(本文抜粋)

 さっきはあんなに荒々しいことをしたくせに、いざとなったら怖じ気づき吉雄らしくもないと、業を煮やしたひとみは、ズボンをトランクスごと引き下ろした。
「あっ、やめろよ」
「なに言ってんの。こんなになってるくせに」
「いいってば」
「早くしちゃいなさい。さあ。時間がないんだから」
 硬直している弟のものは昨夜の風呂で見ている。それだけに、胸は騒がなかった。そっと艶やかな頭の部分を手のひらで撫でて促した。
「いい、いいよ、そんなことしなくたって」
「自分でする? 向こうを向いていようか?…そう、じゃあこれ。ちゃんとティッシュで受けるのよ。こぼして畳汚しちゃいやよ」
 背を向けた姉を見ながら、吉雄は必死で自分をしごいた。しかし固さに変化が見られない。ファスナーを直しているひとみの後ろ姿が、あまりにも美しく、それに気が行って神経を集中できないのだ。
 吉雄の息づかいだけを聞きながら、後ろ向きに立っているひとみも息苦しくなっていた。こんな格好の自分を、弟はどんな思いで見て興奮しているのか。そればかりが気になった。

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