奥の細道 を巡る 最 上 川
蔵を模した堤防が続く最上川
 豊かな水を湛えて流れる最上川。全長229km、吾妻連峰を源とし山形県を縦断して日本海へ注いでいる。山寺をあとにした芭蕉は、最上川の中流にある港町・大石田へ入った。最上川を紹介し、実際に最上川を舟で下った時の様子を述べている。江戸時代の大石田は、上流から運ばれてきた米や紅花の一大集積地だった。
 橋ノ袂から向こう岸を眺めると、昔の蔵屋敷を再現したような長い堤防が続いている。江戸時代にはもっともっと本物の蔵が建ち並んでいて、川には帆をかけた舟がずらりと並んで、賑やかな活気が溢れていたのだろう。右手には川下りを楽しむ観光船の乗船場が見える。ここからは碁点・隼などの難所を思わせる流れは見えない。雨の季節ではないからだろうか、「水みなぎって舟危うし」という感じはなく、おっとりという流れなので意外な感じもする。
             『 五月雨を 集めて早し 最上川 』
 
最上川に架かる橋の袂で 川下りの遊覧船乗り場 再現された蔵屋敷
宿泊した旅館・永澤平八
雰囲気のあるロビ−で一服


               銀山温泉
 かつて銀の鉱山として栄え、銀山川を挟んだ両側に、三層・四層の木造旅館が軒を連ねる。NHKテレビドラマ「おしん」のロケ地としても知られる銀山温泉は、大正のロマン漂う山峡の温泉と宣伝されている。1日目の宿は迷うことなく此処で、幸い日程に合わせて予約が取れた。
 温泉街の入り口から先は車両進入禁止。迎えにきた番頭さんが押す手押し車に荷物を載せて、古きよき時代を彷彿とさせる街並みを歩く。向う先は、旅館の名も古風な「永澤平八」。その時には別段意識もしなかったのだが、「あァ、いい雰囲気の街並みだ」と感じたのは、多分に街の明かりがより一層そう思わせたような気がする。この景観を保つには、多くの建築制限があるのは間違いないところだが、恐らく照明にも約束事があるのだろう。凡そネオンのような明かりとは一切無縁で、街灯も宿の窓から洩れる明かりも、全てが暖かそうなぼんやりとした色をしている。雪の降り積もった宿の、暖かい明かりが洩れる川端筋の宿へ、またいつか訪ねてみたい・・・・そんな気を起こさせる温泉だ。
宿の2階の窓から 宿の前の橋の上で
銀山時代の疎水溝跡 温泉街のはずれに滝があった 湯野浜(上)と寺泊(下)の夕日
 温泉に浸かりながら日本海の夕日を眺めたいと、2日目は湯野浜温泉へ宿をとった。少し前の寺泊もそうだったが、今回も生憎の曇り空でまたもやカラブリ。
まぁ、楽しみが先に延びたと思えば良いことで、この先の越後路ではきっと素晴らしい日の入りを見せてくれるに違いない。
最上川のらんと、大石田と云ふ所に日和を待つ。爰に古き誹諧の種こぼれて、忘れぬ花のむかしをしたひ、芦角一聲の心をやはらげ、
此の道にさぐりあしゝて、新古ふた道にふみまよふといえども、みちしるべする人しなければと、わりなき一巻残しぬ。
このたびの風流爰に至れり。  最上川はみちのくとり出でて、山形を水上とす。ごてん・はやぶさなど云ふおそろしき難所有り。
板敷山の北を流れて、果は酒田の海に入る。左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。是に稲つみたるをや、いな船といふならし。
白糸の瀧は青葉の暇々に落ちて、仙人堂岸に臨みて立つ。水みなぎって舟あやうし。       五月雨をあつめて早し最上川
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