『ウィーン薔薇の騎士物語4 奏楽の妖精』高野史緒 中央公論新社Cノヴェルス
お待ちかね美少年美青年がぞろぞろでてくる薔薇騎士シリーズ第四弾。
今回は夏のヴァカンス・シーズン。金なし家なしのフランツくんの元へ、ベルンシュタイン公国からのご招待が舞い込んできます。なぜか”ルドルフ・レーガーさん”が同行することになりますが、それに加えてお城に着くとあのクリスタ嬢までいたり・・・。幻の名器との御対面あり、殺人事件あり、色恋沙汰ありと今回もまた騒がしくも華やかな物語が展開します。
すっかりキャラクターがたってきているので安心して読めますね。かる〜いノリにもかかわらず、舞台描写にさり気ない蘊蓄がうかがえるところが非常に心地よいところ。ベルンシュタイン公とルドルフの会話なんかもいいですねー。しかし、トビアスのお手紙のノリはちょっとわたしにはついていけないかも。
さてさてフランツくんはこのあとどう成長してゆくのでしょうね。なんかシリーズらしい楽しみが出てきた感じ。私はルドルフ兄ちゃんがでてくればそれだけで満足ですけどね(笑)。
あ、高野史緒ファンはあとがきだけでも必読です。
『チェンジリング 赤の誓約』妹尾ゆふ子 ハルキ文庫
<妖精>が見えてしまうOL美前は、そのおかげでいつもこの世界からの疎外感を感じていた。
携帯への無言電話に悩まされる美前の周りでは不可思議な出来事が次々と起こり、それは美前をターゲットとしていることが判明する。金髪の少年に守られながら逃避行を続ける美前は、この世界に別れを告げ、本来属していた異界へ行くことの決断を迫られるが・・・。
現実世界から異界へとどう物語を移行させるかというところで、周囲の者が主人公について語るインタヴュー形式を取り入れているところはおもしろいです。どうせなら、主人公自身による心情描写は一切なしにして、行動のみ描写する方式でもよかったかなと思いますが。美前の「今の自分でいるのは嫌いだけれど、よくわからないところに行くのはもっとイヤで、このままほっておいてくれ」というのは自然な反応だろうとは思いつつ、それにしても彼女の全てにおけるネガティブ思考には私はいらいらさせられたもので。
終盤異界色が濃くなってくると俄然断然盛り上がってきて、異界の扉が開くシーンの描写には「これが読みたかったんだ!」という感じですね。おもいっきり「続く」な終わり方には、「早く続きが読みたいーーー!」と叫びたくなります。
『NOVEL21 少女の空間』デュアル文庫編集部 デュアル文庫
「新世紀をつげる、ハイブリッド&クロスオーバー・エンタテイメント・アンソロジー」と背表紙にうたわれていますが、よーするに、ジャンルミックスととらえてはいかんのかしらん。って、対になっている『NOVEL21 少年の時間』を読むべきか(^^;)。
例によって、私は青木和(『イミューン ぼくたちの敵』『憑融』)目当てで買いました。「死人魚」は、ハイキングに行って閉じられた空間に迷いこんでしまった記憶を主人公が語るという物語。題材的にはもっともっとおどろおどろしく書けそうですが、この作者は淡々と仕上げるのですね。私はこの淡白なところが好きなのですが。灰色の光景の中で、ぽっと、赤い合羽、赤い月と出てくるところが効果的。
小林泰三の「独裁者の掟」はSF味と最後の泣かせの一行がいいです。読んでいるうちにずるずる引き込まれたのは、篠田真由実「セラフィーナ」。梶尾真治の「明恵の夢想時間」は、『クロノス・ジョウンターの伝説』の世界の物語で、P・フレックスでは、<<クロノス・ジョウンター>>とは別のアプローチで時間旅行を可能とする<<クロノス・コンディショナー>>の開発を行っていたという設定。人がやり直したいと願う瞬間というのは、案外こういう些細なことなのかもしれません。しかし、読みながら「中学時代を振り返るなんてまっぴらごめん」という感情が先に立つ私はまだまだ修行が足りません。
『詩人の夢』松村栄子 ハルキ文庫
『紫の砂漠』の続編。続編が出るとは思っていなかったのでびっくりしました。
前作のラストで私が「壊してしまいたい」と思った世界の土台を作者は一旦ゆるがせてみせます。禁忌であった砂漠は解放され、シェプシは<<最初の書記>>の日記を訳すことを強いられ、その結果、知識と引き換えに書記たちは<<聞く神>>を失うことになります。天災に見舞われ、巫祝と書記たちとの対立が深まり、渾沌とした世情の中、詩人となることを選んだシェプシも、激動の波に飲まれてゆきます。
一人の人間としてあの詩人の心に近づくこと、許されることを求めるシェプシと、人の心とは操るものだという視点をもつ書記の指導者メセジェルと、レベルの異なる世界観を平行させて物語は展開してゆき、その二つをつなぐものとしてあの詩人がでてきます。生身の詩人の夢は明らかにシェプシの視線と同じものでしたが、詩人の死によってもたらされたものはメセジェルの視点に持ち上げられ、それを形にしてしまうのが、追放された書記シェサです。
シェプシに同調している一部の自分としては承服し難い、けれど、一方でシェサの「神とは何か?」という思想に惹かれる自分がいます。仮説を実験する場があるのであれば、とことんやってみればいいと。
シェプシに対する救いはラストに用意されていますが、これまたアンビバレントな感情なのですが、めちゃめちゃロマンチックな部分にのせられてしまう自分と、「ああ、結局こういう話なのか」と寓話性が剥ぎ取られたところを凝視してしまう自分がいます。寓話的といえば、この物語全体は、一見大きな世界の話のようで、実はとても箱庭的な感じもしました。
渾沌とした状況の打開の鍵となった「神の子」たちは、やがていつか、今度は別の問題の元となるような気もしますが、まあそれは別のお話ということで。
『紫の砂漠』とこの作品はぜひともセットで読んでほしいです。でもって、大切なのは、答えを「ねだること」ではなく、「自分で探すこと」なのだと思います。