『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
シリーズ第4弾。
今回はクィディッチ・ワールドカップ決勝戦、三大魔法学校対抗試合、舞踏会、ヴォルデモート卿の復活、と、わかりやすい派手なイベントによる物語展開のせいか、観ていて面白く、長い割には全然飽きませんでした。マイク・ニューウェル監督の見せ方も、自分の感覚に合ったということなのかも。
個人的にはペガサスやドラゴンの動きが「おおっ!」って感じで、わくわくしました。
どのシーンを取っても、隅々まで手抜きがされていないというか、お金がふんだんに使える映画っていいですねえ。
毎度のことですが、子供たちの成長が早くて最初はちょっと違和感がありますね。14歳にしては・・・と思わざるを得ず。演技は上手くなっていますけど。
ヴォルデモート卿復活のシーンの描写は、手首ばっさりとか、切り傷ぐりぐりとか忠実に描いてみせていて、もはや子供向けとは言えないよなあ、と思ったら、やっぱり海外のレーティングは上がってますね。ヴォルデモート卿は特殊メイク仕様で、レイフ・ファインズの影も形もありませんでした(笑)。でも、復活のシーンは良かった!
さて、次巻は原作を読んでいて一番つまらなかった巻なんですが、映画はどうでしょうね(^^;。
『キング・コング』
『ご存知『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督によるリメイク作品。
"『タイタニック』『ジュラシック・パーク』に並ぶ映画史に残る傑作が誕生した。"
という”THE DAILY TELEGRAPH”の記事の引用が日本の宣伝でも使われていますが、これはかなり言い得て妙なのかも。とどのつまり私のような「タイタニック」も「ジュラシック・パーク」もどうでもいい人にとっては、たいして面白みがないけど、映像的には確かに拍手ものだよね、という感じなのです。
1933年、大恐慌にみまわれるNY。債権者から追われながらも、機材・フィルムを持ち逃げして幻の島での映画撮影を強行しようとするカール・デナム(ジャック・ブラック)は、街で出会った売れない女優アン・ダロウ(ナオミ・ワッツ)を急遽ヒロイン役に担ぎだし、脚本家ジャック・ドリスコル(エイドリアン・ブロンディ)も拉致同然という状況の下、船を出航させる。
ただキング・コングを出せばいい、というのではなく、そこまでの仕掛かりが大事なのだ、とばかりに、丁寧に描き込まれた、前半、"骸骨島(スカルアイランド)”に着くまでは、あやしげな船長&クルーのヴェンチャー号の描写も含めて、スリリングな予感に満ちていてそれなりに楽しめたのですが、島での恐竜、気味の悪い巨大生物との追いかけっこが始まると、映像的には「すごー、迫力ー」と思いながらも、長い〜、退屈〜、と思ってしまいました。展開があまりにお約束なので、手に汗握るようなドキドキが感じられないのですね。キング・コングの表情とか動きとか、確かにリアルなんですが、結局、"So What?" と思ってしまうわけで、キング・コングに対するPJの夢とロマンは頭ではわかるけど、共感してあげられなくてゴメン、という感じでした。ナオミ・ワッツは良かったですが。
そんな中、唯一わたしの目をひいたのは、ヴェンチャー号のキャビン・ボーイのジミー。ジミーは、4歳の時にヴェンチャー号で腕を骨折し野生児のような姿で見つけられたそうで、古参船員ヘイズが気にかけてやっています。手癖が悪く、脚本家のジャックに食事を出しながら、万年筆をくすねる、といった具合ですが、「ワル」というより、どこかピュアさを感じさせる青年。上映中、「演じているのは、誰だろう?」と気になっていたのですが、なんと、『リトル・ダンサー』の主人公の少年役を演じていたジェイミー・ベルが育った姿でした。(『リトル・ダンサー』の時が13歳、今は19歳だそうです。)道理で存在感があるわけです。「運命の瞬間」のアップの表情がたまりません!
キャラクターとして一番リアルさを感じた、というか、過去にも未来にも妄想が膨らむ設定で、ジミーはあの後船を降りたのだろうか? とか気になってしまうわけです。まっとうにならねば、と思いつつ、厳しい現実にぶちあたって裏世界でのし上がるもよし、器用さと頭の回転の良さを武器にベル・ボーイあたりから表世界で出世していくもよし。と、まあ、映画の本質とはまったく関係ない所で一人もえの世界に入り込んでしまいました(笑)。
『ミリオンズ』
『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督の最新作は、EU加入間際(!)のイギリスを舞台にしたファンタジーアドベンチャー。
ママを亡くした兄弟はパパと一緒に心機一転、新しい町、新しい家に越してきた。弟のダミアンは、ある日、突然、空から降ってきた大きなバッグを拾う。中身は大量のポンド紙幣だった。折しも、クリスマスからユーロに切り替わるイギリスでは、もうすぐポンドは紙くずになってしまう。リアリストの兄アンソニーは、大人には内緒にして、欲しいものを片っ端から買いまくるが、夢見がちで聖人おたくのダミアンは”神様からの贈り物”は貧しい人を助けるために使わないといけない、と思い、「貧しい人」を探し始める。
しかし、ゲンナマが”神様からの贈り物”であるわけはなく、兄弟の周りをうろつく怪しい男が一人…。
大金を目の前にすると人は目の色が変わってしまうわけで、今の世の中、小学生だってお金の価値を知っています。でもそれは、価値を保証している「社会の仕組み」が変われば、その瞬間単なる紙切れになってしまうもの。右往左往している人々を見ながら、何が本当に「価値あるもの」なのか考えさせられてしまう、この物語設定は上手いなあと思います。
軽やかにユーモアたっぷりに描かれるふんわりした世界、美しい映像、リズム感あふれる展開がわたしは気に入りました。聖人ネタとラストの持っていき方は日本人にはちょっとなじみが薄くて、皮膚感覚としては理解しにくいところではありますが、ダニー・ボイル監督の「僕の子供たちに堂々と観せられる映画を作りたいと思った」という心意気はよくよく伝わってきます。
観る前から注目していたサントラのラインナップですが、さすがに上手く使われていて、"Brazil"の編曲バージョンやClashの"Hitsville U.K."はごっきげんだし、MUSEの"Hysteria" (これはサントラには入っていませんが)は「重要場面」で流れているし、同じくMUSEの心にしみわたるメロディー"Blackout"も作品に溶け込んでいました。ラストのEl Boscoの"Nirvana"は、一歩間違えると嘘くさーとなるシーンで、暖かさ優しさを見事にまとめあげるBGMになっています。そして、クレジットをみながら、FEEDERの"Tumble and Fall"を聴かせる演出は心憎いですね。
強いインパクトのある作品ではありませんが、ほっと一息つける作品というのかな。
あー、イギリスに行きたい!
