『踊る大捜査線』の感想を集めました。自分が見た順に、『THE MOVIE』(公開版)、ドラマ編、スペシャル3本、『THE MOVIE』(完全版)となっています。(徐々にはまっていく様が感想にもあらわれていますね(^^;。)
『踊る大捜査線 THE MOVIE』(公開版)1998
友人で数人「はまった」という人がいるのがうなずけます。
TVシリーズは見ていなかったのですが、背景は聞いていたし、予備知識なしでも支障なく楽しめる映画になっていると思います。
川で発見された変死体事件、湾岸署内の窃盗事件と湾岸署は大忙し。そこへ夜の闇を縫って慌ただしくヘリが到着。降り立った室井参事官(柳葉敏郎)ら本庁の人間達が警視庁副総監誘拐事件対策のため特別捜査本部を設置。しかしながら、所轄署には協力を求めようとしない。いらだちながら青島刑事(織田裕二)らは他の事件の捜査に向かうが・・・。
見どころはノンキャリ青島刑事と特別捜査本部の指揮官を務めるキャリアの室井参事官が理想と現実のギャップの中で行動を阻まれながら、せめぎあい、一つの壁を破っていくところでしょう。きれいすぎるかもしれないけれど、こーいうロマンって好きです。(クライマックスはさすがに演出過剰気味で「怪我人をそんな風に運んでいいのか!?」とは思ってしまいましたが。)いつのまにか好青年が似合うようになった織田裕二(私はTVドラマ『振り返れば奴がいる』当時のイメージが強い(^^;)と”唇をかみしめ耐える男”柳葉敏郎が好演。
ストーリー構成としてはサイコ事件と誘拐事件のからみがいまひとつ。小泉今日子は驚くほど役にはまってました。年配の刑事役いかりや長介も非常にいい味をだしています。
一昔前にはやった刑事物『あぶない刑事』のレンガ倉庫に象徴されるレトロさに比べると、こちらはお台場やみなとみらいといった近未来的なイメージが強いですね。とりわけ今回は舞台が近未来的な無機質な空間、加えてインターネットがからむ事件にヲタク色が強いせいもあるのでしょうが、全体的にアニメ的な演出という印象を受けました。『エヴァンゲリオン』や『パトレイバー』などのシーンが脳裏に浮かぶことしきり。それが浮いているというよりは、おもしろがれるくらいに溶け込んでいるという感じでしたが。
ともあれ安心して見ていられる充実したエンターテイメント作品ですね。(00.1.4)
『踊る大捜査線1〜4』(ドラマ編 1997.1.6〜3.8放送)
映画がおもしろかったのでドラマ編のビデオを見ました。
各3話づつ入っていて、4巻のみ10、11話プラスNG集という構成。
最近のドラマの質はよくわからないのですが、これは間違いなく傑作の部類に入るのではないでしょうか。各話全てが緊張感のあるストーリーとコミカルなギャグにあふれるテンポよい展開、そして何よりキャラクターの動きが格別。
おちゃらけているようで芯の強い脱サラ刑事の青島、キャリア組みで組織の矛盾に板挟みとなる室井管理官、心の傷を持ちながら明るくてきぱき青島を助ける盗犯係の警官・すみれ、勇み足の青島を抑えながら人生の教訓を吐くベテラン刑事・和久、エリート官僚候補生で昇進試験が何より優先だけど結構いい奴、青島の後輩役・真下、そして青島の上司には、取調べが苦手という事務屋の魚住係長、接待ゴルフとよいしょが仕事という感じの刑事課長、副署長、署長の3人トリオ。青島が手掛けた最初の事件の被害者の娘、柏木雪乃も初回だけのキャラかと思いきや上手くストーリーがつながっていくのですね。
各々がパターンとなる個性を持っているわけですが、それがマンネリとならずに、せりふの妙を伴ってきれいに回転していく。上にへこへこしてるだけの上司達、と思っていると、「いいとこあるじゃん!」と思わせるシーンがでてきたり。すみれさんの啖呵にすっきりしたり、彼女の怖さと怒りに共感したり。和久さんの渋さはこのドラマに人生の重みを与えています。青島くんの良さは共感できる熱さというのかなあ、世の中全て”正義”でゴリ押しできるほど甘くないし”熱血”だけで渡って行けるわけでもないってことはよくわかっていて、でも譲れないものがある、というところ。何より素直で嘘がないんですよ、彼の言動には。「事件が終わったら被害者のことは忘れろ」という冷徹な室井さんが、青島くんはじめ湾岸署との関わりの中で同じように熱い思いを秘めているところが見え隠れしてくるおもしろさは言わずもがな。
