2004年公開映画から




『ユートピア』
 ”眠っているときに見る夢は、過去に起きたこと
  目覚めているときに見る夢は、これから起きること”


 予知夢をみる男アドリアンは繰り返される悪夢に苛まされる。「予知能力を悪夢に変えてはいかん」という父親代わりのサムエルの助言に従い、アドリアンは夢に出てくる女性アンヘラを探しに南米へと向かうが、彼女は拉致されたカルト・ゲリラ組織に身を寄せていた。

 予告編に惹かれて「スペイン発のサイコ・スリラー」という言葉にもめげずに観に行ったのですが、期待を裏切らない映像でした。ブルーを基調にした夢と現実を行き来する繊細なトーンは登場人物たちの心情とシンクロしていて見事。物語展開は適当にスリリングで、見ているのが嫌になる位怖かったり残虐だったりすることはありません。必ずしも精密な構成ではないにも関わらず、最後にすべてを包括するオチをつけている所が、個人的には唯一のマイナス要素で、むしろラストで「あいまいだけれど残酷なまでに美しい」と言わせてほしかった気もするのですが。まあ制作側が伝えたいメッセージははっきりしているので、あれはあれでしょうがないですね。

 音楽の使い方もすごく良いです。このアクションシーンにこれか! とうならせる流れるような映像と音楽のコラボに酔いました。好みだ〜。鮮烈な映像の連続の101分、濃密な時間を過ごせた気がします。



『ハウルの動く城』
 荒野の魔女の呪いで90歳のおばあちゃんに姿を変えられてしまったソフィーと悪魔と取引をした美貌の魔法使いハウルの物語。

 『千と千尋の神隠し』から3年、宮崎駿監督の最新作、ヴェネチア国際映画祭ではスタンディングオベーション、と前振りは盛大。映画を見ている間は確かにそこそこ楽しめます。でも、これがあの”宮崎監督の最新作”としての期待に応えているのだろうか? と問うと正直NOなのではないでしょうか。一言で言ってしまうと「驚き」がないのです。確かにハウルの城が動くシーンは凝っている、細部がばらばらに動くのは、とっても難しいのだろうなあとは思います。でも、それだけ。全てにエネルギーはそこに注力されてしまったのかも、と思ってしまう位、他の部分は精彩を欠いている感じ。過去作品と比べて縮小再生産という気がしてしまったのでした。

 唯一面白かったのは、ソフィーと荒野の魔女が王宮への階段をぜーぜー言いながらあがっていく所。フィジカルな面と二人の微妙なメンタリティが上手く出ていたと思います。

 原作は未読なので比較はできないけれど、物語世界としてもなんとなく全体的に納得感に欠ける感じ。あの戦争は何だったの? とか、ハウルも自由に生きたいなら、中途半端に世俗に関わるな、とか言いたくなるのはわたしだけかしらん。結局のところソフィーの愛の物語、なのはわかるんだけど、なんだかぬるい。所詮子供向け、と言わせないのが宮崎作品だと思っていたのですが・・・。

 声優陣では倍賞千恵子が少女と老婆を良く演じ分けていました。木村拓哉は予想よりはひどくない、というか、作画でかなり表情をつけているので、声に頼らなくてもOKな映像になっているわけですよ。(これは声の演技で表情の乏しさを補っていたアニメーションとしてはある意味画期的かもしれず。)

 というわけで、今年の三大巨匠ジャパニメーション作品対決は押井の一人勝ちということで、わたしの中では総括されました。



『2046』
 ウォン・カーウァイ監督だし、予告のレトロSFチックな映像にちょっと惹かれて観に行ったのですが、期待したものと見せられたもののギャップが大き過ぎ。『欲望の翼』と『花様年華』の続編なら最初からそう言って欲しい。
 トニー・レオンが愛をつかめない男をレスリー・チャンへのオマージュをこめて演じる恋愛物、という意味ではそれなりに満足のいく出来だし、映像もさすがなのではありますが。主人公(ジャーナリストから小説家に転身)が書く小説「2046」がもうちょっと深いところで現実とオーバーラップするなりハイパーラップするなりしてくれれば良かったのですが、繰り返し語られるキーセンテンスが生かされていないというか、結局雰囲気だけの映像に終始してしまった感じで、期待から大きくはずれてしまいました。うーむ。
 チャン・ツィイーはかわいいけど、やっぱりどっきりするのはコン・リーだったりマギー・チャンだったり。『恋する惑星』のヒロイン役だったフェイ・ウォンはとても味がありますね。
 木村拓哉はしゃべらければそれなりに絵になる雰囲気のある容姿だとは思うのですが、別にこの役が木村拓哉でなければならない理由はなく、やっぱり客寄せパンダであると。逆に彼が出ていなければ、日本でこれだけ大々的に宣伝される訳はなく、予告の仕方だって全然違ったはずなんですよね。もっと、「現実」の映像が入るはずだし、『欲望の翼』や『花様年華』との関係が言及されないわけがない。彼の存在がミスリードをもたらしている、と思うのは被害妄想かしらん。。。



