最近観たビデオから 1999




『レッド・バイオリン』 Red Violin 1998
 400年余りもの間、人の手から手へと渡り継がれてきた伝説のバイオリンの物語。
 17世紀末にイタリアで赤いニスを塗られたバイオリンが誕生する。バイオリン職人の亡くなった妻への愛がこめられているレッド・バイオリンは、修道院の天才少年、ジプシー、イギリスの天才作曲家、中国の文化大革命下の幹部の手を経て現代のカナダのオークションにかけられようとしている。

 ミステリータッチと言われていた割には謎という程の謎はなく(というと語弊があるかもしれませんが(^^;)、少なくとも”呪いのバイオリン”とかそーいう雰囲気とはちょっと違います。むしろ、時を越えるバイオリンの旅路が非常に丁寧に綴られているという印象。オムニバス形式で、それぞれのエピソードでは舞台となる国の母国語が使用されているという徹底ぶり。役者群も抑えた演技で好感がもてます。バイオリンの演奏シーンも違和感がありません。一番ぞくぞくしたのは、修道院でカスパー少年が元神童の落ちぶれた貴族に演奏を聞かせるシーンでした。全編を通して楽器に魂が宿るというコンセプトを映像が上手く生かし描き出していると思います。

 ただし、何度も繰り返されるオークションシーンは、意図はわかりますがちょっと鼻につきます。あと上手く作ったなあという感じはするのですが、「魂をゆさぶられる」という感じがしなかったのは何故なのでしょうね・・・。映像自体に欠陥があるというよりは自分の好みの問題でしょうし、身勝手ないいぐさですが、小説で読んだ方が多分「ずーんと」きたのではないかと思います。音楽にしろ映像にしろ目の前に提示されてしまうとそれ以上の想像の余地がないのがさみしいのかも。

 ちなみに音楽担当はジョン・コリリアーノ、バイオリンのソロ演奏はジョシュア・ベル。フランソワ・ジラール監督の『グレン・グールドをめぐる32章』も見てみたいです。



『ミッション・インポッシブル』 MISSION IMPOSSIBLE 1996
 ”トム・クルーズ主演”というところにひっかかって公開時に見にいかなかった映画ですが、旅先の宿で暇潰しに見るには十分楽しめる映画でした。

 内通者のせいでチームを壊滅させられたイーサン(トム・クルーズ)は、裏切り者の濡れ衣を着せられIMFを追われる。イーサンはCIA本部に保管されるスパイ名簿を盗みだし、それをエサに真の裏切り者を見つけだそうとする。

 「スパイ大作戦」のテーマを懐かしんだり、”お約束”で笑ったりできないとおもしろさは半減でしょう。シナリオは感心するほどの出来ではないけれど、前半はプラハの景観の美しさでかなりカバーされていますし、中盤のCIA潜入のあっけなさは、宙づりイーサンの床上3センチの蜘蛛アクションでまあよしとしましょう。でも、クライマックスの列車の上で繰り広げられる”迫真の”アクションは、「無理があるんでないかなあ・・・」という思いが先にたってしまいました(^^;。劇場のスクリーンで見ると迫力で許せるのかもしれませんが。

 トム・クルーズは眼鏡をかけていると多少かしこそうに見えますね。ジャン・レノは悲しいほどつまらない役でした(;_;)。”トム・クルーズのための映画”というところはいかんともしがたいですが、まあとりあえず最後まで退屈しなかったという点は評価できるアドベンチャー作品。



『オスカーとルシンダ』 OSCAR and LUCINDA 1997
 『エリザベス』のケイト・ブランシェット目当てでみましたが、これがなかなか私好み。
 19C半ば。内気で世間知らずな牧師オスカーと実業家で自由奔放に生きるルシンダの一風変わった愛の物語。対照的な二人の共通点は”ギャンブル”。ギャンブルから離れようとオーストラリアでの布教活動に志願したオスカーは、船の上で、ガラス工場を経営するルシンダに出会う。互いにひかれあう二人だが、オスカーはルシンダが僻地に赴任した司祭に恋をしていると思い込み、司祭の元へ「ガラスの教会」を届けることを申し出る。己の人生を賭けてルシンダの愛と信頼を得るために・・・。