『エリザベスタウン』
映像と音楽が同じ重さを持つ、あるいは、もしかしたら音楽の方が比重が大きいかもしれない、キャメロン・クロン監督(『あの頃ペニー・レインと』)の音楽映画。今をときめく(人気先行)俳優オーランド・ブルーム主演、ってことで、全国シネコンロードショーになってますが、テイスト的には単館系ですので、お間違いなきように。逆に、そこさえ押させておけば、期待を裏切らない良質作品に出会えること請け合い。
スニーカーの新商品開発プロジェクトが失敗し、会社に大損をもたらしたシューズデザイナーのドリュー(オーランド・ブルーム)。失意のあまり自殺しようとしている所に、父の死の一報が…。気が動転している母の代わりに、父の遺骸を引き取りに、ドリューは父の故郷ケンタッキー州の小さな町、エリザベスタウンへと向かう。
「現実にはありそうにない物語」という所に、つまづく人には向かない映画。だって、ドリューが自殺しようとする状況は、もしこれがあり得るとしたら、それこそ「あんたってお人好しね」としか思えないし、ケンタッキーに向かう飛行機の中で出会うフライトアテンダントのクレアの態度も、「それは職業人としてあり得ないでしょう」だろうし。
でも、作品全体としては許せる設定、枠組みの範囲だと思うのですよね。というか、これだけ「ありそうにない物語」に、知らず知らずに引き込まれていた映像と音楽の職人技に、脱帽です。
終盤、クレアが渡した「魔法の地図」、BGM指定のドライビングコースにそって、ドリューが父の遺灰の入った壷を助手席において、ケンタッキーからネブラスカまでドライブするシーンは至福です。音楽好きな人なら、ドライブ用に曲目選曲したことがない人はいないと思うし、恋人でもいれば自分のセレクトで「感動を共有したい」と思ったりするわけですが、でも、実は音楽の感動ってとっても私的なものだから、感動が共有されることはまれだったりするわけです(笑)。でも、やっぱりプロの技っていうのは、観客に感動を共有させることができるわけで、スクリーン見ながら何度も泣きそうになりました。
オーランドの演技はけっして上手いわけではないです。感動を演出しているのはあくまで音楽。ただ、見ていて、自然な好感を醸し出す雰囲気のある俳優、という意味では、やっぱり貴重なんだと思います。「ありそうにない物語」に命を吹き込む役割は十分果たしていると思います。相手役のクレアを演じているキルシティン・ダンストは、わたしは『スパイダーマン』シリーズしか見た事がありませんでしたが、見直しました。好みではないけれど、オーランドに喝を入れられて、強過ぎずちょっと風変わりだけれど女性としてのかわいらしさも持ち合わせている、という役柄を演じられる女優という点では、うまいキャスティングだったなあと思います。脇の登場人物も個性的で良いです。ドリューの母親(スーザン・サランドン)も上手い!
この作品は、若いカップルのラブ・ストーリーが本筋ではなくて、登場する小さな田舎町の共同体の人々、家族、といった人々を通して、人間一人で生きているわけではないよね、というメッセージをさりげなく伝えてくる繊細なテイストがわたしはとっても気に入りました。
サントラを即買いしましたが、珠玉です!
『ブラザーズ・グリム』
祝公開!
とりあえず、2年もお蔵入りしていた訳ですから(笑)。
グリム兄弟を題材に、テリー・ギリアム監督が放つ映像美あふれるアドヴェンチャー・ファンタジー・・・なんですが、この映画、なんというか一見まっとうなファンタジー映画っぽく見えるんですが、本質はやっぱりテリー・ギリアム作品で、それでいて本当にギリアムが描きたかったものはちょっと違うんじゃない? という所が、やや中途半端な印象を与えているのかも。
19世紀初頭、やらせパフォーマンスの魔物退治で生計を立てているグリム兄弟はいかさまがバレて、その土地を支配するフランス軍の将軍の命により、町はずれの森で起きた少女失踪事件を調査するはめになるが、そこは現実と民話(ファンタジー)が不可分な領域だった。
自作ネタはじめパロディ、オマージュがずいぶん入っているのですが、フィエクな鎧で既に爆笑モードだったわたしは、なんか一人で笑っていると馬鹿みたいな気分に(^^;。
制作費8千万ドル(!)の功罪は、ディテールのリアルを追求した監督こだわりのビジュアルを実現させている一方、ギリアムが描きたかった土俗的な世界にはNGが出されてしまい、それなりにきれいなラッピングがされていることですかね。ラッピングしてもいいから、もう少し脚本がこなれてほしかった気がしますが。(ちなみに一番お金のかかったシーンはカットされていて、DVD特典に入る予定とか(笑)。)
リアリストな兄ウィルとロマンチストな弟ジェイコブをマット・デイモンとヒース・レジャーが上手く演じています。(元々は兄弟が逆の設定で、しかもウィルはジョニー・デップという話もあったそうですが、ジョニーはやめて正解だったと思います。)いい味だしていた脇役は、拷問おたくのカヴァルディ(「拷問を芸術にまで高めた」と自慢するイタリア人のフランス軍武官)。演じているのは「ショコラ」で酔いどれカフェ主人役だったピーター・ストーメアです。近代主義の化身として描かれているフランス軍のドゥラトンプ将軍は、おなじみジョナサン・プライスが演じています。
映画の中の物語設定は、冒頭の子供時代のシーンが1796年、それから15年後、という設定ですが、ナポレオン軍(フランス軍)の描かれ方は史実には合っていません。(あくまで象徴的に使われているようです。)
設定資料*とかみているだけですごーく幸せで、テリー・ギリアムの頭の中のビジョンを観る事ができたらウルトラエキサイティングだと思うのですが、ともあれ、映画館でもう1回位は観ておきたいですね。
*UKオフィシャルサイトが充実してます。↓
http://www.miramax.com/thebrothersgrimm/uk/
『コープス・ブライド』
「死体の花嫁」なんておどろおどろしいタイトルですが、「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」の楽しさにちょっと大人のラブストーリー風味を加えた感じの作品です。
一コマ一コマ手で動かしながら撮影するという気の遠くなるような作業の果てに出来上がる人形アニメーションですが、アップテンポなシーンからロマンチックなシーンまで本当に見事な仕上がりで、この職人技に盛大な拍手をおくりたいです。
不器用な花婿役を演じているジョニー・デップはじめ声優陣が、また豪華。昼間は「チャーリーとチョコレート工場」夜は「コープス・ブライト」、とティム・バートンファミリーも大忙しだったそうですが。神父役のクリストファー・リーも見事にはまってました(笑)。
ラストの蝶が舞うシーンは美しくもほろりとくるシーンで、良いものを観たなあという余韻が残ります。
早くDVDがほしいですね。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』
いやー、まさか、ほんとに映画が出来ちゃうとはね。ダグラス・アダムス原作の古典(?)SFが今映像に甦る。これほど馬鹿馬鹿しくも楽しいカルトSFは、やっぱりメイド・イン・ブリテンならではでしょう。