『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス(デジタル・リマスター版)』THE NIGHTMARE BEFORE CHRISTMAS (併映『ヴィンセント』/『フランケンウィニー』)
 デジタル・リマスター版の再上映ということで、行ってきました。
 いやー、映画館で聴くと5.1ch音響というのはやはり迫力ありますね。なんというか、自分が本当にその場にいる雰囲気にさせてくれる感じ。勝手知ったる映像をあらためてこんなに楽しめるとは! 10年前の作品と言っても全然古びません。コマ撮り人形劇でこの縦横無尽なカメラワークってやっぱりすごいですよ。
 わたしが見たのは字幕版ですが、吹替え版の市村正親のジャックをこの音響で聴けるというのもいいかもしれませんね〜。
 同時上映はバートンのディズニー時代の短編二作。『ヴィンセント』は自分をヴィンセント・プライスだと思い込んでいる7歳の少年の物語。冒頭いきなり『スリーピー・ホロウ』の死人の木がでてきたりバートンスケッチ満載。自伝的と言われていますが、まあ、ここまでホラー寄りでなくても、空想の世界にさまよっていた子供時代の記憶をお持ちの方は多いことでしょう(^^;。モノクロの実験映画風人形アニメーションですが、ナレーションはヴィンセント・プライスその人です。
 もう一本は30分程のモノクロ実写『フランケンウィニー』ですが、これが秀作。冒頭、ご家庭ビデオで撮影された「ターザン」の上映から始まるのですが、つかみはばっちり。ところが怪獣役の名演をこなした愛犬のスパーキーは、交通事故で死んでしまう。悲しみにくれる10歳の主人公ヴィクター・フランケンシュタインが「カエルの実験」を学校で見た後で、取る行動といえば・・・。ご家庭用具でできる壮大な生命と神秘の実験や、縫い目からお水がぴゅーととびでるキュートなスパーキーちゃん等々、『フランケンシュタイン』へのオマージュなんですが、ちゃんと風車まで登場しながら、最後はほろりと泣かせる物語。主人公の同級生役の少女はなんとソフィア・コッポラというからこれまた驚き。
 併映のプラスアルファもあって、大変お得な鑑賞でした。



『シークレット・ウィンドウ』SECRET WINDOW
 「待たされました〜」のジョニー・デップ主演、スティーヴン・キング原作の『シークレット・ウィンドウ』。

 湖畔に一人住む孤独な作家モート。妻とは別居中、執筆もスランプに陥っている彼の下に一人の男がやって来る。自分の小説をモートが盗作した、というのだ。「盗作を認め、小説の結末を書き直せ」と脅す謎の男は何者なのか? 次第に追いつめられていくモート。結末に待っているものは・・・。

 一応ミステリーというかスリラーというか、謎めいた雰囲気&物語展開となっています。が、実を言うと、オチはあっという間に分かってしまったので、予告編から予想した程、見ていて怖くはなく、むしろ「おお、演出がんばってるな〜」という視点で見てしまいました。
 それでも、画面から目が離せないのは、やはりジョニー・デップの演技ゆえ。
 監督のコメント「孤独で退屈な男を演じても、観客を引き付けられるのはジョニー・デップだと思った」に全てが凝縮されていますね。ジョニー以外の役者が演じていたらさぞかし退屈だったろうなあと。海賊の時のような派手さはなく、あくまで”普通のリアクション”なんですが、表情の機微、一挙手一動の繊細さ等々、さりげない演技の積み重ねが作品全体をvividなものにしてしまっている所がスゴイ!
 とにかく主人公なので、出ずっぱり。他の登場人物も少ないし、”一人芝居”も堪能堪能。無精髭にねぐせ頭で着古しのバスローブを羽織った姿が、なぜかセクシーだったり、かわいかったり(ハート)。モートの家のセットも細部へのこだわりが感じられ、書棚の本はジョニー自ら自宅の本をもってきたというエピソードからもうかがえるジョニーテイストも楽しみの一つ。クレジットが終わってからの最後のオマケも聴き逃さないように!

 ところで、見終わってゆでたトウモロコシが無性に食べたくなった、というのは悪趣味でしょうか(^^;。

 p.s. US版DVD情報等の追記(ねたばれ含む)はこちら



『CODE46』
 マイケル・ウィンターボトム監督の最新作は近未来を舞台にした究極のラブストーリー。
 「設定としてのSF」を抜きに語ると、異国の地に出張中のビジネスマンがその地で女と運命的な恋に落ちるが、それは社会的には許されない恋だった、という話なんですが、舞台装置として、許されない条件として「設定としてのSF」がとても上手く使われています。適度な異国情緒と異次元感は、拒否感をもたらす程の違和感とは異なり、むしろここではないどこか、という心地よさ。CODE46という規約に違反している、ということが重要なので、その背景が描かれることはなく、事象だけが映されていくので、そのあたり物語として物足りたいと思う人もいるかも。

 でも、わたしにとっては夢のような儚く、美しく、クールな映像と漂うような音にくるまれるようなエレクトロニカ音楽と象徴的な挿入歌、それが全てという気がしました。究極の音楽映像、とでもいうか、もうこのままずっと観ていたい、聞いていたい、という感じ。
 音楽を手がけているFree AssociationはDavid Holmes & Steve Hiltonで構成されるUKのユニット。プライマリ・スクリームやペット・ショップ・ボーイズ等と関わりのある二人のエレクトロニカサウンドには幽体離脱してしまいそうでした。子供が歌う”Row Row Row Your Boat"から、Coldplayの"Scientist"、そしてラストの"Warning Sign"が流れるまでの、映像と音楽のコラボはたまらないです。"I miss you"がこれほど心に響くのは、音楽のせいと言っても過言ではないです。

