最近観たビデオ・DVDから 2003



『デスペラード』
 来春ジョニー・デップ出演の『レジェンド・オブ・メキシコ/デスパレート2』が公開されるため、とりあえず前作を観てみようと思い立ったわけです。
 ちょっと経緯をおさらいしてみると、まずシリーズ第1作と呼ばれる『エル・マリアッチ』は、7000ドルの低予算で作成されたインディーズムービー。ところが、これが全米配給され、監督ロバート・ロドリゲスは一躍有名に。でもって、主演にアントニオ・バンデラスを起用し、元の10倍の予算をかけて製作された、続編というより第1作の焼き直しというべきものが『デスペラート』(シリーズ第2作)なのだそうです。

 物語は一言でいえば、主人公エル・マリアッチがかつて自分の恋人を殺しギター弾きの道を閉ざしたギャングのボス・ブチョを追う話。それ以外書き様がないくらいストーリーはシンプルで銃撃戦が見どころの映画(^^;。(筋立て&設定を深く考えると、「それはちょっと・・・」と思うこと請け合いなので、あまり気にしない方が懸命。)すごく下らないけど、時々「おおっ!」というカットが割り込むから不思議です。多分低予算の『エル・マリアッチ』の方が個人的にはもっと受けたんではないかと思いますが。

 ”ばかばかしくも笑える”と思えるかどうかがで、好き嫌いが分かれるんじゃないかと思いますが、ロドリゲスが、この映画にも出演しているタランティーノ(この後『フロム・ダスク・ティル・ドーン』を共作)とお友達なのもうなずけます。
 そーいえば、『キル・ビル Vol.2』にはロドリゲスが楽曲提供するとか。(ロドリゲスの音楽いいですよ〜。)

 エル・マリアッチの行動パターンがわかるので、「レジェメキ」を観ようと思っている方は、一度観ておくとよいかも。


『ベッカムに恋して』
 日本語タイトルとベッカムのポスターが壁中に張られた部屋にいる女の子のポスターからは、スイートな話を連想しますが、原題をみると"Bned It Like Beckham"、つまり「ベッカムのように曲げろ」ということで、割とまじめなサッカー青春もの。
 ベッカムに憧れるジェスは、公園で男子にまじってサッカーをしている姿を見掛けたジュールズから、地元の女子サッカーチームへ誘われる。しかし、インドの伝統を重んじる母親にとって、娘が肌もあらわにサッカーをするなんてとんでもない。かくて、ジェスは両親に内緒でチームに参加するが、こっそり買ったサッカーシューズはばれる、姉の結婚が破談になりかける、おまけにジュールズとは三角関係に、と障害は次から次へとあらわれ、家族と夢、恋と友情の間で揺れる。
 人種や性別といった問題を含み、厳しい環境の中でジェスが夢を叶えていく様は、飛び抜けてドラマチックではなく、攻撃的でもなく、等身大で時にユーモアを交えながら描かれていて共感がもてます。ジェスの父親の話とか、きちんとステップごとに理由が描かれているので説得力があります。
 ジュールズ役のキーラ・ナイトレイ(『パイレーツ・オブ・カリビアン』のエリザベス役)はショートヘアもよく似合っていて、プロポーション抜群、ボーイッシュで元気な女の子、という役柄がとてもはまっています。きれいな女優さんの中でも彼女は同性から好感をもたれるタイプかも。
 女子サッカーチームのコーチ役は、見覚えがあるなあと思っていたら、『ベルベット・ゴールドマイン』のジョナサン・リース・マイヤーズですね。個人的にはタイプじゃないんですが、キャラ的には結構良いです、はい。
 決勝戦のシュートは多少演出過剰になってもいいから軌跡を描いてほしかったなあと思うのは素人的発想なのかしらん。
 ともあれ見終わってさわやかな一作。


