2003年11月



『クレオパトラの夢』恩田陸 双葉社
 『MAZE』の神原恵弥をメインに据え、双子の妹・和見の恋人の死から思わぬ”伝説”が姿が見えかくれするという物語。恵弥と和見始め、食えない登場人物ばかりで、とりあえず最後まで読まずにはいられないストーリー展開です。

 が、読後感は、わたしてきには、「そこそこの満足感」としか言えないかもです。『MAZE』の時にも思ったのだけれど、基本的に神原恵弥というキャラクターにおもしろみを感じないのがいかんのかもしれませんが。「彼にとってはそれが自然」と書かれれば書かれる程、不自然さというか、浮いている度が気になってしまうわけで。恩田陸の作風というのは、舞台世界にある種の”不自然さ”があることで、登場人物や物語自体が生き生きとしてくるような気がして、現実に着地しようとすればするほど、切れ味や鮮やかさを失っていくような気がするのはわたしだけでしょうか。時事問題とからめられた核となる"伝説"も今一つ空回りしている感じがしてしまいました。一番おもしろかったのは慶子というキャラクターかな。

 蛇足ですが、短編「冷凍みかん」は非常に壮大な話でおもしろかったのに、この物語で引用されると途端に小さな話に感じてしまう気がして悲しかったのでした。

p.s.
 タイトル「クレオパトラの夢」はジャズのスタンダードナンバー、バド・パウエルのオリジナル曲です。ご参考まで。
 



『隠摩羅鬼の瑕』京極夏彦 講談社ノベルズ
 すっかりシリーズとして定着した京極堂シリーズ。第何作になるのかよくわかりませんが(^^;、今回の新作を読みながらまず思ったことは、「だらだらと読み続ける快楽」を提供できる作品ってそうそうないわよね〜、ということで、そーいう意味ではやっぱり京極夏彦ってのはたいした作家だと思います。

 通称「鳥の城」と呼ばれる諏訪の元華族のお屋敷。新妻が4度にわたって殺されるという事件を背景に、今回5度目の結婚式が行われるという。依頼内容もよくわからないままに駆け付けた榎木津と、一時的に視力を失った彼をサポートする羽目に陥った関口は結婚式当日にその屋敷に滞在することとなるが、果たして新たな事件は起きてしまうのか?

 シリーズを読んできた読者なら、「不思議なことなど何もないのです」という京極堂のフレーズを反芻しながら、読みはじめて間もなく結末の予想はつきます。では、その後延々700ページを超える物語がつまらないかというとそんなことはない。冒頭に書いたとおり「読み続け(られ)る快楽」というのは、一種中毒性とも言える楽しみなんですね。さすがに同じシーンを違う視点から繰り返し語られるのにはちょっと辟易としましたが、今回、関口君の語りが結構心地よかったので(何故だ?)、難無くもちました。わたしのお気に入り木場修は「つなぎ」の役で、実際の事件現場には登場しないのがやや不満ではありましたが(笑)、その分、読みながら視点を重ねていたのは退職警察官の伊庭でした。彼の瑕が癒えるのかどうかの方が事件そのものより気になっていて、憑き物落としの京極堂の言葉が、また何とも言えず滲みるんですね。
 「あなたの好きなものはあなたにとって善いことです。あなたの嫌いなことはあなたにとって悪いことだ。無理に世間と折り合いを付けることはないんです。」(p.674)
 自分が読みたいことだけを読んでいるのかもしれないけれど、なんだか救われた気がしました。

 わたしは謎解き読みではなく、あくまでキャラクター読みなので、このシリーズ続いてほしいなーと思います。
 

HOME