 おそらく最初の3分で好きになれなければ最後まで好きになれない映画です。公式サイトの感じで、観てみたいと思えば○、なんとなくダメなら×でしょう。



『ヴァン・ヘルシング』Van Helsing
 人知れず長きに渡って邪悪なものたちと戦ってきたヴァチカンの秘密組織・聖騎士団。そのフロントマンたるヴァン・ヘルシングの次なる任務は、トランシルヴァニアで吸血鬼と戦う一族の生き残りアナ王女を助けることだった。かくて、ヴァン・ヘルシングはヴァチカンの対モンスター兵器発明家の修道僧カールを連れて、トランシルヴァニアに乗り込む。

 ほ、ほんとにジェット・コースター・ムービーでした・・・。よくもまあ、という位に、次から次へとアクションシーンが繰り広げられるわけで、脚本としてはあまりよいお手本とは言いがたいですが、これはこういうものだと割り切って、RIDE感を楽しんだ方が良いと思います。実際観ていて楽しかったし。
 事前に山ほど映像を観ていたわけですが、それだけ見せてもOK、という制作側の自信の程は伊達ではないというか、ひょえ〜な展開も一応用意されているわけです。モンスター映画の歴史をふまえた上で、ポスト・マトリックスな作品としてわたしは結構楽しめましたよ(笑)。これだけ贅沢な(制作費約180億円!)大掛かりなセットというのはさすがにそうそうないし、それを無駄にしていない美しい映像は見る価値があると思います。
 しかしながら、ヴァン・ヘルシングの出自の謎が明かされないという続編をにらんだ作りは「お前もか!」という感じでちょっとがっくりでした。。。(でも、カールが出るなら続編もOK、と思った時点で負けてますが(^^;。)

 キャラ的には、カールもえなわたくしとしては、もー大満足! ぼーっとしているようにみえますが、重要なところでちゃんと役に立っているではないですか!! ひたすら行け行け、GO! GO!!の展開の中での緩衝剤であり、説明役であり、ちゃっかりさんです。主役のヒュー・ジャックマン演じるヴァン・ヘルシングはカールの前では影が薄い?・・・(あくまで当社比)アナ王女役のケイト・ベッキンセールは、やや女らしさが前に出過ぎて、個人的には『アンダーワールド』の方が好みでした。伯爵の3人の花嫁の空を飛ぶシーンはめちゃめちゃ楽しそうでうらやましいくらいです。翼のある吸血鬼から人間の姿への変身が本当にスムースで違和感がなく感心しました。で、真打ちはリチャード・ロクスバーグ演じるドラキュラ伯爵。セクシー&クールとは彼のためにある言葉だわ〜。歴代のドラキュラ伯爵俳優陣に加えてまた一つの伝説がつくられましたね。

 というわけで、期待するものを間違えなければ、とっても楽しい映画だと思います(^^)。

 p.s. みーはーねたばれ感想はこちら



『ハリーポッターとアズカバンの囚人』Harry Potter and the Prisoner of Azkaban
 シリーズ第三作。
 うーん、監督が変わって割と良いという噂を聞いていたんですが、どうやらわたしとの相性はいまいちらしい・・・。

 もえキャラがいない映画は観れない身体になっちゃったのかしら? と思う位に展開が苦痛なんですよ。細切れのエピソードが次々繰り出されるという感じで、つながりとか先への期待とかが全然湧いてこない。やっとシリウス・ブラックのお出ましだ〜と思っていたら、ちょっと待て! こっ、これだけ? 説明がはしょられているのは、「子供向け」なのか「原作を読んでいることが前提」なのか。「裏切った」って一言で済ませてしまうのもなんだかなあ。
 ぼろ切れが浮遊しているようなディメンターは全然怖くないし。(今回ディメンターが肝でしょうが!)これが子供OK映画の限界なんですかねえ。。。

 全体の映像としては「精巧なテーマパークへようこそ」という以上の感動がないところがまた寂しい。生活感が希薄というか、映画の中に入り込めないというか、いかにも俳優がせりふしゃべってます、という感じがしてしまう。つまることろ、「ハリーポッターの世界が映像になっている!」という事だけで感動できる程の世界ファンなわけではなく、わたしが感じる「リアル」と作品が提供する「リアル」がかみ合っていないという事に尽きるのだと思うけれど。監督が見せたい映像とわたしがみたい映像がずれてるんだなあと思ったのは、ハリーがヒッポグリフに乗って飛ぶシーン。確かにとてもきれいな映像なのだけれど、それこそ余計なシーンというものでは? という違和感がふつふつと湧いてきたわけですよ。

 一番良かったのは、ハリーが精霊を呼び出す呪文を習うところかな。ほろり。ダニエル・ラドクリフ君は結構演技力あると思うんだけど、このシリーズから解放されない限り他の役はできないですよね。なんとなく惜しい。

 原作は3作目が一番おもしろかったと思うのだけれど、映画の方は一作目のクィディッチ、2作目のマルフォイ・パパという見所が三作目には何も発見できず。次作期待のヴォルデモート卿はジョン・マルコビッチかと思っていたらレイフ・ファインズとか・・・。



『リディック』THE CHRONICLES OF RIDDICK
 舞台は遥かな未来(らしい)。
 世界は全宇宙征服を目論む狂信的最強集団ネクロモンガーの脅威にさらされていた。ネクロモンガーを率いるロード・マーシャルは、”聖なる半死人”と呼ばれ、人にあらざる力を持つが、「フューリア族の一人に殺される」という予言を受けている。このままでは世界が邪悪に呑み込まれてしまう、と危機感をもった自然を司るエーテル体種族エレメンタルは、フューリア族の生き残りを探索する。かくて、お尋ね者のリディックに白羽の矢が当たるが、彼にとっては出自も宇宙の運命も興味がない。唯一気にかかるのは5年前に命を助けた少女、その後賞金稼ぎに仲間入りし、事件を起こして惑星クリマトリアの刑務所にいるというキーラのことだけだった。しかしリディックの存在を知ったロード・マーシャルは、リディック抹殺のため最高司令官ヴァーコを差し向ける。

