本文からの抜粋


「あら、おはよう。早いんねえ。先生、ちょっと出かけてはるんよ。でもすぐ戻ると思うわ」
「ケンちゃんのことは先生から言われてるのよ。もしケンちゃんが来たら、歯のお掃除をしといてって。大丈夫やから、心配しないで。さ、こっちにおいで」
「そんなに緊張しないで。体を楽にして。痛いことないから。そうそう。それでええわ」
「はい大きく口を開けて。あ〜ん」
「ケンちゃんのお口、ほんと可愛いわね。べろもきれいやし」
「ゴリゴリするけど…ちょっとの辛抱だから。・・・ごりごりごり、と」
「毎晩歯を磨いてないでしょ。あかんよ。虫歯がまたできても知らないよう。それに女の子に嫌われてしまうよ」
「ん?腕が窮屈?あ、胸が邪魔なんや。ごめんな。姉ちゃんのおっぱい、大きすぎて困るんよ。ほんま」
「ここに手を置いて。もっと腕を伸ばして」
「ええんよ遠慮せんと。この服が短いのがわるいんやから。お手手も可愛い!」
「すぐでちゅからねえ。がりごりがりごり…」
「・・・・・・」
「ん?どうしたん?困った顔して。痛くないやろ?もう終わりやから、がんばって」
「あ…」
「・・・・・・ぅ」
「・・・と、終わったわ。口をぶくぶくして」
「あ、姉ちゃんが押してあげる。ケンちゃんはそのままでええから」
「あ…ふ〜ん…」
「・・・ああ、こぼれてしもうた。へへ」
「あ、先生が帰ってきはったみたい。このまま座ってて。着替えたらすぐ来ると思うから。ありがとね…ケンちゃん。さっきのこと内緒よ(チュッ!)」


 ケイちゃんがずり上がった白衣を下に引っ張りながら出て行ってから、ぼくは大忙しでした。
 キスされた頬に口紅が付いているといけないので、エプロンタオルでこすりながら、パンツの中で真っ直ぐ立ってしまったのを、目立たないように横に直したのです。
 おはよう、待った?と言いながら入ってきたママ先生の顔を、まともに見ることができませんでした。ケイちゃんの脚を触ったことが、なんだかママ先生にすまないと思えたからです。
 ただ脚を触っただけならそんなに罪悪感もなかったのでしょうが、服から出ているところより、もっとずっと奥まで手を進めてしまったのです。
 言い訳をすると、ケイちゃんのそんなところまで、ぼくは触る気はなかったのに、自然とそうなってしまったのです。ひょっとすると、ケイちゃんが歯の掃除をしながら意識的に腰を近づけてきて、初めはひざの上にあったぼくの手を、どんどん奥の方に導いたのではないでしょうか。そんな気がするのです。
 でも白状すると、ケイちゃんのひざの上に手を乗せただけでも感激ものでした。ナイロンストッキングって、あんなにすべすべして気持ちいいものだとは知らなかったのです。だからケイちゃんのせいではなく、ぼくが知らず知らずのうちに、服の下の太ももまで撫でていたのかも知れません。
 それにしても、あれは絶対ケイちゃんがいけないんです。
 ママ先生が帰ってくるちょっと前のことですが、口をゆすぐ紙コップに、ケイちゃんがぼくの代わりにボタンを押して水を入れてくれたのです。そのときぼくの上の方にぐっと身を乗り出したものですから、太ももの内側を手がするするっと滑って、脚の付け根に突き当たってしまったのです。
 そこはパンティがあるはずの場所なのですが、手触りはひざの上と変わりはありませんでした。でも指先に当たった感触がなんとも微妙で、あっいけない、そう思ってパーになっていた手をグーにしました。そして引っ込めようとしたのに、ケイちゃんがそうさせてくれなかったのです。逆にグーの尖ったところに、そこをぐりぐり押し付けるのです。水のボタンを押しっぱなしで。
 そんなわけで、コップから水をあふれさせたのは、ぼくの責任ではないのです。
 早く水を止めなくてはと、反射的にこぶしに握った手が動いたのですが、そのときケイちゃんが押し付けているところを、軽くぶってしまう結果になってしまいました。あ、とか、うん、とか言って眉毛にしわを寄せたので、痛かったのでしょう。謝ろうとしたのに、あべこべにありがとうとお礼のキスまでされて、何も言えませんでした。
 内緒よと釘を刺されなくても、あれやこれやをぼくが話せるわけもないのです。もちろんママ先生にもです。それに当の本人のケイちゃんが、左側の椅子に座っているのですから余計です。
 口を開けてママ先生に診てもらっているのに、右の手のひらに残っているストッキングの肌触りを、密かに思い返して楽しんでいました。生まれて初めて触った女の人の脚が、体温が伝わってきそうなほどすぐのところに今もあるんだと意識するだけで、興奮してくるのです。自分でもぼくは悪い奴だと思いました。
 ママ先生のストッキングはどうなんだろう。やはり同じようにすべすべしていて、気持ちがいいのだろうか。そんなことを、ケイちゃんとのことがバレはしないかと心配しつつも考えていたら、どうにか鎮まっていたものが、また騒がしくなってしまいました。
 唇に触れるゴム手袋の指や、時折肩口に当たるママ先生のお乳の感触を楽しむなんて余裕は、この日は全然ありませんでした。一刻でも早く終わることを願ってました。洗濯で横脇が緩くなったパンツから、横に向けたチンチンが出てしまいそうだったのです。もしそのままずんずん大きくなったら、半ズボンの脇から出てしまうかも知れないのです。ママ先生たちに横チンを見られたら、恥ずかしくてもう来られなくなってしまいます。
 絶体絶命のピンチだったのですが、救いの神が来てくれました。別の患者さんが窓口に来たのです。ケイちゃんがすぐ診察室から出て行きました。受付とママ先生の助手、そのほかにも色々仕事があるのでケイちゃんは忙しいのです。
 さあこれでよしと。そう言いながらママ先生が道具を片付け始めたときには、ぼくの顔に脂汗が浮かんでいました。
 椅子から降りても、すぐには診察室から出ませんでした。この間ママ先生が言った「今度」はどうなったのか、忘れてしまっているのか、それとも冗談だったのか。どっちにしても確かめずに帰りたくはなかったのです。
 上目遣いにママ先生の表情を探っていると、どうしたの?きょうはもういいのよと、両肩に手を置きました。
 この半年で急に背が伸びましたが、まだママ先生より二十センチぐらい低いのです。ですから、向かい合って立つと、視線がどうしてもママ先生の胸が高くなっているところに行ってしまいます。自分ではそんなに意識していたわけではないのですが、ママ先生は見つめられていると感じたのでしょう。おかげで「今度」の約束を思い出してくれました。
 ゆっくり診てあげられなくて(ここは、見せてあげられなくて、の間違いだと思います!)ごめんね。きょうは患者さんが続くから、明日の朝いらっしゃい、ちゃんとしてあげるから。そう優しく諭されたぼくは泣き出しそうになったぐらいうれしくて堪りませんでした。それなのに、ママ先生はぼくが拗ねて泣き出しそうになっているものと勘違いして、ごめんねと何回も言って、ぼくを胸に抱えながら出口まで送ってくれたのです。
 うれしさで有頂天になったぼくは、階段の最後のところで転びそうになってしまいました。両手をズボンのポケットに入れてもぞもぞさせていたので、ほんとに危ないところでした。


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