 生命の源であり生命の流れを象徴する「水」と、無垢でもろくも美しい「ガラス」が効果的に使われています。
 冒頭の二人の生い立ちから、”ギャンブル”をめぐるウイットのきいたせりふ回し、ただただ息をのんで見守るだけのクライマックス、そしておだやかなエピローグ、と脚本、映像ともに実によく練られた構成です。オスカー役のレイフ・ファインズは、ガラスのように繊細で情けなくも愛おしいキャラクターを上手く演じ、心にしみる演技です。ルシンダ役のケイト・ブランシェットは、くるくる変わる表情がとっても魅力的。ナレーションに『シャイン』のジェフィリー・ラッシュという豪華さもうれしいですね。

 ”ギャンブル”の話ときいて想像していた、胡散臭げであやしさげな暗い魅力とはかけ離れたピュアな物語でした。満たされた余韻が残る一作。



『ある日どこかで』 Somewhere in Time 1980
 リチャード・マシスン原作のタイムトラベル・ラブストーリー。

 新人脚本家リチャード・コリアーは、処女作初演パーティで、一人の老婦人から「私のもとに帰ってきて」との言葉とともに懐中時計を渡される。8年後、グランドホテルという名のホテルに立ち寄ったコリアーは、ホテルの資料室でエリーズ・マッケナという女優の写真に出会い、彼女との不思議なつながりを知る。コリアーはエリーズに恋をし、彼女に会うために時を越える。

 どうやってタイムトラベルをするかというと、大学の哲学の先生としてジャック・フィニイがでてきます。フィニィ作品を読んだことがある方はおわかりでしょうが、とってもフィニイ的なストーリーです。

 1912年のミシガン湖畔の光景は、モネの絵のようで、日傘をさしたドレスの淑女や帽子をかぶった紳士が散歩や写生に興じている様はうっとりします。”古きよき時代”と時を越える愛の物語がうまく溶け込んでいて、BGMの甘美なメロディー、ラフマニノフのラプソディ(「パガニーニの主題による狂詩曲」は1934年の作品。エリーズの「まだ聞いたことがないわ」のせりふがにくい。)がまたよく合っているのですね。

 作品の雰囲気はとても好きなんですが、どっぷり感情移入するに至らなかったのは、真摯な好青年を演じるコリアー役のクリストファー・リーヴを見て「おお、スーパーマン!」と思ったり、美しい笑顔のエリーズを見て「まるでジュディ・オング・・・」と思ってしまったあたりがネックだったのでしょうか(^^;)。あと、ラストが「これは文章で読めば感動的だけど、映像にするといまいちだなあ・・・」と思ったというのもありますね。

 しかしながら、この作品に大いなる思い入れを持つSFファンがいるというのはよ〜くわかります。



『ラ・ジュテ』 LA JETEE 1962
 『12モンキーズ』の下敷きとなった作品。(レンタル・ビデオ屋の新作コーナーで見つけて狂気乱舞してしまいました(^^;)。)
 白黒スチール写真とナレーションという独特な構成が、時を行き来する断続的な場面展開にとてもしっくりはまっています。

 オルリー空港の送迎デッキで遭遇した、見知らぬ女性のイメージが忘れられない少年がいた。
 やがて第三次世界大戦が勃発。パリは崩壊し、放射能の影響で生存者は地下へとのがれた。そこで勝利者は捕虜を使って、過去と未来を行き来するための実験を行っている。このままではいずれ滅亡する人類を救うべく、未来から現在へエネルギーを持ち帰るためである。過去の映像に執着するかつての少年が被験者に選ばれる。彼は過去に到達し、さがしもとめていた女性に再会する。実験は繰り返され、唐突にあらわれる彼を彼女は”私の幽霊”と受け入れる。やがて思い通りの時間へ彼を送ることに成功した実験者たちは、今度は彼を未来へと送りだす。再建された地球で未来人に出会った彼は、首尾よくエネルギーを持ち帰るが・・・。