 あんまり期待していませんでしたが、案外楽しめてしまいました。(まあ、このところ観た映画の平均点が低空飛行なこともプラスに作用しているんだと思いますが。)
 「あり得な〜い」とか「なんとまあ都合良く〜」ではあるんですが、なんだか楽しい、わくわくする。前作『ピッチブラック』をみていないせいか、「何で?」という疑問符もたくさんあるし、”アンチ・ヒーロー”と言われていた割には”ただのヒーロー”にしか見えない主人公にはあんまり魅力はないし、その他登場人物像の掘り下げを期待してはいかんのですが、なんといっても圧倒的な質感のある美術・映像が気に入りましたわ。ヘリオン第一惑星の広大なスケールの地上光景とか、ネクロモンガーの船から鎧まで鋼鉄を素材にしたバロック調のデザインとか、びっくりするほど美しい。スチールで観た時にはそんなに感心しなかったんですが、統一感のある映像、よく考えられた構図はとても美しいです。ただし、肉体を使った戦闘シーンの描き方は下手。ぶれるし、ストロボを多用していて見づらいです。
 ネクロモンガーの聖職者(要するに征服していった先で「君たちもネクロモンガーになりなさい」と説得する役。まあ、言葉よりロード・マーシャルの”力”を見せつけられて”改宗”することになるんですが。)を演じるライナス・ローチは、ふらっとすごーーーくおいしい役どころをさらっていきます。眼光鋭いカール・アーバンが演じる司令官ヴァーゴはだまって立ってるとかっこいいんですが、奥さんの尻にしかれてます(^^;。奥さんのせりふ『完璧だわ』の後の展開がもー最高! 会場があまりに静かだったのでわたしは笑いをこらえるのに必死だったんですが、めちゃめちゃおかしいと思うんですが、あのラスト。

 考証とか細かいことが気になる人には向かないですが、わたしは自分のツボにはまる所があったので、すっきりさっぱり楽しかったです(笑)。むしろ、明かされていない謎が謎のままである所が「とりあえずそれは置いておいて」と、許せているところなのかも。でも、ネクロモンガーってご飯食べないの? とかとても気になる(笑)。(それよりアンダー・ヴァースの方が問題ですが・・・。)
 当然続編を作るんでしょうが、司令官ヴァーゴも登場するはずなので、楽しみ〜に待たせて頂きます。



『スチームボーイ』
 製作期間9年、総製作費24億円、大友克洋監督最新作。なんですが、評判通りなんとも乗れない映画でした。
 19世紀イギリス。少年レイが祖父から託された驚異的なエネルギーをもつスチーム・ボールをめぐって、武器商人VS国家、祖父VS父が争い、舞台はロンドンの博覧会開催会場へと…。

 大友克洋とスチーム・パンクと言えば、もっととてつもなく想像を絶する世界、誰もまねできないようなとんがった世界を描いてほしかったんですが、なんだか宮崎アニメに接近しているような…。確かに歯車ががしゃんこがしゃんこしているシーンにもえる人もいるんだろうなあ、とは思うし、思い入れがあるのもわかるんですが、「これが、大友だ!」というほどのインパクトは全然ないような。アニメーションは書き込めば書き込むほど実写には負ける、と感じさせてしまうので、何を省いて、何を強調するか、が問題だと思うのですが、この作品が今アニメーションで作られるべき必然性が感じられないのでした。

 キャラクターがどれをとってもおもしろくないせいか声あても気になってしまって、レイは大事なところで鈴木杏ちゃんになっちゃうし、ロイド博士は終始聞きづらいし、さらに集中力そがれること多し。

 やっと終わったわ〜とエンディングを見ると、これがまー見事に反則っていうか、「その後の物語」らしきスチールをがんがん出していて、しかも、こっちの方が断然おもしろそうなんですよね。。。えっ、続編作るんですか?



『トロイ』TROY
 3000年前の英雄譚を壮大なスケールでスクリーンに描き出したウォルフガング・ペターゼン監督作品。

 スパルタとトロイの長年にわたる戦いに和平をもたらさんと遣わされたトロイの二人の王子。しかし、弟パリス王子はスパルタ王妃ヘレンと恋に落ち、彼女をこっそりトロイへ連れ帰ってしまう。ヘレンを取り返そうとするスパルタ王メネラオスと、トロイを征服しようとするその兄アガメムノンは1000隻の船団を率いて、トロイへ進軍する。その中にはこの戦いに赴けば不滅の名誉を得る代わりに生きて帰れない、と予言された、ギリシア軍随一の戦士アキレスもいた。