イギリスの郊外に住むアーサーが、バイパス工事のために家を取り壊されそうになりブルトーザーの前に身を投げ出し抗議をするとある朝、地球はヴォゴン人により銀河バイパス建設のために爆破されてしまう。アーサーは、友人の実はベテルギウス星生まれの異星人フォードの助けにより、ヴォゴン人の宇宙船にヒッチハイクし、からくも崩壊する地球から逃げ出すが、ヴォゴン人に見つかり密航者として船外に放り出されてしまう。彼らが救出される確率は限りなくゼロに近いのだが、ゼロではない…。
なんて、あらすじ紹介をする意味があるとは思えない物語ですが、宇宙船「黄金の心」号を盗んで逃亡中の、頭が二つあるどこかのロックンローラーのような銀河系大統領やら、いつもものすごーく憂鬱なロボット、マーヴィンやら、「生命 宇宙 すべて」の究極の問いの答えをさがすスーパーコンピューター「ディープ・ソート」(林檎マークが一カ所写っているらしい(笑))やら、ユニークなキャラクター満載です。そうそう、忘れちゃいけないのはヒッチハイカー必携の電子ブック「銀河ヒッチハイク・ガイド」。宇宙を旅行してサバイブするのに必要不可欠、そして映画の上映中も観客をサバイブさせてくれるシロモノです。
モンティ・パイソンのSF版と思うと一番違和感がないと思うんですが、イギリス的なシニシズム、ブラック・ユーモアが苦手な人にはあまりお勧めではないかも。でも、この映画版、小説に比べると、びっくりするほどきちんと筋が通っていて、とても印象的なイルカさんの歌から始まり、最後はラブストーリー落ちなんていう曲芸までみせてくれる優れもの。こんなにきちんとした映画は全然期待していなかった身としては、スクリーンに向かって大拍手したい気持ちに駆られました(笑)。
原作ネタは上手く映像化したなーと感心するのに加えて、映画のオリキャラがまたぶっとんでいて良かったです。ヴィルドヴォール第六惑星でカルト教を布教する、ゼイフォード銀河系大統領の宿敵ハーマ・カヴーラ。ジョン・マルコヴィッチがまた怪演を見せていますが、ミサ(?)のシーンがもう大爆笑。宇宙はくしゃみをしたアークシージャーの鼻から出来たと信じる信者達は、お祈りの後に必ずクシャミをする、で、すかさずハーマ司教が「Bless You!」。ああ、おかしい、おかし過ぎる!(キリスト教の"God Bless You" -神の加護がありますように-、と、英語圏の人がくしゃみをすると悪魔のはいりこむスキが生まれる、魂が抜け出てしまう、という迷信から、くしゃみをした人に必ず"Bless you"と声をかけるのとがかけてある。)
ネタリンクが一体いくつあるのかわかりませんが、「黄金の心」号のキッチンにはパンを切るだけでトーストが出来上がるミニライトセイバーが出てきたり、全編遊び心には事欠きません。
SFは楽しい! と心の底から言える作品であります。
『チャーリーとチョコレート工場』
ティム・バートンとジョニー・デップがタッグを組んでロアルド・ダールのあの児童小説を映画化。ロリーポップな色彩あふれる映像と個性的なキャラクター、ジョニー演じるウィリー・ウォンカとディープ・ロイ演じるウンパ・ルンパの共演が予想を上回るびっくり映像になっていますが、ブラックでビターな所は嫌みなくきれいにラップされてさらにびっくり。
世界で一番有名なチョコレートメーカー、ウォンカ。しかしこの15年の間、そこに入った者はいないという謎のチョコレート工場。ところが、ある日、工場長のウィリー・ウォンカから、チョコレートの包みに入っている5枚のゴールデン・チケットが当たった子供を工場見学へ招待する、との発表がある。貧しい家庭の子供チャーリーは、幸運にもゴールデン・チケットを引き当て、夢の工場見学に参加するが・・・。
ジーン・ワイルダーの映画は観ていないので、わたしのイメージはもっぱら子供の頃に読んだ原作ですが、ウォンカは不気味なおじさん(サーカスの団長みたいなイメージ)だし、途中一人一人子供がいなくなっていく様はぞーっとしたものでした。この映画のウォンカはあれだけ変な格好して変な演技をしてもえらく美しいジョニー・デップで、しかも、父親(クリストファー・リー)との確執がトラウマになっているエピソードが挿入されていて、理解しやすく同情票も集まりそうなキャラクターになっています。確かにブラックな所はあるものの、全体としてはきれいなファミリー映画にまとまっているという印象が強いです。普通の子供が言ったら嘘くさいかすごく嫌みになるだろうと思われるチャーリーのせりふを、フレディー・ハイモア(『ネバーランド』)が実にピュアに演じているのも成功の鍵の一つ。
工場内のセットのこだわりのつくり込みもさることながら、最高なのはウンパ・ルンパですよ! イマジネーション炸裂。音楽もめっちゃ楽しくて遊び心満載。この映画の醍醐味はウンパ・ルンパソングのシーンと言っても過言ではありません。ベルーカもほしがるなら、リスじゃなくて、ウンパ・ルンパの方が圧倒的に楽しいじゃないですか(笑)。
ともあれ、実に楽しい映画なので、原作同様世代を超えて愛される作品になると思います。
p.s. 世界初の香り付き上映というのを体験しましたが、劇場に入るとすでに甘ったるいにおいが残っていて、上映中にさらにきつくなる、という感じでした。やっぱり人間慣れていないと脳が余計な情報と思うらしく、たとえば上映中に隣のフライドポテトのにおいが気になるのと同様の気になり度で、効果を盛り上げるという感じではなかったような。あと、これ、やっぱりにおいが残るので、今回は全編チョコレートのにおいでおかしくないんですが、シーンに合わせて変えるのは難しいでしょうね。
『愛についてのキンゼイ・レポート』
1940〜50年代アメリカといえば、第二次世界大戦、戦後処理と冷戦開始、そして共産主義者の赤狩りマッカーシズムが吹き荒れ、東アジアでは朝鮮戦争勃発。ヴィクトリア時代のような性に対する抑圧がまだまだ現役で、人種差別も性差別も同性愛者に対する偏見も大手をふっていた保守的な時代に、全米1万8,000人(ただし実際にはインタビューしたのは白人のみだそうです)にインタビューを行い、「性」の実態調査を行い結果を発表しセンセーションを巻き起こしたキンゼイ博士の生涯を描いた作品。
動物学の助教授キンゼイ博士にとっては、クマンバチも人間のセックスも研究対象としては同列。膨大なデータから引き出された統計学的なレポートは社会的な抑圧に揺さぶるをかけたわけですが、人間がもっている測ることができない感情や愛情とは何ぞや? というところまでキンゼイ博士をとりまく人々を通じて、丁寧に描き出した脚本は良く出来ているなあと思いました。また、演じている役者さんがとてもいいのですね。キンゼイ博士役のリアム・ニーソンはもちろんのこと、博士の妻のローラ・リニーがさすがさすがの名演です。彼女をみることで初めてキンゼイ博士のことが理解できるようなつくりになっている気がします。キンゼイ博士と確執のある父親役ジョン・リスゴーの最後の重々しいやり取りはまさに名場面。
時代によって、社会によって、変わったもの、変わっていないもの、変わらないもの、をセンシティブに見据えた制作者の視点が良かったなあと思います。
結局のところ見所はヒューマン・ドラマなので、過激な性描写とか恋人達に贈るなんとか、みたいなものを期待していくとまったくの期待はずれでしょう。確かにファミリー映画ではないなあとは思うものの、偏見なくご覧になると、心にひっかかるものが何かあると思います。
それにしても、個人的にはリアム・ニーソン主演がツボだったわ。。。
p.s.