『ボーンアイデンティティ』
 今までどーも情けない役が多かったマット・デイモンですが、なんと、イメージ刷新!スパイ物の主役。

 銃で撃たれ海の上を漂っていたところを漁船に救助された一人の男。彼には記憶がない。唯一の手がかりであるスイス銀行の口座番号を頼りに貸し金庫を開けてみると、数種類のパスポートと巨額の現金が入っている。自分探しを始める彼を待っていたのは、任務失敗を隠蔽したいCIAからの追っ手だった。
 孤立無援ですが、彼は”プロフェッシャル”で、条件反射的に身体が反応するというわけで、状況の割にはリラックスしながら楽しめてしまいます。007のような”主役だから何でもOK”という程ではなく、これくらいなら有りそう、という程度にとどまっているため、リアルさが失われずにいい感じです。パリの街をミニでカーチェイスっていうのも庶民的で楽しめるんですわ。
 ”都合良く”幕が降りますが、これまた嫌味がないのね。
 決して派手ではないけれど、娯楽物として割とお勧めの一本。


『魔界転生』
 『ピンポン』のペコ役はじめ人気の高い窪塚洋介ですが、時代劇でははたしてどうか? 天草四郎の役で、ビジュアル的は誠にオーケー、オーケーだったんですが、うーん、やっぱりしゃべるとダメだわね。普段よりも低い声でかなりがんばってはいましたが、肝心なところでズルっときてしまうような。。。
 柳生十兵衛役の佐藤弘一は立ち構えもよろしく良い味を出していましたが、映画全体を食ってしまう程の迫力には欠けます。
 今やSFXやらCGやらがとても自然に入れられるようになっていて、”お化け映画”という派手派手しさや滑稽さを押さえて映像効果を入れることが可能になっていますが、逆にその分かえって生身の役者の上手下手が目立ってしまうという時代になっているのかも。(深作欣二監督の『魔界転生』は、沢田研二の天草四郎VS千葉真一の柳生十兵衛がやっぱりすごかったもの。)クララ役の麻生久美子はとても妖艶でよかったです。

 物語として天草四郎と柳生十兵衛と、どちらの立場も描ききれていない感じで、なんだか気がつくと十兵衛と魔界剣士の一騎打ち勝ち抜き選手権という展開になってしまっています。天草四郎は表面上淡々としているのはいいんですが、そもそも恨みつらみの上に怨霊となってしまっているわけだから、一皮剥いたら”夜叉”という落差がほしい所ですが、まったく平たん。超越してしまった存在として人間的感情を排除するのは結構。重力を感じさせない浮遊感もいい。でも、それって心が凍るような存在という部分が垣間見られないと、ただの抜け殻のよう。だから、最後の天草四郎VS十兵衛の黄金の雨降る対決シーンもなんだかとてもあっけないのです。あれじゃあ、お人形さんにしかみえないわ。
 ビジュアルコンセプトとしては非常に買うんですが、中身がついていっていないというか、上すべってしまった感じで惜しいです。
 あと、気になったのが音楽。この所超大作の重厚サントラを聴きまくっていたせいで余計感じてしまうのかもしれませんが、でも、「似たようなものでちゃちい」、というのは最悪な印象でした。映像はBGM次第でずいぶん印象が変わってくるものなので、音響のセンスは重要だと思います。


『カラヴァッジオ』
 某レンタル屋にデレク・ジャーマンが揃っていることを発見してうれしくなってしまったんですが、早速『カラヴァッジオ』を借りてきました。

 イタリア・ルネサンスのスキャンダラスな画家カラヴァッジオ。死の床につく彼の脳裏に浮かぶ生涯の思い出の数々が綴られていく。
 絵画の構図そのものを役者がポーズするシーンには思わず息をのみました。閉じられたスチールの世界がいきなり生々しさを伴うような衝撃。17世紀始めのイタリアにいたはずなのに、突然電卓が登場するといったアナーキーさは好き嫌いが分かれる所でしょうが、私はこういう世界をシャッフルするようなめまい感は好きですね。遺作は青一色の映像のデレク・ジャーマンならではの色と光に命を吹き込む独特の映像美は何とも言えません。

 カラヴァッジオが惹かれた若き賭博師ラヌッチオ役はショーン・ビーン(LOTRボロミア役)。銀行家ジュスティアーニ役はジャック・ダヴェンポート(POTCノリントン役)のお父さんですね。