 予告で海を埋め尽くす船団の映像に息を飲んだ方も多いかと思いますが、期待に違わず「ホメロスもびっくり」な程の大バトルが目の前に繰り広げられる様は壮観。「血と汗と涙」(まるでスポ魂だが)のリアルにこだわり、千人規模のエキストラを動員して撮影された、というだけのことはあり、戦闘シーンは大迫力です。
 もちろん、それを支える登場人物一人一人の物語も丁寧に描かれていて、ただの大スペクタクル歴史超大作とは一線を画しています。勧善懲悪ものではないので、焦点がぼけてみえるという見方もあるかなあとは思いますが、わたしてきにはアガメヌノンに反発しつつ戦士としての性に生きるアキレスとトロイ王室の長兄としての役割を担うヘクトルがきちんと描かれているのでOK。鬼神のごときアキレスの活躍を前線の兵士達が讃えるが、戦いの後アガメムノンが「各国の王達がひざまずくのはお前ではなく俺だ!」とアキレスに言うシーンも、権力と政治と一人の人間としての感情とがよく伝わってきます。
 "Inspired by ILIAS"であり、必ずしも原典に縛られる必要もないし、いかに観客を引き込む映像を提供できるか、というところに映画のおもしろさがあると思っているので、この作品の構成はこれはこれで有りだと思います。

 ブラッド・ピット演じる戦士アキレスは見事。筋肉バカではないGreat Warrior ACHILLESというキャラクター設定も良いし、それを非常に上手く演じているブラッド・ピットも素晴らしいです。ムキムキマン体型を作り上げた努力もさることながら、好みのタイプでないにも関わらず思わずスクリーンに引き込まれる演技はさすがとしかいいようがないです。アキレスと表裏一体のトロイ王子ヘクトルを演じているのは『ハルク』で一躍有名になったエリック・バナ。凛とした指導者たる人物像を体現していて、ずばり、惚れました。ヘクトルの弟パリス王子役は今をときめくオーランド・ブルームがなさけない役柄に挑戦。彼けっして下手ではないと思うんですが、ヘレンとのラブシーンが「エリザベス!」と呼びかけているようにみえてしまうあたり、どの役も同じというか、役柄より役者自身が前にでている感じで、まだまだという気が・・・。絶世の美女ヘレンもまた若くて、今ひとつ存在感が薄いんですが、まあしょうがないですかね。脇で引き締めているのが、トロイ王プリアモスを演じる名優ピーター・オトゥール。彼のまなざしにはただただ感服。意外とおいしい所をさらっていった感があるショーン・ビーンはオデュッセウスがはまり役。

 壮大なスケールを誇るこの映画ですが、最大の見所は、軍団戦ではなくアキレスとヘクトルの一騎打ち。スタントを使わずにあれだけの迫真のバトルシーンをつくりあげたとは驚異的です。また、それまでにキャラクターの実在感が積み上げがされているので、気持ちが入り込んで胸がしめつけられる思いです。

 全体のまとめ方としては、期待されるエピソードを盛り込んで、ややまったりと無難にまとめたというべきかもしれないけれど、わたしは気に入った一作です。

 p.s. みーはーねたばれ感想はこちら



『ビッグ・フィッシュ』BIG FISH
 やられました。ティム・バートンの最新作は悔しいくらいに感動作だったりします。
 中途半端なトレイラー、「ティム・バートンの最高傑作」「感動のイマジネーション」「涙がとまらない」等々、どうも前宣伝は素直に受け取れませんでしたが、確かにこの映画のテイストを未見の人に伝えるのはとても難しいです。
 「僕は現実のなかにファンタジーがあって、ファンタジーのなかに現実があると考えている。」というティムの言葉通り、シームレスに現実のシーンとおとぎ話のようなシーンが紡がれています。

 ほら話で人々を楽しませる父・エドワードと正反対の性格の息子・ウィルはそりが合わず、何年も疎遠になっていたが、エドワードの死期が迫っていることを知らされ、ウィルは妻・ジョセフィーヌと共に実家に帰ってくる。相変わらず自分の冒険談を語る父をなかなか受け入れられないウィルだが、過去の書類を整理するうちに、父のおとぎ話の中に真実があることを見いだす。

 ティム・バートンが極上のファンタジー映像を作ったというなら「期待通り」ですが、この作品のすごいところは、それを見事に現実に落とし込んでいる所。最初は「ほら話」と受け取って観ているのですが、ティム・バートン本領発揮のおとぎ話のような美しい映像に魅了されつつ、徐々にエドワードの生き様が心にしみてきて、クライマックスのウィルの”語り”のシーンには滂沱せざるを得ませんでした。

 「人生は変わること」イコール「つまらない大人になる」と思っていた若かりし頃もありましたが、この作品の登場人物ひいてはこの作品を作り上げたティム・バートン自身に、まさに「変わるからこそおもしろい」の典型が見いだせるような気がします。その中には、やさしさを伝えられる強さがある気もします。一人の人間の生とは、他人が思うほど簡単でも単純でもなく、かといって、何も伝えられないほどに絶望的なものでもないのですよね。

 若い頃のエドワードを演じるユアン・マクレガーはまさに彼自身にキャラクターが息づいているようではまり役。エドワードの妻・サンドラを演じる二人の女優はじめ、脇役もすべて見事なまでのキャスティング。サーカスの団長のダニー・デビートも良かったですね。

 こうして感想を書きながら思い出しても、つくづくいい映画だわ〜。




『CASSHERN』
 映画館で我慢大会をしてしまった気分・・・。予告編がすべてだったねえ、というと身も蓋もないかもしれないけれど。

 大戦が50年間続き、大亜細亜連邦共和国は化学兵器や核兵器で荒れ果てた世界に君臨している。死期のせまった妻のために新造細胞の研究をする博士。父親に反発して戦争に志願する息子とその婚約者。新造細胞の研究を使って這い上がろうとする男と軍部の力により、博士の研究は続けられ、ある夜、人智を超えた力で”新造人間”は命を得る。しかし、”新造人間”は虐殺の対象となり、生き延びた”新造人間”たちは人間への復讐を誓う。一方戦死した博士の息子もまた、”新造人間”として生き返っていた。皮肉な戦いの幕は否応なく落ちて行く。