 おぼれそうなほど過剰な視覚情報に囲まれている今、このシンプルな映像には、逆に想像力を刺激されます。また、『12モンキーズ』の映像が思い浮かんできて、同時に2本の映画を見ているような錯覚に陥りました。オルリー空港でのシーンはもちろん、地下の実験風景、彼が彼女に出会う指標としてでてくる「落書き」、実験の最終日に二人が過ごした剥製だらけの博物館等、ありとあらゆるシーンが『12モンキーズ』で生かされているのですね。最初に見たもののイメージがあまりに強いために、その下敷きとなったものを後から見ると意外とがっかりしてしまう、ということがよくありますが、この場合は、元の映像がもつ”力”に非常にひきつけられました。ある意味では『12モンキーズ』よりも強烈な印象を受けたというべきでしょうか。

 29分に凝縮された、閉じた時間の物語はテリー・ギリアムファン必見です。



『カウボーイビバップ』COWBOY BEBOP 1998
 WOWWOW放送分のビデオを最後までやっと見ることが出来ました。(商業ビデオやLDも順次発売中)

 大人が楽しめる極上のアニメ。この歳になって、これほど心おどる作品に出会うことができるとは思ってもみませんでした。

 2071年。太陽系各惑星がワープゲートで結ばれている世界。火星の賞金稼ぎスパイクとジェット。そのコンビに元実験動物の犬アイン、人生経験”豊富”な美女フェイ、伝説のハッカー・エドも加わり、宇宙せましと「ビバップ号」で飛び回る。

 小気味好いテンポの展開。ウイットと洒落がふんだんにきいた物語。「”かっこいい”とはこういうものさ」という感じでしょうか。各話は、SFネタから時事ネタまで「遊び」が入っていて、さらに一捻りプラスアルファがあるために、常にストーリーが「お約束」に終わらないおもしろさがあります。
 各々の過去のストーリーなどジーンとくる話も多々あるのですが、セッション19の「ワイルド・ホーセス」(スパイクの機体を修理した修理屋ドゥーハンの話)を見たときには、「やられたっ・・・」と思いました。『オネアミスの翼』の感動再びというか、宇宙への熱い思いが込み上げるというか。

 キャラクター的にはスパイクとジェットのコンビもいいのですが、この作品ならではの特徴といえばフェイとエドの存在でしょうね。女子供、というにはあまりに強烈なキャラクターで。アニメのキャラクターにありがちの”添え物”女性キャラではなくて、独立して生きているっていう存在感のあるところがいいなあと。(女性キャラといえば、ヘヴィ・メタル・クイーンもかっこよかったですが)

 作画の美しさはいうまでもありませんが、映画でいうところのカメラワークというか視点の動かし方がすっごく凝っていて、映像としてみても非常におもしろいなあと思います。加えて、菅野よう子の音楽がすばらしい。まさにぴったりはまっているという感じで、この音楽なしの「ビバップ」は考えられません。オープニングからきまってますし、様々なジャンルの音楽をそつなつきれいにはめる様は本当に職人芸です。最後の「ザ・リアル・フォークブルース」には泣けました(;_;)。

 ラストの「ザ・リアル・フォークブルース」。ストーリーの流れとしては予想していたのですが、フェイに言ったスパイクのキメのせりふはボディ・ブローのようにきいてしまいました。どうしてはかったようにこうも痛切な思いにぶち当たってしまうのでしょうか。
 たまらないです・・・いつまでも醒めない夢を見ていたかった・・・と。



『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』 MEWTWO STRIKES BACK!  1998
「ここはどこだ・・・」
 「私は誰だ・・・」
  「私は何のために生まれたのだ・・・」


 ”あるところに、いちばんつよいポケモンをつくろうとした、にんげんたちがいました。かれらは、でんせつのポケモン、ミュウののこしたおおむかしのてがかりから、ミュウよりもっとつよいポケモン、ミュウツーをつくることにせいこうしました。でも、かれらはうまれたミュウツーがこころをもっていることをかんがえてもいなかったのです・・・。”