『夜になる前に』
 観た動機は不純でしたが、アーティスティックな良い映画に当たりました。

 キューバの亡命作家レイナルド・アレナスの自伝を映画化した作品。
 アレナスは、カストロ政権下、同性愛者として芸術家として弾圧を受ける。
状況の陰惨さや安っぽいヒューマニズムを訴える映画ではなく、主人公とその仲間たちからほとばしる生命感、躍動感あふれる、時に幻想的な美しい映像が印象的です。カリブ海の亜熱帯性気候の海、空、木々のあざやかな色に息をのみ、タイプライターの跳ねる音とほとばしるように流れ出す言葉に心地よく酔いました。
 脚本もよく練られていて、次々と繰り出されるエピソードに目が離せません。主人公の俳優さんはけっしてわたし好みではないにもかかわらず、ビデオを見ながらこんなに集中して観たのは久しぶりだったかも。

 わたしの不純な動機、囚人でゲイの”運び屋”ボンボンとレイナルドを転向させる中尉との一人二役のジョニー・デップも異彩を放っています。(エッジが効いているというか、どっちの役も違う意味で怖いくらい強烈。)

 ラストへのつなぎ方がやや唐突な感じで(病名を知らないと更にわかりにくい)もうちょっと工夫してほしかったという気はするんですが、でも観終わって十分余韻を味わえる作品です。


『クリムゾン・タイド』
 ヴィゴ・モーセンテン出演映画鑑賞第三弾(まだ続いているらしい(笑))。と、まあ動機は不純だったんですが、これ、結構おもしろかったです。

 ロシアでクーデターが勃発。反乱軍が核施設を制圧し、暗号が解読されれば、西海岸に核ミサイルが飛んでくるという危機を迎え、米海軍の原潜アラバマが派遣された。しかし、各攻撃準備の指令をめぐって25年の艦歴を誇るベテラン艦長とインテリ熱血新任副艦長が対立。艦長は慎重派の副艦長を解任しようとするが、さすがにそれは規則違反とキャビン・クルーが従わず、いったんは副艦長が指揮権を掌握。しかし、厳しい状況下で新任指揮官が全幅の信頼を得るのは難しい。かくて艦長親派により反乱が起きる。受信機が壊れ指示を確認できない状況下で、敵の核ミサイル発射推定時刻は刻々と迫って行く。

 ヴィゴはミサイル管制室の長でミサイル発射の鍵となる存在。理性もあるが情もある、というタイプで、両者の間で揺れる役柄を好演しています。一歩間違うと単なる優柔不断な嫌な奴になるんだけど、葛藤を繊細な演技でみせ、とても人間らしく共感できる人物になっています。最後に後ろ姿で映るガッツポーズが最高です!(にわかヴィゴファン必見)

 ドラマとしてはわりとありがちな展開ですが、どたばたアクション三昧ではなくて、ジーン・ハックマンVSデンゼル・ワシントンの演技でじっくりみせるところがよかったです。潜水艦物というより、新旧世代交代とか中間管理職の悲哀とか、わりと普遍的なテーマになっているところがおもしろく感じたところかな。1995年に作られた映画なので、現在の世界情勢を鑑みるとまた感慨深いですし。

 しかし、映画観てなくても音楽はとってもよく馴染みがある気がする(^^;。


『リターナー』
 『ジュブナイル』 のスタッフ結集ということで結構期待していたんですが、うーん、やりたかったことはわかるし、そこそこかっこいい映像にはなっているのだけれど、でもなんだか中途半端な感じ。ターゲットは若者娯楽映画? 特撮映画の枠にとらわれないところで勝負にいったのでしょうが。宇宙人の船のCGとかすっごくいいんですけどね、ストーリーとか演出とか有名SF娯楽映画のつぎはぎという感じで、なんだか緊張感がないんですわ。個人的に金城武&鈴木杏のコンビに全然おもしろみを感じないというところがそもそもいかんのでしょうけど。やっぱり現実世界が舞台じゃない映画ならば、それなりに驚きとか奇想天外さがほしいと思うんですけど。。。
 悪役・溝口を演じている岸谷五朗はなかなか存在感のある演技で楽しめました。

『ピンポン』
 やっと観ました〜。
 原作は読んでいないのですが、個性的なキャラクターに上手く役者さん達がはまっていて、期待通りのおもしろさでした。

 映画評ではやたらと「劇画的」とか言われていたので、どんな異様なカットにしているのかと思いきや、アニメやコミックに慣れている者にとっては、むしろ地味なくらいにちゃんと映画らしくまとまっているじゃん、という感じ。なにせキャラクターが派手だし、決め台詞もでーはーなので、彼等の存在をいかにもっともらしくリアルに見せるか、ってところがポイントで、子供時代のカットバックを上手く入れながら、浮き過ぎないけれど印象深いというところに着地している気がします。