 確かに監督がクリッピング映像界で評価されているというのはよくわかる映像。これが5分のクリッピング映像だったらとてもいいなあ、と思う綺麗な映像はたくさんありました。でも、クリッピング映像をつなげて一本の映画になるかというと否なわけで、一番わたしがのれなかった理由は映画としてのリズムがなっていない、ということだったと思います。だからせっかくのベテラン俳優たちの演技も今ひとつ映えない。もったいな過ぎ。
 突っ込み所満載というのも、ある意味同じ土俵で物が見れないと笑えないわけで、わたしはどんどん椅子に沈み込んでいくばかり、という感じで、この映像を見せ続けられるのは一種の責め苦にしか思えませんでした。日本のアニメやSF映画の影響も多々見受けられ、自分が作り手と同じものを見て育ってきた、という感覚は強くありますが、逆に言うと、過去の作品群の影響とはこんな風に還元されるものだったのか、と思うとちょっとショックです。『イノセンス』や『ゴッド・ディーバ』を見た直後だったので、余計感じてしまうのかもしれませんが、予算や経験の問題ではなく、何を表現したいのか、何を訴えたいのか、そこがあまりにピンぼけでチープな表現になってしまっている気がしたのですね。あの設定で、いくらでももっと深く焦点を当てて描くことができたはずなのに。

 まあ、予算6億、CGでこれだけの映像が作れる、ということを実感できたことは収穫かも。



『ゴッド・ディーバ』GOD*DIVA
 押井『イノセンス』にビラル『ゴッド・ディーバ』と立て続けに公開されると、個人的には”今年は10年に一度の祝祭”という感じですが。(押井とビラルは二人とも同じレベルのビジョンを観ているけれど、表現方法が違うだけ、という気がします。)

 ついにヴェールを脱いだエンキ・ビラルの最新作にして監督第三作映画。予告を観たときには一抹の不安がありましたが、やっぱり幻視者エンキ・ビラル作品ですよ! いや、予告の仕方が下手なんです。キャラクターなんてなまじ宣伝しないで風景だけ映せばいいじゃん、とか極論したくなるほどに、ビジュアル先行型の映画というのが正しいのかも。
 いきなり予備知識なしで観た人は、ホルス神って何した人? ニコポルって何した人? 何なのあのB級怪物は? 等々「?」が頭上を飛び交うかもしれません。実際「説明」していないので、ある種の推測でしか捉えられないことも多々あります。が、そこは、感覚的に理解できればよいのであって、要はこの世界表現をあなたは好きか否かということが重要なんじゃないかなあ。あのレトロフューチャーな建造物、色使い、質感、あの全体を流れる繊細な映像のトーンだけでわたしは大大大満足です。

 生身の人間とデジタルキャラの合成は不思議なバランスで映像に溶け込んでいます。デジタルキャラだけを取り出すとなんとなくチープな感じがするのだけれど、映画全体の中では、違和感なく、逆にあのマット感が誰かの夢に入り込んだような感覚を引き起こしている感じがしました。神秘な女性ジル役のリンダ・アルディは不可解で無垢な存在を見事に演じているし、ニコポルは唯一人間らしい表情をするキャラであり、クールな世界でトーンを乱すことなく感情を表現し、直接は表現されない過去の反体制リーダーとしての情熱をも内面に感じさせるトーマス・クレッチマンははまり役。(『ブレード・ランナー』のハリソン・フォードを彷彿させます。)

 見終わった直後は正直情報量が多すぎて3食いっぺんに食べてしまって胃もたれしたような感覚がありましたが、反芻の楽しみとはまさにこのことですね。ボードレールが繰り返し引用され、『未来世紀ブラジル』へのオマージュもあり、ビラルが展開する「幻」に酔っています。

 尚、この作品のVFXを担当したフランスのデュラン・スタジオは、ジュネ&キャロ監督の『デリカテッセン』、『ロスト・チルドレン』はじめ、『エイリアン4』『ジャンヌ・ダルク』『アメリ』『ジェヴォーダンの獣』等、知る人ぞ知る名だたる作品を手がけるヨーロッパの工房。



『イノセンス』
 今年最大の衝撃作。(実際この規模の衝撃は数年に一度しか有り得ないです。)
 映画『GHOST IN SHELL/甲殻機動隊』から9年。実写『アヴァロン』を経て、押井の最高傑作がここにある、と個人的には思ってます。
 『GHOST IN SHELL/甲殻機動隊』の続きとしての部分を継承しながらも、『イノセンス』という独自の作品世界を作り上げています。続編ということで、キャラクターや電脳といった世界設定を説明する必要がないのはアドバンテージだし、逆に執拗なほどに説明することを避けた上で、引用と映像のみで語らせている気がします。
 引用が鼻につく、という人もいるだろうなあとは思いますが、わたしてきには、引用が想起させる奥行きの広さと深さがあってこそはじめて、目の前のスクリーンの世界がただのフィクションではなく、我々の生きている世界の人間の営みとのつながりが感じられ、意味付けがされるような気がします。(ハリボテに引用を使っているのとは訳が違う。)
 人間と人形と動物、身体と魂、あるいは、アイデンティティ。
 いろいろと思うところはあるのだけれど、観た後ぼろぼろ泣いていたあの衝撃から少し時間を置いてから振り返ってみると、自分の中に特大の澱を残しているのは、バトーでも素子でも人形でもなく、択捉というあの圧倒的な”都市”の描写という気がします。