毎回何かしらのシーンにじーんときて思わず涙しながら見ていた気がしますが、とりわけお気に入りが第4話と第10話&最終話。
第4話「少女の涙と刑事のプライド」では、警視庁捜査一課に応援捜査員として呼ばれた青島くんが信念を曲げずに警察手帳と手錠を地面に叩きつけるシーン、湾岸署のメンバーの粋なサポートシーン、そして室井さんが「私もその日までにやらなければいけないことがある」とつぶやいて敬礼するシーン(きゃ〜〜〜!!)、ほんと胸にせまりました。
第10話「凶弾・雨に消えた刑事の涙」は真下くんが撃たれ、ラスト、ふりしきる雨の中貫通した銃弾を探す署員達、検問を行うすみれさん達(泣き出す交通課の婦人警官を平手打ちする毅然としたすみれさんのかっこいいこと!)、音楽だけが流れスローモーションのような映像が人々の必死な姿を映し出す洗練されたシーンです。このラストを見た後に一週間まともに過ごせるとは思えず、この時ばかりは本放送ではなくビデオでよかったと思いました(^^;)。
最終話「青島刑事よ永遠に」は大サービス、いわば逃飛行的な立場での室井&青島コンビの大活躍。青島くんのペースに引きずられる室井さんってお茶目。眉間に皴がトレードマークの室井さんが最後どことなくぎこちない笑みを浮かべて青島くんの敬礼に応えるシーンは思わずテープとめて見惚れてしまいました(^^;;。
”室井さんらぶらぶ〜”のキャラクター惚れという要素をさっぴいても、実に元気がでるドラマです。「日本中のサラリーマンを勇気づけた」というキャッチフレーズをどこかで見ましたが、まさにその通りだと思います。「組織なんてくそくらえ」と思ったことのない会社員ってまずいないと思うし、本店・支店(現場)の関係に身につまされる人は多いだろうし、所詮足のひっぱり合いという人間模様を目の当りにしていると、青島くんと湾岸署と彼らをとりまくドラマというのは一服の清涼剤(あるいは疲労回復強壮剤)です。
まだスペシャル版もあるし、このドラマがあってのあの映画、と思うと一層深みが増して、今度は完全版を見たいなあなどと思うとまだまだ「踊る・・・」で楽しめそうです(^^)。(00.1.30)
『歳末特別警戒スペシャル』(97.12.30放送)
ドラマ編ラストから9カ月後。手続きミスでいまだに杉並北警察署にいる青島くんが湾岸署刑事課に戻ってくるまでの物語。基本的にはギャグ路線で随所で笑えますが、ピーポー君の着ぐるみ人形に入って雑踏警戒の手伝いをしている青島くんが室井さんに見つかってしまい、ピーポー君のまま身振り会話をするところが最高です。めずらしく二人してちょっと愚痴っていますが、室井さんも苦労しているけど、やっぱり青島くんもえらい!と思ったり。杉並北警察署にいる間にこつこつ作ったデータベースが事件解決の役に立つ、という教訓めいたストーリー展開ですが、実際のところこういう前向きさを持ち続けることがどれだけ難しいか身にしみていると、青島くんのドラマ編ラストの「大丈夫ですよ。おれはほら、一からやり直せますから」って言葉の重みがひしひし感じられたりするわけです。
しかし、新城さん、もうちょっと助けが来るのが遅れてたら、あの後どうする気だったんでしょうねえ・・・(^^;。SAT隊長はなかなか渋い!(00.2.20)
『湾岸署婦警物語 初夏の交通安全スペシャル』(98.6.19放送)
湾岸署交通課に配属された新人婦警・篠原夏美が主役の番外編。最初は夏美を演じる内田有紀の演技を1時間半見せられるのか・・・とちょっとうんざりしましたが、夏美の指導役・桑原冴子(渡辺えり子)がしめるところをしめて、後半はなかなか見ごたえがありました。一方的に夏美に感情移入できるほど若くはなくて、ウルトラ保守組織の中で40年間勤めあげてきた彼女なりの節というのもわかるし、でもやっぱり女青島と言われる夏美の心情もつぶさずに伸ばしてあげたいと思うことしきり。桑原冴子というキャラクターが完全にギャグになる時代が早くくるといいなあと思います。ともあれ、新城に対して桑原が言い放った「室井さんより器が小さいね」は名せりふでしょう。(00.2.20)