 役者の年令からいって、高校生役というのはやや無理が無くもないですが(^^;、でも、あれだけのコマをそろえたからこそ成り立つ映画ではあります。
 スキンヘッドのドラゴン役の中村獅童はすごい存在感。いい役者になりそうですね。おかっぱペコ役の窪塚洋介は独特の雰囲気を醸し出していて、澄んだ瞳が印象的。(しかし、どーもこの人、どの映画観ても同じ感じがするのはあのしゃべり方のせいだと思うんですが、『魔界転生』ではちゃんと時代物らしくしゃべれているのかしらん。。。)なにはともあれ、この映画で何が一番? と言えば、スマイルこと月本くんでしょう。このキャラは燃えます! 小さい頃から卓球の才を発揮していた幼馴染みペコの影に隠れるような存在で、クールというより根暗(にみえる)で、「卓球なんて、死ぬまでの暇つぶしだよ」とか言ってる奴が、実はペコに匹敵する天分の持ち主で・・・。ペコ=太陽に対する月というわけ。この役を演じているARATAは『ワンダフルライフ』に出てた人ですね。あの時はなんか金城くん風の、いかにもっていうくらいの”繊細な好青年”だったけど、今作の眼鏡の奥の微妙な表情は実にワンダフル!

 「永遠のライバル」が絵になるのはやっぱり男同士なんだよね。というと誤解されるかもしれないけれど、でもね、ほんとうらやましいです。あのラストの試合のシーンの透明感には泣きそうなくらい心動かされるじゃないですか。(恩田陸が描く「女の子の入り込む隙間がない男の子の世界」っていうのに通じるんですけど。)

 サントラも話題になっていましたが、SUPERCAR、石野卓球、砂原良徳などなど名だたるアーティストが参加しているエレクトロなサウンドは、軽快で映像のリズム観とぴったり合っていてすごく良かったです。

 あー、DVDほしい〜。



『13F』
 『インデペンデンス・デイ』や『ゴジラ』のエメリッヒ監督作品ではありますが、仮想現実と現実が混濁する話、ということで、評判はそれほど悪くなかった記憶があるので、観てみました。

 主人公ダグラスはコンピュータソフトの開発をしており、ボスのハノン・フラーと共に仮想現実をつくり出すが、ある日フラーが殺されダグラスは容疑者になってしまう。ダグラスにはフラーが殺された時間の記憶がない。フラーの足跡を辿って、ダグラスも仮想現実に入って行く。

 この手の話は数限り無く読んでいるので、途中ですぐにネタは割れるんですが、映像的にはわりとこだわっている感じで、押さえ目の演出、かつ仮想現実の世界は古き良き1930年代のアメリカを再現しているので、悪くないです。
 ただねー、ラストが驚くほどにご都合主義のハッピーエンドなので、観終わってどっと徒労感が・・・(^^;。



『ダイヤルM』A PERFECT MURDER
 ヴィゴ・モーセンテン出演映画鑑賞第二弾(笑)。(いや、全制覇するつもりはまったくないので次回を期待しないでください(^^;。)

 ヒッチコッックの「ダイヤルMを廻せ!」のリメイクですが、まあ予想通り、数有るリメイク版と同じ運命を辿ってますね・・・。
 事業に失敗し、妻の浮気相手に妻殺しを依頼するスティーブン役にマイケル・ダグラス、妻エミリー役にグウィネス・パルトロウ、浮気相手の自称画家デイビット役(はい、女の敵です(笑))にヴォゴ・モーセンテン。この配役を聴いて笑えた人は観てもそれなりに楽しいと思いますが、映画としてはわたしてきにはほめるべきところが見つからないですね。まあ、グウィネス・パルトロウをグレース・ケリーと比べるのは酷というものでしょうが、それ以前に、脚本とか演出とかもうちょっとなんとかならなかったのかなあ・・・。題材といい役者といい、使い様はいくらでもあったようが気がしますが。
 とりあえず、ヴィゴの登場シーンの割合は高いし、エミリーの写真を題材に創作しているシーンは一見の価値ありかもなので、ご興味のある方はどうぞ。



