おしおき
(本文抜粋)
ネグリジェ姿で悦子が、洗面台の鏡に向かって歯を磨いていた。
引き寄せられるようにして、浩はバスルームに近づき、ドアを開けて入った。
鏡の中の自分のすぐ横に、男の顔がぬっと現れたときには、口に溜まった歯磨き入りの唾を飲み込んでしまうほど悦子はびっくりした。が、すぐそれが浩と分かると、にっこり笑って会釈した。
「ふぐおわうから、まっへへ」
すぐ終わるから待ってて、といったつもりだった。浩はおしっこをしにきたと、悦子は思ったのだ。
風呂場と洗面所とトイレは同室だ。花柄のビニールカーテンで仕切られてはいるが、姉弟でも排便時は互いに譲り合って使っている。
待たせては悪いと思った悦子は、口の中の歯ブラシを使うスピードを上げた。
ブルーグレーのナイロンネグリジェと、ほのかに透けて見える見事な体が、小刻みな手の動きに共鳴して揺れている。
なにか哀しさにも似た微妙な笑顔を浮かべて、浩が悦子の後ろに回った。そしてすっと、重量感のある乳房を両手で掬い取った。
親友の姉だ。そんな馬鹿なことをしてはいけない。女ならほかにいくらでもいるし、不自由している浩でもなかった。しかし仕方がなかった。明け方で、まだ思考力がはっきり働いていなかったこともある。いや、仮に思考力が正常であっても、窓から差し込む朝陽に浮かび上がる悦子のプロポーションを見せられては、誰しも手を伸ばさざるを得ないだろう。ブラジャーはしていない。腰に小さなパンティだけ。そこまで手に取るように見えるのだ。
悦子の背中にひたっと寄り添った浩の股間が、くっと盛り上がる悦子のお尻に押し付けられた。
一瞬身を硬くした悦子は、歯ブラシを右手に持ったまま、左右に体を振って掴まれた乳房を解こうとした。しかし、浩の体と洗面ボールに挟まれて、ほとんど身動きが取れなかった。
猛烈に暴れ、洗面台のローションの瓶なぞで後ろの男の頭を殴ることもできたかもしれない。しかし悦子はそうはしなかった。相手は弟の友人だ。自分が受けたセクハラの無念を晴らすために、静岡からわざわざ出てきてくれた男だ。手荒くはできなかった。悦子の心の中に、浩を憎からぬ気持ちもあった。
ネグリジェの上から乳房を揉みしだかれながらも、悦子は不思議と冷静さを保てた。浩が弟と同い年の歳下だという意識があった。さらに処女の聖域を乗り越えている自信が、悦子に備わっていた。
(歯を磨き終わるまで、待ってもらえないかしら)
そんなことを考えていた。
悦子がおとなしくしていてくれることを確認すると、浩は悦子を押し付けている体の力を少し抜いた。
プチプチっとネグリジェのホックが弾き飛ばされた。