 「生命の本質が遺伝子を介して伝播する情報だとするなら、社会や文化もまた膨大な記憶システムに他ならないし、都市は巨大な外部記憶装置ってわけだ」

 黄色い霧の中、宙に浮かぶように天にそびえるゴシック建造物の群れ。あの底も輪郭もぼやけた空間に、所々に塔が浮かび上がっている様は、サイバー・ネットのイメージとダブルとも言えるのかな。あの黄色い雲の中に身を躍らせたい衝動に駆られます。(それは決して飛行機の上から飛び降りたい願望ではないことをわかってもらえるだろうか。)"Follow Me"の先にある世界へ、なのかもしれないし、あるいは、結局のところ自分は『天使のたまご』に還っていくのかもしれません。

 択捉のみではなく全編通して、風景は単なる添え物ではなく、ある主体的な意味合いをもっているので、風景映像を音楽で綴ったDVD『イノセンスの情景Animated Clips』はまた格別。(わたしてきには美しくも極めて危険な映像集だったりします(^^;。)



『オーシャン・オブ・ファイヤー』Hidalgo
 『ロード・オブ・ザ・リング』ブームにあやかって大々的に宣伝されているヴィゴ・モーテンセン初主演映画ですが、視覚効果バリバリのアドベンチャー大作という雰囲気ではなくて、意外と地味な佳作系という気がしました。ジョー・ジョスティン監督は『スター・ウォーズ』『レイダース』の視覚効果や『ミクロキッズ』『ジュマンジ』『ジュラシック・パークIII』の監督といったイメージだけでなく、『ロケッティア』『遠い空の向こうに』のイメージももっておくべきでした。もちろんお金はかかっているし、映像に迫力は十分あるけれど、誇張しすぎていないところがいいです。

 数々の長距離レースで勝利をおさめる伝説的なムスタング(野生馬)ヒダルゴとカウボーイのフランク・ホプキンズ。しかし自分が運んだ文書をきっかけに目の前で先住民が皆殺しにされる様を目撃し、消せないトラウマをかかえたフランクはウェスタンショー一座のメンバーに身を落とす。酒浸りのフランクの前に、アラブの族長の副長が現れ、「世界最高」を名乗るならば、族長が主催する砂漠を超え3000マイルを踏破するレースへ挑戦しろ、と迫る。仲間の集めたレース参加費を手に、フランクは自分の出自と誇りをかけてレースに挑む。

 白人の父と先住民の母を持ち、その出自を隠して生きてきたフランク。寡黙でストイックなカウボーイを、ただかっこいいヒーローではなく、一人の人間として描かれ、演じられているところがグー。”アラゴルン役の”という形容詞がどうしても先行してしまうヴィゴ・モーテンセンですが、注目される次作が彼の人となりがよくあらわれているこの作品でよかったんじゃないかなあ。まあもちろん私も”アラゴルン役の”という先入観や興味なしでは観れないわけで、派生的に笑えてしまったところもなかったわけではありませんが、でも、やっぱり最後のヒダルゴとフランクのゴールシーンには、思わず手を叩きたくなる程作品世界に入り込んでました。実は主演は馬という気もしますし〜。

 厳しい表情の影で、実はカウボーイファンで米コミック好きの族長というちょっとお茶目な役で存在感を示しているのは、『アラビアのロレンス』のオマー・シャリフ。72歳という年齢はまったく感じさせませんねえ。

 実話に基づくけれど映画として出来上がった作品はフィクションでありファンタジーであるので、多大なリアリティを期待されても困ります。砂漠のサバイバル・レースだけど、スペクタクルアドベンチャーを期待されても、ちょっと違います。ヒダルゴという馬と、フランク・ホプキンズという一人の孤独な男とそれを演じるヴィゴ・モーテンセンという一人の俳優に興味を持ってみてもらえたら最高です。(若干長いとは思うし、私がトム・クルーズに感情移入できないように、ヴィゴ・モーテンセンなんてどーでもいい、という人ももちろんいるとは思いますが・・・。)



『レジェンド・オブ・メキシコ』Once Upon A Time In Mexico
 やっと公開ですね〜>ジョニー・デップ最新作。
 「デスペラード」シリーズ第三弾、と言っても、前作を観ていなくても大丈夫。前作との間に挟まれたエピソードがあって、それを説明することで、主人公の置かれた状況はちゃんとわかるようになってます。

 CIA捜査官サンズはメキシコ大統領暗殺&クーデータ計画を指揮するマルケス将軍を暗殺する腕利きの殺し屋を探していた。情報屋から聞き出したのは”伝説”の殺し屋エル・マリアッチ。殺し屋稼業から足を洗っていたエルだが、ターゲットが妻カロリーナと娘を殺したマルケス将軍ときかされ、仕事を引き受ける。しかし、サンズの狙いはクーデタ計画の裏で糸をひく麻薬王バリーリョがマルケス将軍に支払う巨額の"報酬"。幾重にも絡め手を用意し、状況をコントロールしていると自負するサンズだが、予想外の罠が・・・。

