保持され、玉受けの中でBは自在に回る。 ただしBとCのあいだのすきまに、粘性をもつグリースを詰めておく。 スピン軸の揺れ動きがないとき、BはPとともに静止状態にある。
スピン軸の揺れ動きが起きたとしよう。 もしPのサイズが広大なら、慣性空間のなかでPの向きは容易に変らない。 シャフトAが向きを変えると、そのぶん、玉Bは玉受けCのなかで回る。 するとBは、粘性グリースを引きずって回るから、回ることを妨げる力を(トルクを)受ける。 そしてシャフトAは、向きを変えることを妨げる力をBから受けることになる。 この「妨げる力」は、シャフトがコップの水から受けた力と同じだから、軸の揺れ動きを減らすように働く。 これでパッシヴな揺れ防止ができた。
板Pのサイズが有限なら、シャフトAが向きを変えるとき、Pもそれに追従するだろう。 しかし追従には遅れがあるし、追従した動きは小さめに起きるから、やはりBはCのなかで回る動きを生じる。 よってここでもシャフトAは、向きを変えることを妨げる力を何がしか受ける。 つまりPのサイズがほどほどでも、なお揺れ防止の効果がある。
図2が表した原理を、図3のようになおすと、もうすこし現実的になる。 板Pは、2重ジンバルで軸受け部材につなぐ。 ジンバルの各軸には粘性摩擦をもたせておくと、それは粘性グリースと同じ働きをなす。
図3の仕組みを、さらに変形して図4のようにする。 ここでは軸受け部材Bを、大きくひろげて板状にした。 そしてB面に、リング状の部材Qを取り付ける。 ただし固定した取り付けではなく、オイルダンパーを介して弱くつなぎとめる。 ここでは、上記の板Pの役割をQがつとめ、グリースの役割をオイルダンパーがつとめる。 これなら現実にも作れそうだし、もっと良い変形も工夫できそうだ。
パッシヴな揺れ防止は、スピンしない部分があってはじめて成りたつ。 その非スピン部は、軸シャフトに沿ってどの位置にあってもよい。 たとえば図5のように、円筒の端のところでもよい。 コロニーに付属して非スピン部分があれば、いろいろ役にたつだろう。 たとえば連絡用宇宙船の発着場、他のコロニーと通信するアンテナの設置場所、天体観測のベース、等々。 反対に、もしもコロニー円筒の外側に付属物は設けたくないなら、非スピン部分は筒の内側に置いてもよい。
ガスジェットによるアクティヴな手だてと並んで、パッシヴな手だてが成りたつなら、宇宙コロニーの維持において安心材料となろう。
 


図1



図2



図3



図4



図5


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