『ある貴婦人の肖像』
 なんで今さら? というのは、まあご想像に違わず、ヴィゴ・モーテンセン目当ての再鑑賞ざんす。
 主人公のニコール・キッドマンはとってもきれいで、旦那はねちねちした感じの悪い奴だったし、肺病持ちの従兄殿はもっと不細工だったし・・・という印象しかなくて、ヴィゴの役が全然思い付かなかったんですが、主人公に恋するあきらめの悪いアメリカ人の役だったのね(^^;。
 全国何万人(いるかどうか知らないけど)のにわかヴィゴファンは100%「なんでヴィゴをそでにするんだーーー!」と叫んだことでしょうが(笑)、まあその気持ちもわからなくはないですが、あまりにタイミングが悪い上に、印象が薄い役ではありますな。

 前に観たときは、もうちょっと主人公寄りの心情で観ていた気がしますが、今観ると、主人公を許しがたい馬鹿にしか思えない自分がいます(^^;;。マダム・マールの方がなんか心情的にはわかる気がするし。いやはや、歳は食いたくないですねー。

 主人公の旦那を演じているのがジョン・マルコビッチだったとは、全然認識していませんでした。どーりで、上手いわけだ。

 観た後に爽快感があることもあって、わたしはやっぱり「ピアノレッスン」の方が好きですね。(途中すっごく痛いけど。)



『フロムヘル』
 ジョニー・デップVS切り裂きジャック。
 あんまり期待していなかったのだけれど、これ意外と丁寧につくってあって、Goodです。

 19世紀末のロンドンで起こる娼婦連続殺人事件を、ジョニー・デップ扮するアバーライン警部が追っていくというオーソドックスな謎解きストーリー。街のセットもよく出来ているし、事件自体の描写もかなり史実にこだわっている感じ。アバーライン警部のアヘンでみる幻覚(Vision)の中に、過去・未来の事実が断片的に見えてしまう、という設定は、たいして生かされているようでもないんですが、後追いで真実に辿り着けてしまうという便利な側面とともに、退廃的な主人公の雰囲気と幻覚のシーンが織りまざって全体的に翳りのある幻想的な作品トーンに貢献していますね。
 女王の侍医ウィリアム・ガル卿に扮するイアン・ホルム(『ロード・オブ・ザ・リング』のビルボ)の演技はさすがだし、アバーライン警部の助手役のロビー・コルトレーン(『ハリー・ポッター』のハグリッド)もいい味だしています。

 まあそれなりに陰惨なシーンはありますが、わたしてきには予想していたよりはOKでした。(「バイオレンス・スリラー」とか書いてあるは、違うだろーって感じ。)

 レンタルビデオで観たんですが、DVD版には「もう一つのエンディング」が収録されているらしく、これが気になって気になって仕方がありません。



『メメント』
 10分前の記憶が消えてしまう主人公・レナード。妻を強姦殺人で失ったショックで、記憶障害にかかってしまったのだ。犯人への復讐を誓うレナードは、ポラロイドで写真を取り、メモを取り、重要な事項は身体に入れ墨で残している。

 映画は主人公に殺された男がうつ伏せになっているシーンから、リバースして過去へ過去へと小刻みに遡っていく。様式の斬新さもさることながら、この脚本は凄いです。一体何が起こっていたのか? 追体験とともに次々とあらわれる予想違いのカード。そして、呆然として沈み込んでしまうラスト。。。

 単なるサスペンスものというのではなくて、知的ミステリ/サスペンスというか、「自分の外に自分が思い描く世界は本当に存在するのか?」というP.K.ディック的な世界だったりします。「自分を定義するのは他人」というのは認めたくなくて、では、自分を自分と認識できる根拠は何か? 記憶か? 何を根拠にその記憶が正しいと言えるのか? と螺旋をなぞりながら降りて行くと世界がぐらぐらしてくる、というご経験がお有りの方はきっとお気に召すと思います。(『マイノリティ・レポート』を観る時間とお金があったら、『メメント』を観るべし。)