ちなみにThe Kinsey Instituteのサイト内で本物のキンゼイ博士がしゃべっている姿を少しだけみることができます。(一行目の"video clip of Dr. Kinsey"をクリック。)
『容疑者 室井慎次』
「踊る」シリーズ、スピンオフ編第二弾。
室井さんが主人公〜! と楽しみにしていたんですが、うーん、暗かった。。。
殺人事件の捜査途中、取り調べを受けていた警察官が突然逃走し、車にひかれて死亡。捜査の指揮を取っていた室井さんは被疑者への暴力行為を認めたとして被疑者の母親から起訴されてしまう。しかし、裏には、警察権力との闘争をアピールしたい灰島弁護士、警察庁と警視庁の権力争い、捜査を辞めさせたい圧力がからみあい、室井さんはのっぴきならない状況へと追い込まれる。
「どうなっちゃうんだろう?」と最後までひっぱる点はそれなりに評価できるのかもしれないけれど、「踊る」シリーズにある「共感」のツボがすっとそれちゃってる感じかな。観ていて、「室井さん、がんばれ!」の気持ちが盛り上がらないのが致命的。
田中麗奈ファンの人には申し訳ないが、ちょっと彼女はつらかった。室井さんはしゃべらないキャラなので、誰かが隣で青島役をやらないといけないんだろうけど、あれは演出のせいか演技のせいかあるいは相乗効果なのかよくわからないけど、とにかくわたしてきにはNGでした。駆出し弁護士にも元陸上選手にもみえないんですもの。
灰島弁護士が、拝金主義者で自己中だけどもっと魅力的な悪役キャラなら楽しかったのに、と思うんですが。
別に室井さんの過去なんて知りたくなかったし、心躍ったのはコートばさっのシーンとねっころがってるシーンだけ、という自分がややさみしいです。(いや、もちろん、好きだけど>室井さん。)
「踊る」シリーズファンとしてはスリーアミーゴスがもってきた披露宴招待状(早過ぎ!)とか、「潜水艦事件」の影響とかのリンクは楽しかったですけどね。
室井さんの映画なのに一番おいしいところをさらっていったのは新城さんなのよね。なぜ?
『亡国のイージス』
「自衛隊全面協力」がひしひしと伝わってくる映像ですが、原作を読んでいないと人物関係その他いまひとつわからなくてちょっと消化不良。確かにこの設定で、福井晴敏ならば、全編緊張感あふれる原作だろう、とは思うものの、映画の方はそこまで入り込めなかったです。
無敵のイージス艦「いそかぜ」を乗っ取った宮地副長以下自衛隊幹部と北朝鮮(と国名はでてこないけど)工作員ヨンファ一味。ヨンファらは米軍が開発した秘密兵器、弾頭につんだミサイル一発で首都圏を壊滅させる「GUSOH」を「いそかぜ」に持ち込んでいる。乗っ取り犯は日本国政府に要求を突きつけた後、全乗組員が下船させるが、仙石専任伍長は一人「いそかぜ」に戻る。
人情厚い仙石専任伍長演じる真田広之が一人で奮闘する話、としてはOKなんですが、肝心の乗っ取り犯側の目的やら乗っ取った後のゴールやらなにやらがいまひとつ説得力が薄くて、宮地の個人的事情を除くと覚悟の足りない幹部達がなぜ共闘しているのかよくわからなかったというのが正直なところ。
さらにヨンファ一味の中の紅一点、ジョンヒとヨンファ、ジョンヒと如月の関係が不明瞭で、前者は家族の写真らしきものをもっていたから、親子というのはあんまりかなあ、となると、兄妹? 後者は如月が故郷にいる時の知り合い? 関係すると思われるシーンは挿入されているんだけど、あまりに説明不足で腑に落ちなかったのでありました。
というわけで、個人的に映画として楽しめたのは『ローレライ』の方ですね。艦隊や戦闘機の映像はこちらの方が断然リアルですけど。
防衛庁情報局の本部長役の佐藤浩市と内閣情報官役の岸部一徳のやりとりは楽しめました。
それにつけても『パトレイバー2』の脚本はすぐれていたなあと。フィクション設定とはいえ、テロリスト犯人像、事態展開、ともにエッセンスが凝縮されていて、抜群の説得力があるとあらためて思います。
『アイランド』
いかにもマイケル・ベイ監督、という感じの近未来設定のアクションもの。本来まったくもってわたし向きの映画ではないのですが、役者陣の豪華さにつられました。
汚染された地球の外気から隔離されたコミュニティで暮らす住人は、抽選に当たり地上最後の楽園「アイランド」に行くことを夢見ている。しかし、リンカーン(ユアン・マクレガー)はふとしたことから自分たちはクライアントへ臓器提供をするために生かされているクローンであることを知ってしまう。リンカーンは「アイランド」行き(=臓器摘出送り)が決まったジョーダン(スカーレット・ヨハンソン)とコミュニティから逃げ出すが、メリック社は「商品」と企業秘密を取り戻すために強力な追っ手を放つ。
クローニングとかまじめに検証しちゃいけません。こーいう設定とこーいう絵にしたかったんだよー、としか考えていないと思われるので。
とにもかくにも、オールバックに銀縁眼鏡、ダークスーツ姿のいい人づらして「悪役万歳!」なメリック博士役のショーン・ビーンを堪能できたので、わたしとしては元は取れました。ショーンが出てこないととたんに退屈になって困りましたが。(特に、おそらくこの映画に見せ場と思われる、延々続くカーチェイスと宮崎アニメのようなアクションシーンとか。)追っ手の警備会社(いわゆるprivate armyですかね)のリーダーは、肝心なところで、判断遅いし、致命的なミスをするし、最後は「それはプロじゃないだろう」とかまあいろいろ。
リンカーンのお友達の技師マーコッド(スティーヴ・ブシェミ)はいいキャラでしたね。(ガール・フレンドの洋服ダンスからゴスロリ服とか看護婦の制服がでてくるのは・・・(笑)。)メリック博士を評して「God Complex」とはまったくいい得て妙。途中退場が残念でした。
ユアンは可もなく不可もなく、というか、キャラがわたしのツボにはまらなかっただけで、キャスティングは正解だったと思います。スコットランド訛りのオリジナル・リンカーンは面白かったですけど。
ユアンとショーンの取っ組み合いをみることができるという点で、この映画は貴重だと思います。はい。
『姑獲鳥の夏』
なるほど実相寺監督でした。
以上。という感じなんですが(笑)。
映像化不可能と言われた京極夏彦デビュー作の映画化。
「御祓済 京極夏彦」の朱印から始まるところはご愛嬌。白黒風景写真から切り替えていったり、昭和27年を舞台にした作品世界をあらわすための小道具はかなり凝っていましたが、やや多用しすぎた斜めカメラワークに加えてスポットライトとかいくつかはずしている演出が残念でした。
原作既読者が「ああ、そうそうこのせりふ」とか「ああ、こうしたのか」と思いながら観る分には、結構楽しめますが、映画だけ観た人にはよくわからない退屈なストーリー展開だったと思います。
配役は予想通りいまいち。原作付きの場合は自分のイメージとは違うけれど映像の中でははまる、ということもあるんですが、最後までしっくりこなかった堤真一の京極堂と永瀬正敏の関口でした。意外とOKだったのが阿部寛の榎津。もうちょっとがっしりして破天荒なイメージではありますが、眼差しにはっとさせられる異色感はよかったです。木場修は単なるちんぴらでした(涙)。しっくり画面に溶け込む原田知世と迫力のあるいしだあゆみはとても良かったです。(二人のおかげでかなり救われています。)
「映像化不可能」なところは、結局関口がみたもの、という描き方です。まあ、それは有りかなあとは思うのですが一番がっかりしたのは京極堂の憑物落としのシーン。これだけ全体的に特撮臭のある映画になるならば、こここそ「格好良く」演出してほしかったんですが、黒衣じゃないし、中途半端な特撮シーンになってしまっています。凛とした雰囲気のかけらも感じられませんでした。
京極夏彦カメオ出演あり。黒猫のザクロがかわいいです。
総じて丁寧に作ってあるが肝心のツボをはずしている、という印象ですかね。映画館でないと集中力が続かないかも。。。
『バットマン・ビギンズ』
『メメント』のクリストファー・ノーラン監督がアメコミ「バットマン」の世界をどう描くのか興味惹かれて観に行きました。
主人公ブルース・ウェインがいかにしてバットマンになったか、という部分を丁寧な人間物語として描いている作品。前半の展開がいまいち普通で「も、もしや、はずした?」という疑念がちらっと頭の隅をよぎりましたが、いやいや、さすがノーラン監督、後半きっちり伏線をつないで思わず膝をうつおもしろさ。ところどころのカメラワークにもハッとさせられます。コウモリが襲来する「病院」のシーンは美しいですね。
バットマンは超能力者ではないので、素材やら機具やら車やらちゃんと「説明」があるところが律儀(笑)。
渡辺謙演じる影の軍団の長、ラーズ・アル・グールはあっという間に退場してしまいますが演出としては完璧かも。剣さばきも一番迫力があるし。意外な伏兵だったのが、主人公の師、ヘンリー・デュカードを演じるリアム・ニーソン。うわー、この人、こんなところでこんなにかっこいいとは思ってもみなかったわ。あの顔であの行動、まさしく単純な悪役ではないキャラクターにしびれます。
主人公のクリストファー・ベイルはじめ、つましく善に奉仕する刑事役のゲイリー・オールドマン、左遷された技術屋モーガン・フリーマン、精神科医の顔とイっちゃってる顔を使い分けたキリアン・マーフィー等々キャスティングが見事にはまっていました。CGの派手さが売りではなく、人間ドラマを描ききるに足る演技派の役者陣を布陣したところはさすが。
執事役のマイケル・ケインもいいですね。彼無くしてバットマンは在りません。自家用ジェットでお迎えに来てくれるし、体調に合わせた目覚ましジュースを用意してくれるし。バットマンの耳を「一万個発注しました。」って最高です!