 映画の脚本としては、たいして複雑ではない設定がなんでこんなにわかりにくいの?って感じで、けっして良い出来ではないと思うし、主人公よりサブキャラが意味なくでばっているし、多分ロドリゲスファンなら迫力のガンファイトが少ないし、もっと盛り上げてくれ! と感じるのではないかと。
 でも、あなたがジョニー・デップ目当てに見るのなら、「オッケー、オッケー!」なこと請け合い(笑)。設定としてのサンズってキャラは極めて嫌な男のはずなんですが、監督も認めている通り、ジョニー・デップが演じることで、なぜか憎めないキャラになってしまっています。子供に助けられ、しかもその子の心配までしちゃったら、ダメじゃん。ラストのクライマックスでは主人公のエルを食ってしまったような・・・。”主人公がかっこいい映画”の演出としては場違いなんだけど、予想外の動きをするサンズから目が離せない、という逆効果はありました(笑)。サンズを主人公に続編を、という声があがるのはよくわかるわ〜。

 小ネタ的な楽しみとしては、サンズの"Savvy?"というせりふに勝るものはありませんが(笑)、その他には声で一目瞭然のジョニー・デップ扮する神父とか、CIAとプリントされたTシャツとか、ラストのあの腕はどこから? とか(^^;。
 『デスペラード』で出演していた役者が違う役でまた出演しているのもご愛嬌。
 音楽はラテンのりでGOOD! ジョニー・デップやアントニオ・バンデラスも作曲に参加していますが、サントラを聞いてあれこれ想像していた部分に映像がのるとやっぱり楽しい〜。そうそう、エルの相棒の一人で、ステージで歌とキスで金稼ぎしていたロレンゾ役の人は、あの「ナタリー〜」で一世を風靡したフリオ・イグレシアスの息子だそうな。



『マスター・アンド・コマンダー』Master and Commander
 19世紀初頭、ナポレン率いるフランス軍に抵抗する大英帝国海軍。”Lucky Jack"と呼ばれる名艦長ジャック・オーブリーが率いるサプライズ号は、フランス軍のアケロン号を拿捕するという命につくが、船の性能はアケロン号が圧倒的に優位。劣勢の戦闘からなんとか逃げ切ったサプライズ号だが、それでも尚アケロン号の追跡を選択したオーブリー。しかし、行く手にはさまざまな困難が・・・。

 『いまを生きる』『トゥルーマン・ショー』のピーター・ウィアー監督はリアリティ追求に苦心した、というだけあって、迫力の歴史大海洋アドベンチャー。ガラパゴス諸島の映像も美しく、やや長いとは感じるものの約2時間半きっちり楽しませてくれます。見終わって「陸が恋しい」と感じるくらい帆船航海を満喫した気分になりますね。
 確かにこれだけの映像を違和感なく作り上げたのはすごいと思うけれど、でも、どこをとってもそこそこ及第点となると、意外性や衝撃には欠けるわけで、一点加点主義の傾向にあるらしいわたしてきには、「これだ!」と揺り動かされるものが見つかりませんでした。原作はもっと深みのある語りなんだろうなあとは想像しますが、あいにく未読なので、ストーリーとしてはきわめて模範的というか、振り返ると凡庸にみえてしまうのですよね。
 はずれではないけど、当たりとも言いがたい。

 ちなみにこの映画、今映画界でホットなオセアニア地域にゆかりが多いですね。オーストラリア生まれの監督に、主演はニュージーランド出身のラッセル・クロウ、そして、サプライズ号の8Mの縮小模型は、ロード・オブ・ザ・リングでおなじみのニュージーランドのWETA社製だそうです。



『ラストサムライ』THE LAST SAMURAI
 正直そんなに期待していなかったのですが、なかなかよくできた映画です。
 トム・クルーズ演じるオールグレン大尉は南北戦争の英雄だが、先住民族を虐殺した悪夢を振り払おうと酒びたりの日々。彼は、明治維新直後の近代国家をめざす日本の武器市場に目をつけた武器商に雇われ、”教官”として海を渡る。日本政府のお雇い外人の彼が敵として対峙したサムライはかつて天皇の養育係であり、元老院にも名をつられる勝元(渡辺謙)だった。戦いに破れ、勝元の捕虜となるオールグレンは、かくれ村の生活を通じ、武士道に心を通わせるようになる。

 オールグレン大尉が時代背景や文化背景を説明する指南役として物語がうまくすすめられていて、理解する過程に必然性が感じられる物語というところはポイント高いです。日本人以外の観客にサムライをきちんと語りたいという製作側の熱意が感じられます。(日本人だって現代の価値観からすれば、隣でいきなり腹切されたりしたら異星人にしかみえないわけですしね。)トム・クルーズも人一倍熱心に取り組んだというのは、演技を観るとよくわかります。若干、長めには感じられますが、静と動を意識した流れはよくできているなあと思います。

 アカデミー助演男優賞ノミネートで話題となった渡辺謙ですが、さすがさすが。私には”主演”にしか見えません(^^;。侍が英語をしゃべるのに違和感、という人もいるかもしれませんが、まあフィクションキャラですし、地位的にもその気になれば学ぶことは可能だったと、ということにしておきましょう。日本語での演技なら、せりふにももっともっと深みが出たであろう、とは思いますが、それでもあれだけの怪演を見せつけてくれるわけで。すごいです。
 今回、あまり目立たない真田広之ですが、戦いを前に舞を舞うシーンには圧感ですね。

 また、最後の戦いのシーンは迫力満点なので、これだけでも大画面で観るべき価値があるというもの。伊達にお金かけてません。静かに泣きました。

 全体としてはOKと思うので、多少の疵には目をつぶりたいと思います。(富士山大きすぎとか、山並みが霧降山脈に見えるとか、吉野の山にその植生はありえないとか、横浜港から皇居が近すぎとか、あえて文句は言わない。。。)それを補って余りある映像をみせていただきました。

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