トイレで使うロール紙は、ミシン目があると切りやすくて具合がよい。
よくある2枚重ねのロールも、やはりミシン目があると切りやすい。
ところが2枚重ねを使っていると、時に、おやっ? となることがある。
2枚重ねのロールは、図1のような構えで出番を待つ。
外側の紙aと内側の紙bは、ともにミシン目で切れていて、ミシン目a、bはきちんとそろっている。
さて何かのはずみで、外側の紙aが、1周ぶん余計にほどけてしまった‥図2。
使い方が荒かったりすると、こんなことになる。
このとき、ミシン目はどうなるか。
ミシン目aの次にくる目をa* とすると、長さaa* (ミシン目の間隔)は、ロールの作り方で決まっている。
紙aが余計に垂れる長さ(bからa)は、ロールの外周ひとまわりの長さに等しい。
ロールの径が D なら、外周の長さは 3.14 D となる。
長さaa* と長さabは、別々の要因で決まるわけだから、一致する必然性はない。
ミシン目のa*とbは、そろわないでずれるだろう。
ずれたら、どうなるか。
ロールを収めるホルダーに、カッター(紙をぱたんと押さえるやつ)が備わっているなら、好きなところで紙を切れる。
ミシン目など気にしないで、そのままロールを使い続けてもよいだろう。
もしカッターが無く、手で引きちぎる場合には、2枚のミシン目がそろっていないとうまく切れない。
カッターを使うときでも、ミシン目に合わせて几帳面に切ろう、という場面では、やはりミシン目はそろっていてほしい。
ではどうするか。
図2にて、紙bを1周ぶん余計にほどいてやれば、ミシン目のaとbは再び正しくそろう‥図3。
余計に垂れたのをくるくるっと巻きとれば、本来の正しい構え(図1)に戻る。
さて、ロールを使うほどに、径はだんだん小さくなっていく。
するとある段階で、はてなと思うことが起き得る。
いま、ロールの外周ひとまわりの長さが、ミシン目の間隔に一致したとする。
そして、外側の紙が1周ほどけたとする‥図4のa。
このとき、aの次のミシン目a* は、ちょうどbにそろう。
もしa* のところを切りとったなら、2枚の端がそろうので、正しい構え(図1)と見分けがつかなくなる。
本当は、外側と内側が入れかわっていて、構えが違うのだが、見た目にはわからない。
そのままロールを使い続けても、ミシン目がそろった状態は保たれ続ける。
なので構えの違いには気がつかないか、気づいても忘れてしまいそうだ。
例として、ミシン目の間隔を 20 cmとしよう。
使い始めのロール径が10 cmなら、1周の長さは31 cm少々で、これはミシン目間隔よりも長い。
ロール径が細っていって6.4 cmになった段階で、1周の長さがミシン目間隔に一致する。
どのロールでも、使っている内に1度はそういう一致条件がくるだろう。
さて、ミシン目を付けた箇所は、誇張すると図5のように見える。
2枚を重ねてミシン目を付けてから、巻き取ってロールに作るわけだ。
2枚の紙は、*のところで互いにこすれ合う。
なので2枚をはがそうとすると、わずかながら摩擦力がさからう。
構えが違ったままで、紙を使おうと引き出すと‥図6、*のミシン目で2枚がはがれるときに、パリッと音がする。
かすかな音だが、注意深ければ、おやっ、と気がつくだろう。
もし「はがれ音」に気がついたら、外側の紙を1周ほどけば、本来の構えに戻る。
ところが戻す前と後の、どちらでもミシン目はちゃんとそろう。
どちらが正しい構えなのか、見てもわからない。
ミシン目がそろうのを「正しい」というなら、どちらも正しい。
ちなみに図2の場面においては、はがれ音が生じることが「正しくない」構えのサインになる。
もし2枚の紙が、はがれないようにしっかり接合されていれば、構えがどうのと面倒なことは起きない。
だがそれだと、紙質がごわごわして、2枚重ねのふんわり感が失われてしまう。
2枚ロールをちゃんと使うのは、繊細な感覚と注意力があってのこと、といえそうだ。
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