 伝説のポケモン「ミュウ」の化石の遺伝子から作られた最強のポケモン「ミュウツー」。自分を産みだした研究所を破壊し、悪のために力を利用しようとする人間からも逃れ、「私は私を産んだすべてを憎む」と世界への復讐を誓う。
 と、ここまでが、冒頭10分くらいで、「これ本当にポケモンの映画?」というくらい暗いですね。
 さて、やっと登場したサトシたちは、最強のポケモントレーナーと名乗る謎の人物から孤島でのポケモンバトルに招かれ、嵐の海を会場に向かう。そこで待ち受けるのは、ミュウツー。

 一応クローンネタを扱ってはいるのですが、ばっさり単純化して「同じ生きものどうし、なかよくしようよ」という単純かつ普遍的なメッセージに着地したところが無難な仕上がり。お約束ながらも、すれた大人もきっちり泣かせるところがうまいです。(あの、きわめつけピカチュウのかわいさといったら・・・そりゃもう、うるうるきますよ(;_;)。)

 「子供向け」という制約の中で、さらに「ポケモン」という巨大な影響力をもった世界を使って、単純なメッセージにSFテイストの種を含ませたところが、脚本、首藤剛士の遊び心あふれる力技で、たとえば、100人に一人か1000人に一人か、ごくごく少数かもしれないけど、10年後に「子供心にミュウツーのモノローグが強烈な印象で・・・」とか言う子が必ずいるはず。(「瞬間クローン製造って今思うとむちゃくちゃだったけどね」などと前置きがつけば尚可かしらん(笑)。)と、期待しています(^^;。

 しかし、ミュウツーの声が市村正親とはびっくりでした。(孤独な魂をもったミュウツーは”ポケモン城の怪人”なのね。)あのお声、あの演技力だからこそ、ミュウツーの繰り返しのモノローグが生きています。



『ストレイシープの大冒険』 〜The Adventure of STRAY SHEEP〜 1995
『ストレイシープの大冒険2』 〜The Adventure of STRAY SHEEP 2〜 1997 
 迷える子羊、ストレイシープのポー。
 眠りについた世界から夢の世界へとポーはさまよい歩きます。目覚めた世界でポーが体験するのは、思いがけない出来事ばかり。誰かを助けようとして、とってもうまくいきそうなのに、なぜか怖い思いをしてしまう心やさしいポー・・・。ポーのしぐさ、表情がなんともいえずかわいくて、ほわほわっとした中にひねりのきいたストーリーもとってもお好み。「第四話」でガールフレンドのメリーが登場してから、さらにせつなさも加わります。

 「いまさら」なんですが、友人宅でビデオを見せられて、ものの見事にはまりました(^^;)。
 もともとは、深夜のテレビスポットCMに使われたキャラクターが、人気がでて、キュラクターグッズ、ビデオ、絵本などができたのだそうですね。私もスクリーンセーバーやデスクトップキャラクターで見たことはあったのですが、実際どういうキャラクターなのかは全然知らなかったのでした。ただ見ても別にそれだけで「かわいい!」とは思わないのですが、いったんポーというキャラクターに触れると、これはもう理屈抜きでポーが心の中に生きてしまうのです。

 ビデオは10分くらいの話がそれぞれ4話づつとTVスポットアニメーションが入っています。各話はアニメーションではなくて紙芝居形式。ポー役の原マスミの声がとてもよい雰囲気です。ずいぶん昔に世界の昔話や童話を岸田今日子のナレーションで放送していたアニメーションというよりは紙芝居形式に近い番組があったのですが、それをちょっと思いだしました。

 ストレイシープの生みの親、野村辰寿による絵本もいくつかでていて、『ポーのクリスマス』と『ポーとメリー』(主婦と生活社)はビデオのストーリーを絵本にしたもの。『ポーの不思議な夢』(白泉社)は各雑誌に掲載されたショートショートです。

 ポーを知らなかったという方は、ぜひぜひ出会ってみてください(^^)。
 フジテレビのHPにSTRAY SHEEP オフィシャルホームージ http://www.fujitv.co.jp/jp/goods/sheep/ (リンクははってません)がありますので、こちらもご参考に。
 

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