メメント監督のバットマンをもっと観てみたい、と思わせる魅力をもつ作品ですが、最後はきっちり既存シリーズにつなげているところがにくい。
アメコミ娯楽映画、勧善懲悪ヒーロー物とは一線を画した映画と言えるでしょう。バットマンをみたことない、という人にもお勧め。
ところで、観ている間は全然気がつかなかったけど、主人公の父さんの会社をコントロールしていた役員を演じていたのはルトガー・ハウアーではないですか。うっそー! という位、面影がありません(^^;。
『スター・ウォーズ エピソード3』
「エピソード1」から始まる三部作の締めであり、最初のスター・ウォーズ三部作(エピソード4〜6)に橋をかけることになる作品、というわけで、とりあえず先先行を観に行きました。
クローン戦争の終盤、パルパティーン最高議長が、分離主義者同盟のグリーンパス将軍の人質になってしまい、オビ=ワンとアナキンが救出に向かう、という場面から始まります。多少は成長したかにみえるアナキンも、秘密結婚したパドメを失うかもしれないという恐怖から、パルパティーンの罠にはまってしまいます。本性を現わすパルパティーン、道を外れるアナキン、弟子を倒さねばならなくなるオビ=ワン、と、合間にCGの大回転画像をはさみながら、物語は予定された結末へと進んで行きます。
大活躍のR2、オビ=ワンを乗せて疾走する大トカゲ、めちゃ強いダース・シディアス、意外とお国では偉かったチューバッカなどなど、「エピソード2」よりは楽しめるシーンが多かったです。しかしながら、アナキンがダークサイドに堕ちていく過程は「致し方なし」というほどの説得力はなく、全体的にどこどこ人が死んでゆく暗いパートとなっています。最初のSW三部作のヒーローが活躍するスペースオペラというイメージからは「ずいぶん遠くにきちゃったね」という感じではありますが、逆に「新たなる希望」に至る前段階の暗い世界を描く必要があった、という制作意図を汲むならば、これもまたやむなし、という所なのでしょう。
かくしてダース・ヴェイダー卿誕生。さあエピローグで終わりだわ、と思っているところに、ヨーダの爆弾発言が! なんというかそれまでの2時間弱の記憶が消し飛ばされるというか、二十数年培ってきた自分なりのSW世界が覆されるというか、これだけ驚かされたシーンもそうそうないですね(^^;。この一点において、SWシリーズは伝説になった、と個人的には思います(笑)。
すでにご覧になった方向けネタばれ話はこちら。(未見の方は読まないことを強くお勧めします。)
『バタフライ・エフェクト』
日記を読む事で過去の自分に帰れることを発見する主人公エヴァン。少年時代、記憶のない時間に何が起きていたのか? 過去を探索するうちに、初恋の少女を助けたいという衝動に駆られるエヴァンだが・・・。
テンポ良く見せるので、知らず知らずのうちに引き込まれていました。後から時系列で思い起こすと「あれ? ちょっとそれは…」となるんですが、観ている間はそれに気がつく余裕がない位に次々と展開していきます。成人した主人公を演じる期待のホープ、アシュトン・カッチャーが予想以上に良い演技でした。彼の演技によってこの作品の説得力を増している気がします。
『バック・トゥー・ザ・フューチャー』は夢を語ったファンタジーだけれど、こちらはあくまで醜い現実をベースにした人間の本質を見据えた大人の物語。病んだアメリカ社会、ダークな描写もあるので、苦手な人もいるかも。
予告編でエンディングは割れているのですが、そこにどうやってもっていくのか、「日記がない」世界にたどり着いてしまった主人公の最後の行動は? とラストまで目が離せません。「切ないハッピーエンド」というキャッチコピーがぴったりの「甘過ぎず苦すぎず」のエンディングは、オアシスの「Stop Crying Your Hear」との相乗効果で見終わった後の感情の波が絶妙。観てよかった〜、と思えるのです。
実はディレクターズカット版はもっと悲劇的なエンディングで、ネタをきいた限りでは、それだとわたしはちょっと納得しなかったかも、というものでした(^^;。
「蝶が羽ばたくと、地球の反対側で竜巻が起きる。」カオス理論の一つをタイトルに据えている割りには、やや繊細さに欠けるという気もするのですが、でも、これを使ったセンスは確かに成功しているのですよね。この作品がデビュー作という二人の監督さんの今後に注目。
『交渉人 真下正義』
「踊る大捜査線」シリーズのスピンオフ企画。青島が登場しないストーリーということで、今回は真下が主人公として、地下鉄の試作車両乗っ取り犯との攻防戦を繰り広げます。
尼崎列車事故の記憶がまだ新しい中、列車が衝突しかかるシーンをみるのはあまり気分の良いものではありませんが、まあ、こちらは死人がでないので。
「踊る」ファンとしては、SAT隊長や爆弾処理班班長がでてくると、それだけで楽しいというのは確かにありますね。主要キャラがいない分、硬派な地下鉄運行総合指令室長を演じる國村隼、コメディ牽引役の広報主任を演じる石井正則、システムがおしゃかになった時の助っ人線引屋を演じる重鎮、金田竜之介、そして足でかせぐ柄の悪い捜査一課の木島警視を演じる寺島進がいい味を出していました。
トータル、そこそこおもしろかったけれど、でもやっぱり一本の映画としては印象が薄いです。元々「踊る」シリーズはキャラクタードラマでみせる物語で、「あっと驚くストーリー展開」というよりは、登場人物達と一緒になって泣き笑い、が売りだったわけで、それを希求するには主人公真下ではちょっと弱いです(^^;。(ユースケ・サンタマリアは良い演技をしていたと思いますが。)「ボレロ」ネタとか、制作側の「おれっちもやってみたい」な気持ちが微笑ましくはありましたが、本筋ががっしりしていてプラスアルファなネタがあってこそ盛り上がるものなんですよね・・・。
とまあ、ややまったりした気分で迎えたエンディングですが、次のスピンオフ企画『容疑者 室井慎次』の予告がスクリーンに! その瞬間それまでみていた2時間ドラマはごっそり記憶脳の隅に追いやられました。8/27を期して待ちますとも。早く観たい〜。
『キングダム・オブ・ヘヴン』Kingdom of Heaven
初主演のオーランド・ブルームはとてもがんばっていた。細部まで本物志向で、セットも衣装もWETA製作アーマーもグレイト、火薬もたっぷりつかってお金かけて作ったこともよーくわかる。でも、総体的には中途半端という言葉が一番しっくりくるのはなぜなんだろう・・・(^^;。