 エンディングに流れるDavid Bowieの「Something in the Air」がとてもはまっています。



『玩具修理者』
 小林泰三の原作短編の印象は結構グロい感じだったので、「ファンタジックな作品」という売り文句で宣伝されていたこの映画がどういう映像になっているのか興味深々でした。

 冒頭からおもちゃのロボットが登場し、舞台も、ちょっとした美術館のような玩具修理店にサングラスの女性が現れ、その店の手伝いをしている少年に昔話を物語るというつくりになっています。その昔話にでてくるのが、「ようぐそうとほうとふ」と呼ばれ、壊れたおもちゃを子供たちの願い通りになおしてくれる玩具修理者。

 「生き物」と「物」との違いは何? という問いかけと、幻想的に描かれる玩具修理者が印象的な作品でした。が、1時間弱の作品としては、中身が薄いです。原作にエピソードが加えられているわけではないので、結果として玩具修理者のもやもやした映像(残念ながら「それだけでもずっと観ていたい」と思わせるほどの映像ではない)が多すぎで、原作の凝縮された「驚き」も薄まってしまっています。

 原作の料理の仕方として、おどろおどろしい黒魔術や狂気やホラーではなく、不思議な力という方向にシフトさせて、ノスタルジックなトーンでまとめた意欲は非常に買うけれど、出来としてはいまひとつ、という感じかな。やっぱり、幻想的な映像って難しいのよね。。。



『ノー・マンズ・ランド』No Man's Land
 戦争と日常とユーモアと痛烈なメッセージ。
 片寄らず、押し付けず、お涙頂戴式な感情移入もなく、淡々とユーモアたっぷりに描かれる人間世界の縮図。映画とは、かくも雄弁なものだったのか、とあらためて認識させられます。

 1993年ボスニアとセルビアの中間地帯<ノー・マンズ・ランド>に取り残されたボスニア軍兵士とセルビア軍兵士。塹壕を一歩出れば、動くものは両軍からの標的となる上に、死体と間違われた一人の身体の下には身体を動かすと爆発する地雷が置かれている。
 一触即発ののっぴきならない状況下で、お互い敵として憎み合いながらも本当は一体何を争っているのかわからない。塹壕の縁でパンツ一丁で助けを呼ぶ人間の姿を見つけた両軍からの通報を受け、様子を観にきた国連防護軍の戦車が待ちかねた天の助けに見えたが・・・。

 テンポよく、せりふの妙をふんだんにちりばめた脚本に引き込まれます。残虐さを強調するようなシーンはないのですが、それ以上に痛烈。作った人は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ生まれの新人監督で、ボスニア紛争の最前線でドキュメンタリー映像を撮影したこともある人らしいのですが、なるほどと思うと共に驚異的でもあります。ここには正義も善悪も存在しない。ただただ戦争の無意味さと無力さと愚かさがあるばかり。前線を実体験した上で、こんな風にユーモラスでシニカルでかつ達観して描ききれるというのは尋常ではないです。

 平和ボケした日本で、戦争とか平和とか薄っぺらく語っちゃう前に、この映画観た方がいいんじゃない?
 愚かな生き物=人間であるすべての人にMUST、と言いたいくらい、おすすめ。



『ウォーターボーイズ』WATER BOYS
 男子高校生がシンクロナイズドスイミング?
 「実話に基づく」脚色らしいのですが、よくできたとてもさわやかな作品。

 とある男子校の弱小水泳部。あこがれの新任女性教師目当てに入部希望者が殺到したはいいが、彼女はシンクロナイズドスイミングの元選手。文化祭で水泳部はシンクロを発表する、というアイデアだけを残して、自分は産休に入ってしまう。残ったうだつのあがらない5人は、「あいつらにはどうせ無理」と言われて、やってやろうじゃないか! と立ち上がるが・・・。

 シンクロ素人どころか、水泳ド素人なメンツもいるメンバーたちが、無理じゃない? と思われるところから最後の華麗な演技にどうやってたどりつくか。展開がきちんとあっておもしろいです。釣り堀屋のオヤジかと思っていたら、「○○○に乗った元少年」の竹中直人がユニークな演技で場を締めています。高校生役の若い子たちの演技もよく、自然体な表情をカメラがうまくとらえています。
 最後は一緒に拍手をしたくなるような感じで爽快。
 音楽の使い方もGood! 昭和歌謡がCoolだね。

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