『秋の犯罪撲滅スペシャル』(98.12.22放送)
映画につながるストーリーなので、しょうがないといえばしょうがないのですが、見ていて実につらかったです。監察官として青島くんやすみれさんを内偵する立場の室井さんの苦汁もわかるのだけれど、それ以上にすみれさんの思いは痛くて痛くて泣けてきます。ラストの後味も決してよくはないのだけれど、でも、現実、どんな問題でも全てがドラマみたいに上手く解決することなんて絶対ないわけで、そこで「もうちょっとがんばってみてもいいかな」って思える何かがあるかどうかっていうのが重要なんですよね。そのちょっとした支えになるものを青島くんの言動が上手く表現していて実にいいなあと。
徹夜で押収ビデオを見るシーンには爆笑。はやりましたよね、『東京ラブストーリー』。(00.2.20)
『踊る大捜査線 THE MOVIE 完全版』
ドラマ編&スペシャルを見終わってからあらためて見た映画版は深かった・・・。
いきなり見てもちゃんと役割設定はわかるのですが、一人一人のレギュラーキャラの物語を見てきた後では、同じシーンを見ても思い入れ方が全然違いますから。とりわけすみれさんの机の中の辞表は「秋スペ」あってのエピソードなので、彼女が最後に辞表を破るシーンはこちらも心の底からにっこりしたくなります。室井さんへの思い入れはバージョンアップされているのでこちらも格別。映画版だけだとわりと最初からいい人っぽく見えるのですが、あれこれのドラマを経て極め付けの「秋スペ」の後だと自動販売機のシーンの「すまない」って言う室井さんのせりふがすごく重くて、ジーンときてしまうのです。演出過剰気味のクライマックスも許せてしまう(^^;。(一応間に合わなかった救急車とすれちがうシーンもあるし。そりゃ人質の方に集中してますよね。)室井さんとすみれさんへの感情移入が深くなっている分、オチがわかっているにも関わらずうるうるしてしまいますし。そして、シリーズ全体を通して「ここぞ」というところで出てくる敬礼シーンでは過去の物語を回想せずにはいられません。
公開版と完全版ですでに3回見ましたが全然飽きませんね。最初見た時には、サイコ事件と誘拐事件のからみがいまひとつと思ったのですが、細かいところで上手く辻褄が合わされているところは結構凝っています。誘拐犯の姿が何度も挿入されているのは見直した時のお楽しみですし。映像のカット割はドラマ編&スペシャルでもいろいろと趣向が凝らされていましたが、映画版のカットはさらに気合いが入っている感じです。
テンポがいいのは公開版で、マニアが見て楽しめるよう編集し直されたのが完全版というくくりでしょうか。完全版に挿入されたシーンはなくてもいいシーンなので。とりわけラストのフィニッシュ感は公開版の方が断然いいと思います。完全版についているNG集はファンサービスとしてはやっぱりうれしいですね。
自分がこれほどはまるとは思っていませんでしたが、「踊る・・・」は映像、ストーリー、キャラクター、役者、小道具、どれをとっても魅力ある作品。わりとストレートに「描きたいもの」があって、下手な小細工無しのまっとうなストーリーの流れにキャラクターがうまく立っているところがいいです。役割が明確で、でも「つくられた」という感じがしなくて、一人一人人間らしく見ている人が誰かしらに感情移入しやすい。だからわかりやすくておもしろい。警察物ではあるけれど、組織という観点からはサラリーマン物とも言えるし、それなりの年月会社勤めやっていると身につまされるところも多々ありました。そーいう意味では、若い時に出会っていたら今以上の情熱をもってはまっていたでしょうが、感情移入の深さは今の方が深いのでしょうね、きっと。室井さんというキャラクターは確かに私のツボ中のツボですが、やっぱり彼の周囲のキャラクターの魅力あっての「踊る・・・」です。
出会えて良かったなあとしみじみ思える作品です。(00.2.20)
『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ』