奥の細道 を巡る 金  沢
卯の花山・くりからが谷をこえて、金沢は七月中の五日也。爰に大阪よりかよふ商人何処と云ふ者有り。それが旅宿をともにす。
一笑と云ふものは、此の道にすける名のほのぼの聞えて、世に知人も侍りしに、去年の冬早世したりとて、其の兄追善を催すに、
塚も動け我が泣く聲は秋の風          ある草庵にいざなはれて  秋涼し手毎にむけや瓜茄子
途中唫  あかあかと日は難面も秋の風     小松と云ふ所にて  しほらしき名や小松吹く萩すゝき
源平倶利伽羅合戦場跡  平家軍・平維盛の本陣跡だという。
倶利伽羅不動尊 火牛の像 源平供養塔
芭蕉塚(寝覚塚)
 芭蕉が朝日将軍と謳われた木曽義仲の末路を涙して句を詠んだ地は、越前今庄の城跡だという。往時を偲んで建立された「芭蕉塚」は別の名を「寝覚塚」とも云うそうだ。
 廻りの山々が見渡せる山頂の一角に、源平軍の主だった武将の進路・退路が図解入りの解説板が立てられている。ここは寿永2年(1183)木曽義仲が4万の兵を率いて、平維盛の大軍と戦った古戦場である。角に松明を括り付けた数百頭の牛を、平家の大軍に向けて放ち、義仲軍が大勝利した。

          義仲の寝覚の山か月かなし

 倶利伽羅はインドのサンスクリット語で「黒い龍」を意味する。養老(720年頃)年代、天正天皇の勅願によりインドの高僧が自ら彫刻・・・云々。倶利伽羅不動明王は、剣に黒い龍を巻いている。古来より倶利伽羅紋々として、入れ墨にまでされ信仰されている。倶利伽羅不動尊の入り口に、ざっとこんな意味の解説板があった。
       あかあかと 日は難面も(つれなくも) 秋の風

 広い兼六園の奥まった静かな一隅に芭蕉の句碑がある。
NHKのテレビ番組「街道てくてく旅」の、「日光街道」と「奥州街道」が始まった。両街道を合わせると凡そ400km、深川から松島まで芭蕉が旅した同じ道を北上する。プロ卓球選手の四元奈生美が踏破する放送を毎朝見ている。言うまでもないが、以前のシリ-ズ・谷川真理の「加賀路」もバッチリ録画してある。倶利伽羅峠から山中温泉までの道程だが、随分と参考になる。芭蕉は山中温泉に9日間も逗留した。私の旅は精々一泊だが、今から楽しみにしている。
兼六園  あかあかと・・・の句碑
この松の雪吊は冬の風物詩 人気の写真スポット 徽軫灯籠 金沢城址  重文石川門
願念寺「塚も動け・・・」の句碑
願念寺境内に建つ一笑塚
 
 金沢へ到着した芭蕉は、ある人物との出会いを楽しみにしていた。芭蕉を慕う加賀の門人、一笑である。だが一笑は、芭蕉が奥の細道へ旅立った前年の12月、36歳でこの世を去っていた。芭蕉は、一笑の菩提寺・願念寺を訪れ、一笑の追善会の席で、大切な門人を失った悲しみを句に詠んだ。

          塚も動け わが泣く聲は 秋の風

 山門の左手に句碑が建てられて、境内にある一笑塚には、一笑の辞世の句「心から雪うつくしや西の雲」が刻まれている。
 大通りから車の入れない小さな路地の奥の願念寺を探し廻ってしまった。人影のない静かな境内が、私には少々荒れ気味で寂しい感じに見受けられた。が、これも芭蕉の句碑と一笑塚が、殊更私にそう思わせただけなのかも知れない。
 どちらが裏表か私には分からないが、願念寺は妙立寺(忍者寺)の裏手にあった。忍者寺は観光客に人気があり、願念寺とは対照的に大勢の観光客で賑わっていた。私もそうだが、お参りというより見物という風情だが、これはいたしかなのないことである。
 子供が小さかった頃だからもう30年は経ったのだろうか、かつて私もこの寺を訪ねたことがある。時の藩主・前田家のお参りの際、万が一襲われた時に備えて、複雑な造りや隠し部屋などの造りを説明をされたことを思い出させ、懐かしく感じた。
 近くにある成学寺の境内には、俳人掘麦水と門人が建てた「蕉翁墳」がある。金沢市内ではいちばん古い碑で風格のある佇まいを見せている。碑の右側面に麦水の筆で「あかあかと・・・」の句が刻まれているとのことで、覗き込んでみたのだが風化も進んでいて、はっきりとは読み取れない。

         しほらしき 名や小松吹く 萩すゝき
小松はもう近い。この地で芭蕉は一人の老武将に思いを馳せる。
願念寺 山門の左てに句碑と解説があった 成学寺境内
成学寺 成学寺境内の蕉翁塚 妙立寺(忍者寺)
 手許の情報誌にこう紹介されている。ひがし茶屋街は金沢最大の茶屋街で、最も金沢らしい情緒を残したエリアといわれる。紅殻格子と石畳が続く街並みは雅な雰囲気たっぷり。茶屋をその利用した雑貨屋やカフェも多く、連日たくさんの観光客が訪れる。
 私たちが訪ねた時も、修学旅行だろうか女学生の一団で賑わっていた。一軒の店では、床に硬化ガラスが埋められて、地下蔵の様子が見える仕組みになっていた。覗き込んでみると、蔵は金ピカの壁に囲まれていて、往時の隆盛振りを偲ばせる。 
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