2001年7月



『チェンジリング 碧の聖所』妹尾ゆふ子 ハルキ文庫
 『チェンジリング 赤の誓約』の続編。
 <取り替え子(ファーガロホ)>の美前は、故郷の異界<輝きの野(マーク・ソルシュ)>にたどりつく。が、大いなる力が秘められた美前の存在は、母である<女王(バンリーン)>と感涙の再会を期待できる立場ではなかった。彼女の周囲で戦いが起こり、この世界の成り立ちの真実を聞かされ、美前はどう行動すべきなのか。迷いの果てに<女王(バンリーン)>と対面することを決意するが・・・。

 異界<輝きの野(マーク・ソルシュ)>の仕組みはなかなかに凄まじく、「妖精の国」、「ファンタジー」、とあなどっていると足下をすくわれます。神話、伝説、伝承の裏読みを楽しめる人には、ぜひおすすめのスケールの大きい設定。惜しむらくは、あくまで「美前の物語」なので、壮大なバロック的な展開がいよいよ!、というところで、大きな絵の扉は閉じられてしまい、あとは読者の想像におまかせします、というくくりになっているところですね。私としては、こっちの絵巻物語の方を微に細に読みたかったんですが。

 結局のところ私は主人公美前を最後まで好きになれなかったわけで。(それは、自分の美前的な部分が嫌いだ、ということなのだと思うけれど。)ごひいきはマァハですねー。彼女の絶望的なまでの剛さにはひかれます。彼女に宿った「神」が出てきて歌い、踊るシーンは絶品です。アェドは予測がつくいい人ぶりがいまひとつ燃えません。やっぱりミーハーしたくなるキャラといったらコンラでしょう(笑)。

 ラストについての感想はネタバレになるので読了の方のみこちらをどうぞ。



『ホテルカクタス』江國香織 ビリケン出版
 江國香織はもともと好きな作家ですが、これは装丁買いと言っていいでしょう。まず佐々木敦子の素敵な表紙絵に惹かれました。中も挿し絵満載で、画集といっていいくらいの分量です。古びた洋館の建物、特に階段と踊り場の絵が多いのですが、やわらかい洗練された色遣いはもろ私好み。

 物語はホテルカクタスという名のアパートに住む3人のお話。きちょうめんな数字の2と健康的でまっすぐなきゅうり、そしてハードボイルドを節としている帽子。一つのことに対しても反応がまったく違う三人。三人三様のエピソードが時にユーモアに時にもの哀しくおだやかに語られてゆきます。

 大人の童話、という雰囲気。この場所が心地良いのは悪意が出てこないからですね。けっして甘く優しいだけの物語というわけではないのだけれど、この切り取られた時間のはじまりとおわりのある物語は、そっと羽を休めたい空間かもしれません。何かに疲れている人にもお勧め。

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