鍛冶屋のバリアン(オーランド・ブルーム)の下に一人の十字軍騎士ゴッドフリー(リアム・ニーソン)が現れ、「お前の父だ」と名乗る。とある事件で村にいられなくなったバリアンは父の後を追うが、旅の途中でゴッドフリーは戦闘により重傷を負い、バリアンに騎士(ナイト)の称号を授け息を引き取る。バリアンはエルサレムの地で、国王ボードワン4世の治めるエルサレム王国はイスラム教徒の国サラセンの王サラディンと和平をむすび、エルサレムの町を宗派に関係なく共存地域として解放しているが、配下にはこころよく思わない狂信的な十字軍騎士たちがいることを見いだす。そして、望まずともバリアンがエルサレムの町を守るべく立ち上がらなければならない日がくる・・・。
十字軍の題材となれば、一歩間違うと宗教問題の火種になるわけで、ポリティカルライトへの配慮は入念。どちらか一方が正義ではなく、両陣営に良い奴もいれば悪い奴もいる、という中立の立場で描き、主人公が求めるものは宗派に関係なく平等で人々が良心に従って生きられる理想郷「キングダム・オブ・ヘヴン」。立場もいいたいこともよくわかるんだけど、それをあの手法で描くには少なくとも倍の時間が必要ですね。2時間ちょっとでは、どのキャラクターも薄っぺらくなってしまっています。無理矢理バリアンとサラセンとの個人的なつながりをつくるより、むしろ、オーソドックスにバリアンの視点で描いて、十字軍側にいながらわきおこる疑問をぶつけた方が物語としては深まった気がします。バリアンの精神的な成長の物語、とするには、必ずしもバリアンに焦点が当たっていなくて、バリアンとシヴィラとの関係もなんだか本筋から浮いています。
リアルさを追求したクライマックスのバトルシーンは、『ロード・オブ・ザ・リング』と『トロイ』の後では、いくらほんとにエルサレム作っちゃいました、人間に火をつけちゃいましたとか、投石機横倒しにしちゃいました、と言われても、デジャブーな気分は払拭できず。なんで同じアングル使うのかしらん。リドリー・スコット的なはっとする映像をはどこにいってしまったのか。オーランド・ブルームは本当によくがんばっていて、もてる力以上の物を出し切っていると思います。でも、戦い前の演説で人を魅了するのはいかんせんまだ無理なのでした。俳優の力量を見極めて最良の使い方をするのも監督のお仕事なわけで、オーランドを主役にすえたなら、もうちょっと違う見せ場の作り方があったのでは? という気がします(^^;。
ということで、オーランドファンにとっては大変おいしい映画ですし、お金の掛け方も半端ではありませんが、一作品としての面白みはあまり期待していかない方が良いかも。はしにも棒にもかからないというほど悪くはないけれど、かといっても絶賛もできないという感じ。個人的にはオーランド・ブルームを育てた映画として価値が高まる日がいつかくると信じています(^^;。
『エレニの旅』
テオ・アンゲロプロス監督の最新作。時代を語る壮大な叙情詩を紡ぐ美しい映像にただただ魅入っていました。
赤軍侵攻によりオデッサから逃げてきたギリシャ人移民たち。その一行を率いる男スピロス、妻ダナエ、息子アレクシス、そして孤児エレニ。少女となったエレニはアレクシスの子供を身ごもり密かに双子を出産するが、それを知らないスピロスは、ダナエの死後、エレニを妻にしようとする。花嫁姿のまま逃げ出すエレニとアレクシス。ヴァイオリン弾きのニコスが二人を救い、アレクシスはアコーディオン奏者として職を得る。しかし、時代の暗い影はニコスを左翼とレッテルし、アレクシスは夢のアメリカ行きの船に乗るが、戦争が世界を覆い尽くしていく。
上映時間3時間ですが、とても贅沢に過ごした気がします。映画館で観るべき映画ですね。ゆっくりした長回しの映像がこれほど美しくかつ緊張感をもたらす映像であり得るのはアンゲロプロス監督ならではでしょうか。水没する村、シーツが一面に干されている白布の丘、川を下る黒旗を立てた葬儀の船の群れ、スクリーンの上に余計なものは一切なく、引き算の結果、そこに残っているのは神髄のみ、という映像をみせられている気がしました。一人の孤独な老人の死の重みを痛感させておいて、後半、いとも簡単に人の命が奪われる時代が対比させられている所も技だなあと。
今作は1919年に始まり現代のニューヨークに至る旅となる三部作の第一部とのこと。
公式サイトはこちら。
『ローレライ』
福井晴敏の原作、「踊る大捜査線」の亀山千広製作、平成「ガメラ」シリーズの樋口真嗣監督、「金融腐食列島・呪縛」の鈴木智による脚本。まさにこのスタッフにしてこの作品ありと納得なのですが、わたしはとても楽しめました。
1945年8月、第二次世界大戦末期、広島に最初の原爆が投下される中、ドイツ降伏後にひそかに運ばれたUボート、伊507潜水艦、別名"ローレライ"が日本に到着する。広島に続く本土への原爆投下を阻止するため、絹見少佐は海軍軍司令部作成課長の朝倉大佐の命により、伊507艦長として出撃する。しかし、最新式ローレライ・システムは想像を超える仕組みであり、また、やがて朝倉大佐の秘められた意図が明らかにされる。第三の原爆投下ターゲットは東京。伊507のすすむべき道は?
第二次世界大戦末期の日本を舞台に、架空の設定を上手く入れ込み、エンタメとして楽しませながら、骨太の実写作品として仕上げたことは賞賛に値すると思います。原作は未読なので、どういう作り替えをしているのかはわからないのだけれど、映画としてはとてもおもしろかったです。観ながら、「踊る」だなあ、という感覚(ギバちゃんが出ているからではありません(^^;)と、このキャラ回しはアニメだなあ、という感覚がしきりとしましたが、説得力を出しているのは他でもない役者さんたちの演技の力なんですよね。絹見艦長を演じる役所広司は絶品。泣かされましたよ。どんなに映像技術が進歩しても、最後は”人”なんですよね。その他キャスト陣はかなり豪華なんですが、その布陣が見事に生きているなあと。
戦闘シーンはいかにもCGにみえてしまうので、そのあたりを期待してみるとはずしてしまうと思いますが(^^;。
登場人物の行動やらなにやら当時としては「あり得ない」と言われればごもっともでしょうが、むしろ、1945年8月日本という時代を「設定」として一つの「物語」が立ち上がっている、とみると、やっと実写映画でこれができるようになったんだなあという感じがします。個人的には日本映画の秀作の一つにレッテルしました。
p.s.
