1998年に観た映画から




『ガタカ』 GATTACA
  生まれてくる子供の遺伝子操作が可能となった近未来。優秀な遺伝子を”デザイン”された”適正者”のみがエリートとしての道を約束される。自然のままに生まれた主人公ビンセントは、劣性の遺伝子保持者として、生まれた時すでに余命30年余りと宣告され”不適格者”の烙印をおされる。ビンセントは、事故で将来への夢を絶たれた”適正者”=ジェロームの遺伝子プロファイルを買い取り、彼になりすまして宇宙飛行士の夢を追う。そして、タイタンへの飛行が叶う寸前、一つの殺人事件が起こる・・・。

 「ありうるかもしれない未来」にどれだけ観客の心をひきつけられるのか。
 アンドリュー・ニコルが描く『ガタカ』の世界は、見事に「引き込む」ことに成功しています。奇抜さで観客を驚かすというより、あくまで丁寧に仕上げられたストーリーと洗練された映像美で魅了していきます。普遍的なテーマを内包していると同時に、それは自分とは直接関係のない”大いなるテーマ”ではなく、観客が自分自身と向き合わざる得ないような、そんな描き方がされているように思います。

 一つのキー・ワードは「可能性」です。
 「可能性は無限なり」というのも一つの捉え方でしょう。でも、私はあれこれと割り切れない思いを抱えながら、何か言えることがあるとすれば、「自分に何ができて、何ができないか」は、外部から強制されるのではなく自分で見極めたいってことでしょうか。

 脚本・監督のアンドリュー・ニコルは『トゥルーマン・ショウ』の脚本を書いた人といった方がわかりやすいのかもしれません。音楽は、ピーター・グリユーナウエイ作品や『ピアノ・レッスン』を手掛けた、あのマイケル・ナイマン。ラストのクレジット見ながら泣けてきたのは、ナイマン音楽のせいとも言えますね。



『トゥルーマン・ショウ』 the TRUMAN show
 「平凡だけれど幸せな生活」を絵に描いたようなトゥルーマンの毎日。 平和な小島の町シーヘブンで、毎朝隣人に挨拶して仕事にでかけ、美人の妻と円満な生活を送っている。ところが、全てはテレビ番組のためのつくりものの世界だった。町も親も友達も妻も全世界に24時間放映されるテレビ番組”the TRUMAN show”のために演技をしているのだ。万人に見守られながら、知らずにいるのはトゥルーマンただ一人。やがて、トゥルーマンが周囲に疑問をもちはじめる日が・・・。

  自分を取り巻く世界が偽物なのではないか?と悩む主人公といえば、ちょっとディックっぽい話かなあと観る前は思っていました。しかし、あのジム・キャリー紛する明るい青年トゥルーマンには、やはりディック的な狂気すれすれな世界は似合わないのでありました。トゥルーマンは素直に育っているので、行動も素直というべきか・・・。シンプルなストーリー展開でしたが、細部の設定やせりふ回しがなかなか凝っていて楽しめます。さすがアンドリュー・ニコルの脚本だけありますね。(『ガタカ』上映がこの映画の後だったらもうちょっと注目されたかもしれない?)なんといってもラストのせりふがきまってます。

 トゥルーマンを演じるジム・キャリーの個性もすばらしいですが、陰の主人公といえば、やはりエド・ハリス紛するクリストフでしょう。『アポロ13』といい今回といい、”モニターを見つめるしぶい男”エド・ハリス、みせてくれますね。クリストフは、「偽物の中の本物」というふれこみで、視聴者が見たいものをそこに見いだすという世界を提供し続けてきたわけで、視聴者が望むドラマティックな展開の果てに迎えたラストは、まさに観客が「そこに見い出したいもの」として当然の結末だったのではないでしょうか。(実を言えば、この映画のラストから始めるとディック的な物語が生まれるなあ思った私は悲観的?)
 過大な期待はせずに「偽物」の世界を堪能するつもりで見るとなかなか楽しめると思います。 



『恋愛小説家』 AS GOOD AS IT GETS
 売れっ子恋愛小説家のメルビンは、実生活ではちょー変人。
 毒舌家で潔癖症で自前のナイフとフォークでなければレストランで食事もできない。まして犬なんて大嫌い。ところがアパートの隣の部屋の画家サイモンが大怪我をしたために、彼の愛犬バーデンを預かる羽目に。物語の展開は、犬との駆け引き、いきつけのレストランのウエイトレス、キャロルとの恋、破産寸前に追い込まれるサイモンとの友情・・・といっても、口を開けばでてくるのは毒舌ばかりのメルビンが引き起こすのは波乱ばかり。

 1998年アカデミー賞で主演男優&女優賞のダブル受賞がうなずける、メルビン役のジャック・ニコルソンとキャロル役のヘレン・ハントの名演です。「ちょー変人」のメルビンが行きつ戻りつ少しずつ少しずつ「憎めない奴」になっていく様と、かたや喘息の息子を抱え、時に落ち込みながらも明るく優しくきっぷのいいキャロルの感情の起伏とその美しさに引き込まれます。
 キャロルのママもいい味だしていますし、なんといっても犬のバーデンは助演賞をあげたくなるくらいユーモラスなしぐさを見せてくれます。
 いい映画を見たなあ、と心暖まる一作。

 それにしても、メルビンがピアノの弾き語りをする"ALWAYS LOOK ON THE BRIGHT SIDE OF LIFE"ですが、 モンティ・パイソンに使われていたとは知らなかった・・・。



『エイリアン4・復活』 Alien-resurrection  
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『ダークシティ』 DARK CITY
       カネ
 誰がために時計は鳴る・・・
 闇に包まれた都市は12時の鐘の音とともに動きを止める。
 主人公ジョン・マードックはホテルのバスルームで目覚め、自身の記憶喪失とベッドに横たわる見知らぬ死体を見い出す。記憶と真相を求めさまようマードックを、彼の妻、謎の精神科医、事件の担当刑事、そして黒づくめの男たちが追う。時間の止まった都市をひとり歩き続けるマードックは、やがて変容する都市、その謎の正体に対峙する。

 謎めいた舞台設定、闇に浮かぶアンティークな高層ビル、悪夢のような閉塞的でタガのはずれたクールなビジョンの数々。『クロウ/飛翔伝説』のアレックス・プロヤス監督のこだわりある映像は一見の価値ありです。
 思いっきり好みな設定であり映像であったわけですが、後半の展開にはやや唖然とするものが・・・。前半の伏線がもっと効いてくるかと思っていたのですが、意外とあっけない収束でした。それなりの「実は・・・」という展開があり、後半の派手なトーンも映像的にはおもしろいのですが、前半のミステリアスでダークなトーンが一転してしまうのがもったいなかったです。

 おもしろかったのが脇役群。キーファー・サザーランドは注射器もったあやしい”医者”だし、ウィリアム・ハートは渋い刑事役だし、かのジェニファー・コネリーは疲れた人妻(倦怠感溢れる場末の歌い手のシーンはGOOD)なんですね。時の流れを感じます。

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