クレジットに"B29マークデザイン 押井守"と出ていました。こんなところでからんでいたのね(^^;。
『レジェンド 三蔵法師の秘宝』The Touch
タイトルからしていかにもB級映画なんですが(笑)、『グリーン・デスティニー』のミシェル・ヨー主演・制作、というのはどうでもよくて、リチャード・ロクスバーグ(『ヴァ・ヘルシング』のドラキュラ伯爵)が悪の組織のボス役で出ている、というので観に行きました。
普通の人間ではたどり着くことができない場所に隠されているという三蔵法師の秘宝。それを守る使命を帯びる曲芸師一族の末裔と秘宝を狙う悪役カールの対決もの。"伝説"の秘宝は本当に存在するのか?
ストーリーはまあ見事にお約束なんですが、青島、敦煌、チベットと中国大陸横断ロケによる美しい風景はなかなか見応えがあります。そして、なんといっても、リチャードが出ずっぱり。美術愛好家、手段を選ばず、冷酷にしてスタイリストという、絵に描いたような悪人ぶりがたまりません。黒のコートに黒のサングラスのいでたちがなんと似合うことか。
"お仕事"を終えて帰ってきたエリックに向かって、"Success?"って、それは伯爵登場のせりふと同じじゃないですか〜(笑)。異国でふんぞり返るスノッブな白人に金で雇われる部下にろくな奴がいないのはしょうがないですが、使えないいとこの面倒までみなくてはならないのには同情します。
「運命が待っている」・・・うふふ、最後まで楽しませてくれましたわ〜。
ところで、秘宝の鍵となる"敦煌の心臓"というハート型の石の細工物が "medallion" と呼ばれていて、時々頭の中に「パイレーツ・オブ・カリビアン」の呪いの金貨が浮かんできてしまって困りました(笑)。
『真夜中の弥次さん喜多さん』
しりあがり寿のコミックを宮藤官九郎が脚本化&初監督と言われて、一体どんな映画になっているのか興味津々で観てみましたが、やはり異色作でありました(笑)。
恋仲の弥次さんと喜多さんは、喜多さんのヤク中を治すためにお伊勢参りの旅へ。しかし、道中様々なトラブルに巻き込まれ・・・。
クドカンなので軽快なロードムービーかと思いきや、結構ディープな世界だったかも。ホモカップルが主人公、おまけに一人は幻覚ばりばりの中毒患者ですからねえ。なんでもありな設定なところに、ぶっとびギャクがてんこ盛り、おまけに自分探しの死と生を見つめる旅までしてしまうわけですから、見終わった時にはお腹いっぱい胸いっぱいでした(笑)。
突き詰めるとフィリップ・K・ディックの世界なんですが、それを、笑いと純愛と様式美でトレンディに仕上げてしまうクドカンの才覚というのはすごいと思います。
TOKIOの長瀬くんもがんばってたし、中村七之助(←わたしTVみないので一番ピンとくるのは『ラストサムライ』の明治天皇役かも)はやはり基礎がしっかりしているので、どんな形にしても様になるというか上手いです。その他の出演者というのが、またとんでもなく豪華。とろろを売りつけている腹の出た宿屋のおやじ「キング・アーサー」が中村勘九郎とは恐れ入りますよ。
終盤、そろそろ胸焼けしそう、かつ、オチはどうするのかねえ、と気になりだしたところに、ARATA(『ワンダフルライフ』『ピンポン』)がバーテン役で登場。後ろ姿の声だけで、きたーーーって感じだったんですが、もうその時点で弥次さんと喜多さんの行く末は個人的にはどうでもよくなりました(笑)。あの幻想的なシーンにぴったりのはまり役で、ほれぼれです〜。
まあ、そんなこんなで、オープンエンドの展開についていけない人にはちょっとしんどい映画かもしれませんが。でも、この映画、見終わってみると、まあ、世界なんてどうせ不確かなものなわけで、くよくよ悩んだり、リアル探しなんかしている暇があったら、隣の人を愛してごらん、人生楽しんでごらん、何かみえてくるものがあるんじゃないの? というメッセージになっているんじゃないかと。
音楽は元ナンバーガールの向井秀徳率いるZAZEN BOYS。
総じて、シブヤにふさわしい映画ですね。
一つだけとても不思議なのは「支援・文化庁」。一体どのあたりが支援するに値するとお役人に判断されたのだろうか・・・。
『ナショナル・トレジャー』National Treasure
いや〜、無駄にお金がかかったエンタメ映画ですが、結構楽しかったです。
ゲイツ家に伝わる伝説の秘宝を追い求める考古学者で冒険家のベンジャミン・フランクリン・ゲイツ(ニコラス・ケイジ)。至高の権力と共にあった財宝、それはエジプトのファラオの墓からエルサレムのソロモンの神殿、フランスのテンプル騎士団、コロンブスと共に海を渡りアステカのピラミッド、そしてアメリカの独立戦争が激化する中で消息を断ったという。ゲイツは秘宝の隠し場所をあらわす鍵が、「アメリカ合衆国独立宣言」に隠されているということを突き止めるが、トレジャー・ハンティングのスポンサーでありパートナーだったイアン(ショーン・ビーン)と対立。ゲイツはイアンからもFBIからも追われるはめに陥るが、果たして秘宝のありかの謎を解く事ができるのか?
お話としては、米国人による米国人のための冒険物語であり、テンプル騎士団やらフリーメーソンやらといったあやしげなキーワードと共に語られる物語なので、そのあたりは割り切って楽しみましょう。ディズニー映画らしく、過度に走らず、観客を楽しませよう、という、ベースラインをきちんと押させて展開するので、ある意味安心して観ていられます。
期待以上にツボだったのがショーン・ビーン演じるイアン・ハウ。しょっぱなからいきなり主人公を裏切り悪役道まっしぐらなわけですが、意外と知的(悪賢いともいう)で、状況に応じて損得をきっちり見分ける、資金豊富な超法規的行為も辞さない男。(あれで、もうちょっとまともな相棒がいればよかったのにねえ。)予想以上に活躍(!?)していて、楽しかったです。いや、ほんと、悪役万歳! ですよ(笑)。
『トロイ』のヘレン役のダイアン・クルーガーは、ゲイツの相棒役を楽しく演じている様子で、生き生きとしていました。(別に他の役者さんでも全然構わない役どころではありますが。)FBI捜査官のハーヴィ・カイテルは渋〜いいい味だしていました。ゲイツの父役はなんと『真夜中のカーボーイ』のジョイ・ボイドだったんですね。後半の演技がすごくよいのです。
『ロング・エンゲージメント』A VERY LONG ENGAGEMENT
ジュネ監督の最新作はオドレイ・トトゥ主演の『アメリ』コンビ再び。
第一次世界対戦中、軍紀違反で死刑を宣告された5人のフランス人兵士は、前線”ビンゴ・クレピュスキュル"の塹壕から対峙する独軍との中間地点に置き去りにされた。5人のうちの一番若い兵士マネクの恋人マチルドは、マネク戦死の悲報を受け取るが、決定的な証拠はない。「ビンゴで何が起きたのか?」 恋人の死を納得することができないマチルドは、探偵を雇い、新聞広告を出し、マネクの捜索を始める。
甘いラブ・ストーリーではなくて、ミステリー仕立ての物語。大河ドラマ的でもあり、原作ではもっと掘り下げられているのではと思われる5人のエピソードを十分に語ってほしかった気もするし、2時間ちょっとの映画より、むしろ、連続ドラマ形式でみたい物語のような気がします。まあ、もちろん、ドラマではこの予算はつかないけれど。
見所はやはりこだわりの映像美、ジュネ・マジックでしょう。戦場からパリの市場まで、ふんだんに空撮シーンやCG合成シーンを使いながら、すべてにジュネマークが入っている感じ。墓地や戦場跡の一面の野原なんていうスクリーンいっぱいに広がる構図にもためいきが出ます。『アメリ』の世界的なヒットなおかげで、ワーナーも出資の大予算映画でジュネ・マジックが実現できたことはすばらしいです。『デリカテッセン』、『ロスト・チルドレン』、そして『アメリ』に共通していたシュールさやブラック・ユーモアなんかは影を潜めていて、もっと真っ向から人間を撮っている感じですね。もっとも、故意にゆがめなくても十分にゆがんでいる戦争という状況下の物語なので、マネクなんかナチュラルに戦場で正気を失っているし、あんな形で復讐を果たしてしまったティナという女性もいますしね(ティナ&アンジュに究極の愛を感じてしまう)、一皮むけばやはり「愛こそすべて」というより、「意志こそすべて」というか「我思う故に世界有り」というか、そんなシュールさを感じてしまったりもします。
配役はいつものジュネ・ファミリーはもちろんのこと、そうそうたるメンバーが参加。ジョディ・フォスターまであんな端役で出ているとは、びっくりでした。
『オペラ座の怪人』Phantom of the Opera
ご存知超有名ミュージカルの映画化。
うーむ、ファントムが肝のミュージカルでファントムがはずれだとこれはもう致命的。ファントム役のジェラルド・バトラーの写真をみた時点で「違う!」と思ったんですが、自分としてこれほど受け入れられないとは・・・。
舞台をなぞる展開ですが、映画だからこそできる演出が良い面悪い面くっきりでてしまっている感じ。お金をふんだんに使ったセットは確かに素晴らしい。劇中劇の歌手もバレリーナも豪勢で、マスカレードも最高! それが、主要キャラ三人のシーンになると、とたんにつまらなくなってしまうのは、やっぱりライブ感あってこそ楽しめるというミュージカルの本質がごっそり抜け落ちているからでしょうか。
クリスティーヌ役のエミー・ロッサムはなかなか健闘していると思いますが、歌姫カルロッタを吹替えオペラ歌手に歌わせると、どう転んでも、クリスティーヌはちょっと歌が上手くて若くてきれいなアイドルとして持ち上げられたとしか見えない訳で、物語の説得力ががくんと落ちてしまうのですわ。(まじで、クリスティーヌよりカルロッタにもっと歌わせろ!と思ってしまいましたもの。)
オペラ座のパトロンでクリスティーヌの婚約者ラウルは元々どうでもいいのですが、問題はファントム。見かけ若くてもそれなりに歌が上手くて魅力的なパフォーマンスができるならOKと思っていたのですが、どっちもダメダメでした。先入観があるせいかもしれないけど、でもでも、あれじゃファントムはただのエンジェル詐欺でフィギアおたくのストーカーじゃないですか。もっと、朽ち果てているようでありながら、どーしてこんなに惹かれるの? と自答させるような際キャラでないと、クリスティーヌがなぜラウルと愛を誓いながらファントムにも揺れるのか納得いかないわけですよ。魅惑の音楽、魅惑の声はいずこに…。大いに不満。
唯一息を飲んだのは墓地のシーンでした。ゴシックな彫像が立ち並ぶ雪化粧の墓地を歩く黒いマントに身を包んだクリスティーヌ。美しいです。完璧です。ほんとはクリスティーヌの歌に聞き惚れ、ほろりとくるシーンのはずなんですが、歌なんて耳に入らないほど、ゆっくりパンする映像に見惚れてました。いやー、これだけで、わたしの1300円は報われた気がします。DVD、ここだけ切り売りしてもらえないでしょうかねえ。この後の、突然始まる剣ファイトはやや唐突でしたが(^^;。
スワロウテイルのシャンデリアが落ちるシーンは、必然性はやや疑問ですが、豪奢なものが壊れる時のカタストロフィーが味わえる、という点では予算がふんだんな映画ならではの演出ということでよろしいのではないでしょうか。
ラストは笑ってしまいましたよ(←見終わった後の余韻としてさらに致命的)。
というわけで、まあ、話のネタとしては楽しめますが、多少なりとも感銘を受けたいという方は舞台を鑑賞された方がよいでしょう。(でも、わたしのお勧めミュージカルは『レ・ミゼラブル』の方ですが。)
『ネバーランド』Finding Neverland
劇作家ジェームズ・バリが『ピーターパン』を生み出した背景を舞台に、細やかな人間物語を綴った逸品。
最新舞台作が失敗に終わったばかりのバリは公園で未亡人シルヴィアと4人の息子に出会う。自分も少年のようなバリは子供たちと空想の世界で遊び、心を通わせながら、永遠の少年を主人公にした新しい作品を思いつく。
お互い心が離れて行くバリと妻、シルヴィア一家とバリに対して心無い噂を立てる大人達、シルヴィア一家を心配しバリを遠ざけようとするシルヴィアの母、変える事のできない残酷な現実と向き合いながらも、人の心が生みだす奇跡のようなきらきら輝く瞬間が美しく描き出されます。
ドラマチックな強調ではなくむしろ抑制気味の展開でありせりふ回しであるが故に、逆に自分の心が障壁なくすーっと映画のシーンに入り込んでしまう感じで、何度も泣いてしまいました。子役の子供たちが本当に素晴らしい演技なのです。特に、ピーターを演じたフレディ・ハイモア、父の死で深い心の傷をおっている幼い子供の心の振れを演じる様は演技であることを忘れさせる位の誠実な迫力があるのです。長男のジョージが「少年から大人になる瞬間」もとても心に残りました。
バリ役のジョニー・デップはあまりにナチュラルで何と表現していいのかわかりませんが、まさに彼のためにあるような役柄で、はまり過ぎる位にはまっていて、そして何よりも素晴らしいのは、彼一人が目立っているのではなく、彼がいることで驚く程完璧に全体の調和がとれていることだと思います。
シルヴィア役のケイト・ウィンスレットも予想よりずっと良い感じだったし、シルヴィアの母役のジュリー・クリスティ(『トロイ』でアキレスの母役)や舞台の興行主役のダスティン・ホフマンといった重鎮の存在感も貴重。イアン・ハート(ワトソン先生!)がアーサ・コナン・ドイル役で出てきたのにはびっくり(笑)。
『ピーターパン』の舞台で一番感動的な瞬間は、「妖精がいることを信じると言って! 信じる人は拍手をして!」と観客に問いかけるシーンだと思うのですが、なぜこのシーンがこれほど大人の胸を打つのか、『ピーターパン』が子供向けの作品ではなく、大人向けの作品であることを深く理解させられます。それはこの映画が史実そのままではないからといって損なわれるものではないと思います。『ビッグ・フィッシュ』と通じるものを万人に受け入れられる形で提示した作品とも言えるのかもしれませんが、ともあれ、わたしてきには今年最高の映画を見てしまった気がします。